惑星オロッソの反乱
歴史を振り返れば、平民が貴族に対し乱を起こす理由など、古今東西、どの国においても相場が決まっているものであり……。
地球を遠く離れた銀河帝国辺境部の惑星――オロッソで起きた反乱もまた、それら過去の事例と同じ、ごくありふれた理由で起こったものであった。
すなわち――重税に対する反発だ。
オロッソを治めるのはターブ騎士爵なのだが、これがもう、フィクションでもなかなかお目にかかれないような人物である。
なぜ、お目にかかれないのか……?
その理由はといえば、簡単だ。
あまりにも愚かすぎて、リアリティがないからである。
まさに、無知蒙昧にして強欲の――化身。
空気から、水に至るまで……。
あらゆるものに対して税金をかけ、私腹を肥やしてきたのであった。
税というものは、本来、それを納めた民たちの生活を向上させるために使われるもの……。
それを、ろくな政策もなしに吸い出すだけ吸い出すでは、たまったものではない。
――おれたちは、豚を太らせるために働いているわけじゃない!
――無能な貴族を倒して、人民による自治を獲得するのだ!
かくして、怒りに燃える民たちの中からレジスタンスが生まれ、ターブ騎士爵に対して反旗を翻したのである。
とはいえ、通常、このような反抗運動というものは、簡単に潰されるものだ。
なんとなれば、乱を起こされる領主側は、不当に蓄えた財によって、軍備を整えているのが通例だからであった。
そうして用意した兵器の中でも、とりわけ、PLの戦闘力というものは隔絶しており、民間人が密かに用意できる程度の重火器など、なんの役にも立たない。
むしろ、集団としてまとまるのは――好都合。
現代兵器によって、反抗分子はまとめて叩き潰し、民たちへの見せしめとする。
外部の風聞など、気にする必要もない。
何しろ、惑星そのものが悪徳領主の掌中にあり、内外を繋ぐ宇宙港なり軌道エレベーターなりも、その監視下にあるのだ。
銀河ネットも、気に入らぬ内容のものは検閲により遮断できるし、自身が治める惑星内から銀河に行う発信も、封鎖は簡単であった。
つまり、実際には地獄のような統治が行われていたとしても、外部に対してはごく普通の治世が行われているように見せかけることは、極めて容易なのである。
宇宙空間という、絶対的にして進出が容易でない空間を領海としているのに加え、政治形態が封建主義へと逆行している銀河帝国時代だからこそ、起こり得る現象であるといえよう。
と、いうわけで、いかに領民が奮起しようとも、貴族の前には無力だったのが、一昔前までにおける銀河の状況だったわけだが……。
今、その常識は崩れ去っていた。
なぜか?
他でもない……。
反抗勢力側にもまた、最強兵器たるPLが渡っているからである。
と、いっても、現行の主力量産機たるリッターが渡っているわけではない。
俗にヴァイキンなどとも呼ばれている非正規の密造PLであった。
旧式機のフレームを流用して密造されたこの機械は、徹底的な分解を施した上で、何度もかけて惑星外から持ち込み、惑星内で再度組み立てることにより、レジスタンス側に相当数が渡ったのである。
検閲をかけているとはいえ、所詮は愚鈍な領主に仕える職員たちであり、しかも、鼻薬――裏金――が効果抜群だったからこそできた密輸方法であるといえるだろう。
何者が、そのような便宜を図ったのか……?
それは、機体を受領したレジスタンス側にすら、判然としない。
ただ、一つだけ確かなのは、これによって、豚のごとく肥え太った憎き領主に対する反抗手段が手に入ったということであった。
そこからの戦いは、泥沼だ。
レジスタンス側が採用した主な戦術は――テロ。
ターブ騎士爵へ仕える高官などを対象に、ヴァイキンによる襲撃行為を繰り返したのである。
そういった人間が滞在するのは、おおよその場合、惑星オロッソにおける富裕層が集まる地区なのであるが、そういった人間の巻き添えを気にすることはしない。
この惑星における富裕層とは、すなわち、ターブ騎士爵へすり寄ることによって利益を得る取り巻きたちに他ならぬのだから、レジスタンスからすれば同じ穴のムジナであるのだ。
襲撃した後は、即座に撤退。
性能で勝る騎士爵軍のリッター相手に、大立ち回りをするような愚は冒さなかった。
しかも、このような襲撃行為を、アースサイズの惑星内で散発的かつアトランダムに実行し続けたのである。
オロッソの総人口は、一億に足りるかどうかというところ……。
人口に比してあまりに広大な惑星の大地には、いくらでも隠れ潜む場所が存在した。
しかも、騎士爵軍の戦力は搾取により通常以上の拡充を果たしているとはいえ、リッター一個中隊程度でしかない。
捜査は難航し、幾度もの襲撃と破壊が繰り広げられる。
だが、かように大々的なテロ行為を繰り返しているのだから、レジスタンス側の隠密行動にもいずれ限界は生じた。
結果、ついに騎士爵軍は、レジスタンスの本拠地がさる廃工業地帯にあることを突き止め……。
そこを舞台とした最終決戦の幕が、ついに上がったのである。
戦況は、騎士爵側が――やや有利。
レジスタンス側は、工業地帯内の各所に用意したブービートラップや砲台で応戦したが、そのようにやわな工夫でどうにかできるほど、リッターというのは甘い機体ではない。
右腕部へ装着する形式の大型ビームライフルが火を吹けば、荷電粒子の光条がちゃちな防衛施設をたちまち焼き払った。
PL同士の戦いにおいては、より性能差が際立つ。
メインウェポン一つとっても、ヴァイキン側は旧式の腕部一体型マシンガンであり、相応の連続射撃を浴びせなければ、リッターの装甲を貫くことができない。
対して、リッター側のビームライフルは文字通り一撃必殺なのだから、これはもう勝負になってないといっていいだろう。
その上、機体本体の性能もリッター側が圧倒的に勝っており、より高性能な重力コントロールシステムに裏付けされた立体的かつ軽快な機動で動き回るのだ。
大切に扱い整備してきたヴァイキンたち……。
レジスタンスにとっては、鋼鉄の守護神がごとく思えてきた機械兵たちが、次々と打ち倒され、倒れていく……。
サブマシンガンなどを手にし、地上からそれを見上げるレジスタンス構成員たちにとって、これは絶望の光景であった。
――神はいないのか!
――おれたちを助けてくれる存在はいないのか!
そのような想いと共に、空を見上げる。
すると、それは姿を現したのだ。
宇宙から大気圏内に入り、雲を割って降りてきたのは、巨大な――艦船。
全体を赤く塗られたそれは、とにかく、前部に備わった砲門の数が印象的な戦艦であった。
戦艦本体の艦首部分に、改造バイクの排気筒がごとく、いくつものビーム砲が備えられているのだ。
しかも、右舷部にはサイドカーのごとく、本体のビーム砲より大口径な三連装砲を備えたランチャー・ユニットが存在するのである。
「あれは、なんだ……?」
「騎士爵側の新手か?」
「だったら、最初から投入するだろう」
呆然と見上げるのは、レジスタンスたちだけではない。
騎士爵軍側も明らかに驚きとまどっており、搭乗者の動揺を反映した敵リッターたちが、空を見上げていた。
そうしていると、宇宙戦闘機をそのまま巨大化したようなシルエットの戦艦に、変化が起こる。
ランチャー・ユニットが本体から分離し、そのまま、一個の艦艇として独立機動を始めたのだ。
明らかに、戦いを想定した動き……。
そして、謎の戦艦が見せた行動は、それだけではなかった。
大型のホログラフィー装置を起動し、大空に映像を投影したのである。
「あれは……?」
「女の子……?」
「軍服を着ているぞ……?」
レジスタンスたちが、口々に言い放ったように……。
投影されたのは、少女の映像であった。
年頃は、十二かそこらくらいか……。
顔立ちは整いつつも、猫科の幼獣めいた愛らしさがあり、短めに整えられた銀色の髪がまぶしい。
華奢な体を包みこんでいるのは白を基調とした軍服で、これは、ミニスカート型に改造が施されている。
少女の映像が、戦場を見下ろす。
そして、キリリとした眼差しでこう告げたのだ。
『わたしたちは、皇帝直属の秩序維持機構――IDOL。
これより、惑星オロッソでの戦乱に介入します』
--
近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093088522140733
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093088522188006
そして、お読み頂きありがとうございます。
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