ステルスエンド
「各艦の火砲は、あの砲撃用PLに集中せよ。
こちらに向かって、先の砲撃を行わせるな。
第二中隊は、あの赤い機体を牽制せよ。
無理に追うことはせず、艦隊の直掩に回りつつ、接近してきたところへ迎撃するだけでよい。
無茶な攻勢をかけた結果、かの機体は装甲に限界がきているとみた。
ならば、今はうるさく飛び回るのがせいぜいのカトンボよ」
『薔薇の園』が直接攻撃を受けた際……。
艦砲射撃に合わせ、今にも出撃しようとしていたPL隊へ待ったをかけてしまったのは、カトーの失態であったといえるだろう。
何しろ、カトーにとってあの場所は重要な出城だ。
大切なチューキョー本体に居つかせることなく、戦力たるならず者たちを収容しておくための大事な施設なのだ。
ただ、その執着が裏目に出た。
せっかくの勢いに乗り損なってしまった結果、カラドボルグとかいう海賊頭領の機体と、名も知らぬ緑の機体から手痛い損害を受けてしまったのである。
今、この時の戦いではなく、戦後を見据えてしまったがゆえの失敗だといえるだろう。
だが、ここで冷静さを取り戻せるのが、モワサ・カトーという男の侮れぬところであった。
落ち着いて下した指示は、リカバリーとして申し分ない。
火力には、火力を。
緑色の機体が放ったビーム砲は脅威であるが、所詮は三門にすぎない。
こちら側の巡洋艦が迎撃のビームとミサイルで弾幕を張れば、回避に力を割かざるを得なくなるのは当然である。
また、カラドボルグに対しても、正確に相手の状態を見破っていた。
そもそもが、短期決戦での略奪を念頭にカスタマイズされた機体であり、このような大規模会戦で戦うには、あまりにも向いていないPLだ。
鉄砲玉というのは、撃ち放たれてしまえばそれでおしまいであり、再度装填されることなどあり得ないのである。
では、敵方が打つ次なる一手とは、どのようなものか?
そして、こちら側はそれに対し、いかなる手を打つべきか?
ヴァンガードが予想しながら佇んでいると、艦長席のカトーは声を張り上げた。
「残るPL全機をもって、敵の掃討に当たれ。
おそらく、クサナギは海賊のPLと残存したリッター……場合によっては、ミストルティン共に出てくるはずだ。
これを、正々堂々たるイクサで制するのだ」
「敵艦隊! PL隊を出撃させました!」
オペレーターヤクザが告げる敵軍の動きは、まさしく、カトーとヴァンガードが予想した通りのものである。
「よろしい。
後の動きは、PL各小隊の独自判断に任せると伝えい」
「ヨロコンデー!
……ただ、クサナギはまだ機影を確認できていません。
また、『薔薇の園』は変わらず救援を求めてきていますが、いかがなさいますか?」
「ケンジは、指揮をするよりも最前線でカタナを振るいたがる男……。
放っておけば、そのうちに出てくるだろう。
『薔薇の園』に関しては、そちらでなんとかするよう伝えよ。
これも一つの試練であると捉え、全力を尽くすのだ」
そこまで告げ、ひとまずの仕事を終えたということだろう。
旗艦オーサカの艦長席へ深く腰かけ直したカトーが、悠然とメインモニターに視線を向けた。
彼の指揮に、間違いはない。
おおよそ、ヴァンガードが所属する組織の思惑通り、チューキョーの乱は決着を見るだろう。
ならば、気になるのは、『流出品』に関してだ。
先日、ミストルティンに乗っていた方のハイヒューマンは……思念波からして間違いない。緑のPLへと搭乗している。
艦砲射撃もかくやという砲撃をPLサイズで実現している辺り、こちら側の技術だけでなく、向こうのそれも組み込んだ機体であると見てよかった。
一方、『流出品』の疑いを抱いたリッターの乗り手であるが……。
これはどうも、『薔薇の園』を荒らしている相手がそうでないかと、ヴァンガードは考えていた。
そう考えたのは、思念波を拾えたからでなく、単なる勘である。
――あえて戦いに割って入らず、じっとこちらを観察していた目。
――あれは、敵の足元をすくうことが得意な者の目だ。
と、なれば、後方をかく乱しているパイロットこそ、まさにその個性が該当する人物なのだ。
「カトー殿。
私の方は、いかがいたしましょうかな?」
カトーに向けて尋ねたのは、そんなことを考えながらのことであった。
無論、自分の出番がくるだろうと踏んでのことだ。
確実な『流出品』も、疑いのあるパイロットも、可能ならば生け捕りにしたい。
さりとて、この体は一つしかなく、ならばいっそのこと、どちらを選ぶかはカトーに委ねたのである。
「試練を与えると豪語しておきながら、おもはゆいですがな……。
ヴァンガード殿には、『薔薇の園』の救援へ回って頂いてもよろしいか?」
――疑いがある方か。
――それも面白かろう。
「承知した」
答えて、颯爽とブリッジから立ち去った。
秘密工場から奪った試作機――コガラスが旗艦オーサカから出撃したのは、程なくしてのことである。
--
「――こちらの所在がバレた!
ここからは、完全な戦闘稼働でいく!」
うなじを這うようなチリリとした感覚に導かれ……。
俺は、とうとうこのアーチリッターが、敵観測所へ捕捉されたことを察知していた。
なんて言えばいいんだろうな。
粘りつくような視線というか、意思というものが、機体へ絡みついたのが確信できてしまうのである。
アレだ。極限状態の中で、勘働きが鋭くなったのかもしれない。
ともあれ、ここまで三つの出撃地点を潰し、敵PL至っては、十二機分――一個中隊に相当する数を撃破しているのだ。
まあ、いくらリアクターを静と動に切り替え、身を隠し潜んでいたところで、そりゃバレる。
相手だって、こちらを迎撃しようと必死なのだ。
それを裏付けるかのように放たれてきたのが――敵機のマシンガン。
ようやく目標を見つけたヴァイキンが、一個小隊となってこちらに向かってきたのであった。
「そうそう当たるものじゃないけど……」
関節可動域拡大に伴い運動性が向上したアーチリッターだが、推力とパワーウェイトレシオにはなんの変化もない。
従って、ふっつーに回避運動して敵の銃弾を避ける。
装甲域を減らしてしまっているので、たかがマシンガンといえど侮れない火力であった。
「――セレクト」
三対一で回避に徹しても、ジリ貧というやつだ。
俺は取り回しに優れたミドルボウへ、特殊矢をつがえさせ――射る。
放たれた矢は、ヴァイキンたちに向かって真っ直ぐ飛び……。
先端の弾頭を弾けさせて、クモの巣めいた放射状に粘着樹脂を広げた。
使ったのは、トリモチ矢だ。
こんなものに絡みつかれてはたまらないと、散開するヴァイキンたちだったが……。
うん……やっぱり、視野というか感覚が広がっている。
回避運動する先が――視えた。
「――そこっ」
通常矢を先読みして放つと、一機の頭部へこれが貫通し、戦闘不能へ陥らせる。
だが、弓矢の限界として、これ以上は連射が効かない。
俺は撤退を視野に入れた回避運動で、残る二機から距離を取ろうとしたが……。
――ブッピガン!
その二機が、背後からの斬撃によって縦へ両断された。
そして、爆光へ挟まれるようにして姿を現したのは、スマート・ウェポン・ユニット化した一対の対艦刀を振るう青いPLだったのだ。
--
近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093087854447829
そして、お読み頂きありがとうございます。
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