敵の後背を突け!
「ケンジ様! 予定と違います!」
敵たちの背後から現れ、これを両断したPL……。
クサナギに向かって、俺は呼びかける。
サブモニターへ開いた通信ウィンドウに姿を現したのは、視力補助用のゴーグルを装着したケンジであった。
『済まぬな。
派手にやっているので、血がたぎってしまった』
薄い笑みを浮かべながらの言葉は、真実ではあるまい。
このままでは俺が危ういと見て、隠密行動を解いたのだ。
『なら、僕も一緒に暴れさせてもらおうかな』
通信と共に、漆黒の布へ包まれたPLが敵拠点周囲の小惑星帯から姿を現す。
その布が剥ぎ取られ、露わとなった姿は――ミストルティン。
搭乗しているのは当然、アレルだ。
「もう……作戦が台無しですよ」
危機を救われた安堵感と共に、俺はそう吐き出す。
俺たちが立てていた当初の作戦、それは……。
『前で坊やたちとわずかな手勢が暴れ、後ろではカミュ嬢が敵をかき回す。
その間に、私とアレルが偽装した自機のリアクター出力を抑えて敵旗艦に接近し、首謀者のカトーを一気に討つ。
まあ、良い作戦だと思うが、いいではないか』
オプティックなブラストとか撃ちそうな姿のケンジが、通信ウィンドウ内で快活に笑う。
『そうとも。
ここから出てくる敵をことごとく倒していけば、必然的にカトーを討てる』
同じく通信ウィンドウを開いたアレルが、そう言ってさわやかな笑みを浮かべた。
「はあ……。
つまりは、作戦になんの変更もなしということですか」
溜め息と共に吐き出すと、男子二人の笑みが、悪ガキめいたものへと変わる。
『そういうことだ』
『さあ……来るぞ』
ミストルティンが、破壊されたライフルに代わって装備したリッター用の大型ビームライフルを構えた。
そこから放たれた光条が、出撃口から出たばかりのヴァイキンへと直撃する。
『まあ、カミュ殿はここまで大活躍だったんだ。
少しばかり、僕らに手柄を譲ってくれ』
今度、アレルが浮かべた笑みは――凶暴そのもの。
輸送船が襲われた時と同じ、狩人の笑いだ。
『私にも、獲物を残してほしいものだがね』
リッターなど比較にならない機動力で敵拠点に向かうミストルティンへ、クサナギが難なく追従した。
『そこは、ほら……流れ次第だ』
『なるほど、流れ次第か』
そこからは、白き騎士と青きサムライの独壇場というしかない。
よくも、これだけかき集めたもの……。
俺を索敵するために出撃していたヴァイキンたちが、次から次へと集まってくる。
だが、こいつらなど、二人にかかれば文字通りのモブでしかない。
ミストルティンのビームライフルによる正確無比な射撃が、敵の陣形をかき乱し……。
相互支援の状態が崩れたところへ、ケンジの駆るクサナギが切り込んでいく……。
初撃は、対艦刀による一撃。
だが、それで複数のヴァイキンをまとめて薙ぎ払ってからが、クサナギという機体の本領発揮だ。
デフォルトでは対艦刀の形状をしたスマート・ウェポン・ユニットが、分割と変形を行い……。
クサナギの右手と左手に、それぞれロングソードとカタナが握られる。
敵の懐へ入った今、大ぶりな対艦刀よりも適したリーチの得物を選んだのだ。
こうなってしまうと、元が鈍重な上、そもそも近接戦闘用の装備を施されていないヴァイキンには、成す術がない。
振動粒子の輝きをまとった刃が、バターのようにたやすくヴァイキンたちの装甲を切り裂き、両断していく。
二の太刀を打ち込むような無様は晒さない。
全てが――一撃必殺。
得物の切れ味に任せ、クサナギは全ての敵機を真っ二つに切り捨てていた。
まるで、時代劇の殺陣をPLに演じさせているかのような光景……。
敵のヴァイキンたちは、さながら主演を引き立てる斬られ役だ。
敵が望まぬロールプレイをさせられている理由は、ひとえに、ミストルティンの立ち回りにある。
小型高出力の専用品からリッターの大型ライフルに持ち替えた結果、取り回しはやや悪くなっているものの、やはり、ビーム兵器の実弾兵器に対するアドバンテージは揺るがない。
有効射程外からマシンガンを必死に撃ち放つヴァイキンだが、ビームを一発放たれてしまえば、回避運動に専念せざるを得なかった。
つまり、ただでさえ劣る機動性が、さらに殺されているということ……。
そこへクサナギがすかさず接近し、自慢の刀剣でもって斬り捨てていくのである。
相手以上の射程と火力でもって、動きを抑圧していくミストルティン……。
生じた隙を決して見逃すことなく、次から次へと敵機を斬り捨てていくクサナギ……。
なんと――圧倒的なのだろうか。
確かに、両機とも現行最高水準の技術を用いたカスタム機であり、対するヴァイキンは、旧世代機を流用した……粗悪な密造品に過ぎない。
だが、圧倒的多勢に無勢をひっくり返せているのは、ひとえにパイロットたちの腕前であろう。
アレルが的確な射撃で抑え、その間髪を置かず間合いに入ったケンジが、瞬く間に敵を斬り捨てる……。
圧倒的なスキルと、瞬間的なタクティクス。
その二つが高い基準で備わった両者だからこそ、こうも一方的な展開にできているのだ。
「やっぱり、わたしとは技量が違う。
まるで割って入る隙がない」
アーチリッターを遮蔽――基地本体から切り離された廃コンテナの影だ――に隠しながら漏らしたのは、率直な感想であった。
仮に、クサナギとミストルティンのどちらかへ乗っているのが俺だったなら、連携はどこかで崩れ、敵に付け入る隙を与えていたことだろう。
このままここで、エースパイロット二人の活躍を見物させてもらうとするか……。
いや、それでは済むまい。
エースパイロットを擁しているのは、敵方も同様なのだから。
「――くる」
うなじの辺りをチリリと刺激するような感覚……。
あるいは、敵艦隊が布陣している辺りから発された圧迫感……。
それをハッキリ感じ取り、知覚した俺は、アーチリッターに左腕部のロングボウを展開させた。
アロー・ラックに残された矢も残り少ないが、出し惜しみはない。
残る三本のトリモチ矢を、次々と射る。
それらは、ミストルティンらが戦ってるより少し先……敵秘密基地の入り口部と呼ぶべき辺りで爆散し、クモの巣めいた粘着樹脂の結界を生み出した。
バカの一つ覚えだが、有効は有効。
それを証明するように、こちらへ急行する敵機がビーム弾を発射してくる。
――今回も、ビームマシンガンを持ち出したか。
連続する荷電粒子の光弾は、展開された結界に命中し、これをズタズタに引き裂いた。
が、引き裂いただけだ。
そこがこの粘着樹脂の厄介な特性というやつで、いくらか穴を開けただけでは、かえって広がってその範囲を広げるだけである。
まるで、舌打ちでもしたかのような……。
相手の意思が、俺に伝わってきた。
これは、そう……例えるなら、ネット越しのゲーム対戦で相手の意思が伝わってきた時のそれに近い。
ネット越しだろうが、あるいは、鋼鉄の機兵越しだろうが、そこは生身の人間同士。
意思というものは、どうしたって伝播してくるものなのである。
『――あれは』
『――奪われた試作機か』
また一つ、敵機を片付けたアレルとケンジが、自機の頭部を巡らせた。
彼らのカメラアイも、捉えたはずだ。
敵艦隊側から猛烈な速度で接近し、最短距離を塞がれた結果、急上昇じみた挙動に移行する逆ガル翼型戦闘機の姿を。
そして、この戦闘機はその気になれば、瞬時に人型機動兵器としての特性を得ることができるのである。
『ケンジ! 君は行け!
あいつの相手は、僕が引き受ける!』
「僕たちが、ですよ。アレル様。
あの敵と取り巻き相手に、一人で立ち向かうのは無謀です」
『しかし!』
「来ますよ!
ケンジ様は行って!」
そのようなモーションがインプットされていたのか、あるいは自力で思い付いたのか……。
敵可変機が、超時空のアレでお馴染みな半人型形態となって、逆噴射で一気に軌道を変えてきた。
向かう先は――こちら!
『済まぬ! 頼んだぞ!』
言い残したケンジが、愛機を敵艦隊の方に向かわせる。
それには構わず、再び完全な戦闘機形態となった可変機が突っ込んできた。
--
近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093087918112532
そして、お読み頂きありがとうございます。
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