16歳⑵


 交番を出ると、女の子のお母さんがこちらに向かって歩いていた。


 わたしは目を丸くする。彼女の後ろには、死神がいた。黒崎くんは相変わらずポーカーフェイス。


 親子はカップルにお礼を言って帰っていった。


「…あの子大丈夫かな」


「…大丈夫だろ。親と一緒だし、警察もパトロールするって言ってたから」


「だといいけど…」


 カップルの横を通った時に聞こえた会話。


 大丈夫だけど、大丈夫じゃないから、とても苦しくなった。


「お母さん、ごめんね。身体しんどいのに迷惑かけちゃって」


「気にしないの。お母さんは、あんたの為にいるんだから。…電話で話は聞いたけど、その…、まだいるの?」


「…ううん、もういないよ。見えないもの見えちゃったみたい!」


「そっか、怖かったね」


 母は娘の頭を撫でる。


 本当は見えているのに、見えないと言った女の子。母を思ってのことだと、すぐに理解した。


 わたしはふと思う。


「…お母さんには、わたしたちが見えてないの?」


「…本当なにも知らないんだな。僕らは、担当する奴にしか見えない。だから母親には僕らが見えてないし、女の子には母親の死神は見えてない」


「そう、なんだ…」


「私語は慎め」


 お母さんについている死神から、注意を受ける。


「私語ではありません。教育です」


 黒崎くんは反論する。その声が、少しムスッとしているように聞こえた。


 お母さんの死神は、わたしたちを一睨みしてかれ、彼女に視線を戻した。


「ムカつく奴」


 ボソッと呟く。


「ん?」


「なんでもない」


 珍しく黒崎くんが感情を出している。


 あの人となにかあったのかな。聞いてみようかと思ったけど、今は仕事中だし、さっき注意されたばかり。


 第一、彼が答えてくれるわけがないだろうと思い、諦めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る