ダクトを抜けて
「なあ、おい……。
なんだって、オレたちがこんな真似しなきゃいけねえんだあ?」
ジョグがいるのは前方だが、何しろ四方を金属に囲まれた空間なので、声が反響する。
よって、最前列を行くユーリちゃんは当然として、後方を進む俺にも、その文句はきっちりと届いていた。
「男子でありながらグチグチと……。
それでも、宇宙海賊スカベンジャーズのキャプテンですか?」
「お前……それを引き合いに出せば、オレがなんでも言うこと聞くと思ってねえか?」
「おや、バレてしまいましたか。
どうやら、思ったよりも頭に血は巡っているようですね。
いや、ある意味、見た目通りというべきでしょうか」
「てんめえ……」
囚人服に下ろした赤髪という『パーソナル・ラバーズ』ではお目見えされなかった姿のジョグが、振り向いてこちらに睨みを効かせる。
だが、そんなものを意に介すこの俺ではない。
「なんですか?
どうやら、ご主人様に対する礼儀がなっていないようですね?」
ばかりか、ますます挑発してやった。
いや、自分でもなんでそうなのかは分からないんだけど、こいつに対してだけは、憎まれ口や煽り文句が次から次へと湧いて出るんだよね。
多分、接触通信時の会話でわたしのことをブス呼ばわりしたり、あり得る――ゲームの個別ルート――未来では、フレッシュトマトに加工してくれやがるのが大きいんだと思う。
「二人共、こんな狭苦しい場所で元気ですね……」
止まって言い合う俺たちに対し、先頭のユーリちゃんが、やはり前進を中止して苦笑いする。
ちなみに、相変わらず俺と同様のミニスカセーラー服姿をしている彼女だが、スカートの下にはスパッツを履いているので色んな意味で安全だ。
俺の方は別にそういう防御をしていないので、注意しなければならないだろう。
とはいえ、今この状況ならば、そこまで心配する必要はない。
何しろ、今通っているこの空間は、俺たちのような子供が、しかも四つん這いとなってようやく通れるような狭さであり……。
前を行くユーリちゃんとジョグの他に、同行者などいないのだから。
「――けっ!
スカベンジャーズのキャプテンらしくって言うならよ、それこそ、堂々と正面から突破させろってんだ。
何が悲しくて、こんなエアダクトの中なんぞ通らなきゃいけねえんだよ」
ジョグが不満げに漏らした通り……。
現在、俺たちチビッ子三人組が四つん這い状態となって移動しているのは、エアダクトの中であった。
上も下も右も左も薄っぺらい金属で覆われた空間……ステルス要素のあるゲームだと定番のシチュエーションだが、自分でやってみると、かなりのストレスを感じるね。
ジョグに対する当たりの強さは、そこら辺も原因であるかもしれない。
「ヤクザとニンジャが警備している中へ、真っ正面から突入するのは下策中の下策です。
『生徒会』の皆さんがいるとはいえ、損害は少ないに越したことはないですからね。
それに、正面から大暴れして勝てたとしても、PLを持ち逃げされたんじゃお話になりません」
こちらを睨むジョグに対し、挑発的な笑みは崩さないまま正論をぶつけてやった。
「敵の手中にあるPLを奪い返す。
カトー一派へ逆襲するにあたって、これは必須です」
そうなのである。
俺とて、何も好き好んでこんな狭苦しい場所をハイハイしているわけではない。
そうする理由は、ただ一つ……。
ここが、チューキョー外壁部に存在するPL用整備ドックのエアダクトだからなのであった。
「小柄なボクたちがエアダクトから潜入し、整備ドック内にあるPLを奪い返す。
確実にPLを取り返すなら、確かに一番の方法ですが……。
豪胆というか、なんというか」
やや呆れ顔となるユーリちゃんだが、最後まで猛反対したエリナと違い、俺を咎めるようなことはしない。
これが最善の方法であると、理解しているのだろう。
「――ケッ!
まあ、オレとしても、カラドボルグをパクられたんじゃたまらねえからなあ……」
「勘違いしないでほしいのですが、カラドボルグはわたしの所有物です。
あなたには、貸与してあげるだけだということを、お忘れなく」
「――ハッ!
あの機体を操れんのは、宇宙でこのオレだけだよ。
トーシロが乗った日には、加速へ振り回されて満足に操縦することもできねえさ」
「ぐっ……」
悪かったな。加速へ振り回されて満足に操縦できなくて。
しかし、その事実を知られるのはしゃくなので、あえて反論することはしなかった。
「さ、あまり無駄話をしていては、気取られてしまうかもしれません。
先を急ぎましょう」
「しょうがねえな……」
「了解です」
キキョウさんが用意した内部構造図を記憶している――すげえことしてんな――ユーリちゃんが、前進を再開する。
口論を止めた俺とジョグも、それについていき……。
やがて、俺たちは目的の場所へと辿り着いたのであった。
--
「やはり……ここは別格の警備が敷かれてますね。
ニンジャが三人と……ヤクザが大勢います」
ついに辿り着いた目的地――PLの整備用ドック。
そこへ続くエアダクトの出口へ辿り着いたユーリちゃんは、あちら側の様子を手短に後ろへ伝えてきた。
「……って、言われても、よく分かんねえな。
ちょっと、オレにも見せてみろよ」
「わたしにも見せてください。
大切なリッターにおかしなことをされてないか、気になります」
「わわ、ちょっと」
子供の体格とはいえ、何しろ狭苦しいダクト内部だ。
俺とジョグまでもが前に出ようとすれば、当然ながら、くんずほぐれつの押し合いへし合いといった状態になる。
「ちょ……お嬢様、あまり顔を押し付けないで下さい」
「でも、こうしないと見れないですか――キャッ。
ちょっと、どこを触っているんですか!?」
「だーっ!
てめえまで、一緒に前へ出やがるからだろうが!」
「そう言いながら手を動かそうとしないで下さい!
スカートがめくれちゃう!」
「お、おお……すまねえ」
「二人共、バレちゃうから静かにしてください……!」
もちろん、警備する連中にバレないよう声のトーンは落としてあるが、騒がないのが一番だ。
俺は、とりあえずキッとジョグを睨みつけた後、格子状をしたダクトの隙間から外の様子をうかがった。
「出口があるのは……通路から二メートルくらいの高さですか。
ジョグ君を先に行かせて、踏み台にすれば問題ないですね。
くれぐれも、上は見ないようにしてください」
「絶対に見ないでくださいね」
「まあ、そりゃいいけどよ……。
先に気にするのは、どうやってPLに乗り込むかじゃねえかあ?」
俺とユーリちゃんに揃って言われたジョグが、ふてくされた様子であちらの状況を伺う。
内部に格納されているPLは――三機。
リッター、ミストルティン、カラドボルグだ。
リッターとカラドボルグがいるのは、トリモチを取り除くために、輸送船よりも設備が整っているこちらを使わせてもらったから。
ミストルティンまでいるのは、その後に行ったカラドボルグのテストへ付き合ったからである。
結果として、クサナギ以外の機体はまとめて取り返せる状態なので、これは都合が良かったというべきだろう。
で、メンテナンスアームがコックピットまで伸び、いつでも搭乗可能な状態のPLが待機する中……。
ステルスゲームの雑魚敵がごとくうろついているのは、少数のニンジャと大勢のヤクザたちであった。
「手筈通り、わたしがこれで連中の注意を引きます。
その後は、ユーリちゃんがミストルティン、ジョグ君がカラドボルグへ乗り込んで、生身の敵たちを蹴散らしてください。
わたしは、それを待って自分のリッターへ乗り込みます」
「うわっ……! モゾモゾ動くな!」
ジョグの文句は気にせず、俺がスカートから取り出したもの……。
それは、自分の携帯端末である。
表示しているのは、ペア接続の設定画面だ。
接続先は当然――リッター。
--
近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093086908440097
そして、お読み頂きありがとうございます。
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