VSクリッシュ(ゲームで)
「そうそう、そこの対戦モードから店内対戦を選んでね。
その『クリッシュ』っていうプレイヤーネームの筐体がわたしだよー」
こちらの画面を覗き込むクリッシュに促され、対戦モードを選択する。
「フィールドはランダムで。
後は、対戦を楽しもー」
ゆるーく宣言したクリッシュが顔を引っ込ませ、対戦がスタートした。
ゲーム画面に広がるのは、どこぞの工業地帯と思わしきフィールド……。
使用権とかどうなってるのかちょっと気になるクサナギが、勇ましくそこへ降り立つ。
対戦相手たる敵機は……。
「おいおい、ノーマルのリッターかよ。
いくらなんでも、手を抜きすぎじゃねえかあ?」
……ジョグが言った通り、右腕部装着型のビームライフルを装備したリッターである。
「むふふー。
そこは、経験者によるハンデだよー。
バトルはダンス。
お互いのパワーバランスを合わせないと、楽しくないからねー」
筐体の向こうから聞こえるのは、余裕ぶったクリッシュの声だ。
「おいおい、クリッシュのやつマジかよ……」
「ノーマルリッターは、このゲームで唯一バーストが存在しない玄人好みのあつかいにくすぎる機体!
使いこなせねえと金を無駄にするだけの鉄クズみたいなもんだってのに、それを選ぶとはな!」
……ついでに、腕組みサイコパワー勢の分かりやすい解説も聞こえてくる。
リッター、いい機体なんだけどな。
このゲーム特有のシステムが組み込まれてないんじゃ、そりゃ不利を受けるか。
「さーさー。
かかっておいでー」
バトルスタートの合図と共に……。
クリッシュの操るリッターが、横ブーストダッシュを開始した。
こちらの射撃武器を誘導切りするために行う、この手のゲームで基本となる回避運動だ。
だったら……だ。
「よーし!
いっきますよ!」
クサナギのメイン射撃であるビーム斬撃――当然、実機にそんな技はない――を前ダッシュで放ちながら、一気に距離を詰めにかかる。
汎用機であるリッターに比べると、こちらのウリは前ダッシュ性能と対艦刀による格闘攻撃。
とにかく、距離を詰めなければお話にならないわけだが……。
「あ、あれ?」
とりあえず打っておいたビーム斬撃がかわされたのはいいとして、続く展開が問題だった。
俺の操るクサナギは、敵リッターとの間に存在する建造物へ激突し、ダッシュを止めてしまったのである。
そして、これもこの手のゲームにありがちだが……。
ダッシュ後に待つのは――硬直。
「もーらい」
――ズバーン!
横合いから放たれたビームが、クサナギに直撃し、ライフを削った。
「おいおい、障害物に気をつけるなんざ、戦いの基本じゃねーか」
「そんなこと言われても、ロックオン状態でダッシュすると勝手に突っ込んじゃうんですよ!」
後ろから野次を入れるジョグに答えながら、機体を持ち直させる。
クリッシュが操るリッターは余裕綽々で、挑発コマンドなんぞ入れながら待ち構えていた。
……多分、その気になれば、追撃のコンボ攻撃とかを入れることもできたのだ。
「今度こそ!」
敵機との間に、邪魔となる障害物は――なし。
バカの一つ覚えではあるが、前ダッシュ格闘を振りにかかる。
やや斜め気味の前傾姿勢でブーストしたクサナギは、右の対艦刀を振りかぶったが……。
「ちょーっと、見え見えだねえ」
刀が振られると同時に、敵リッターは素早く横ステップして、縦の斬撃を回避した。
だけでなく、そのまま回り込んでこちらに粒子振動ブレードを振るってくる。
――ズバッ! ズバッ! ズバンッ!
縦、横、切り上げの三連コンボ!
これを無防備で喰らったクサナギは、哀れにもダウンした。
すでに、こちらのライフは三分の一近く削られている。
「縦格闘だから、見切られたんじゃねえか?
横格闘もあっただろ?」
「やってみますよ!」
ゴロゴロ機体を転がせて、ダウン後の硬直を減らす。
立ち上がったところに放たれたビームは、ジャンプすることで回避した。
「今度は、こちらからいくよー」
気の抜けた声と裏腹に、敵リッターが猛烈な勢いで空中ダッシュを仕掛けてくる。
空中での格闘合戦をお望みか!
だが、対艦刀を備えるこちらは、圧倒的にリーチで有利。
横格闘を振れば、そのまま迎撃できると思えたが……。
「と、見せかけてホイ」
「なあっ!?」
横に振った斬撃は、たやすく回避される。
こちらに接近する直前、クリッシュのリッターはダッシュキャンセルして勝手に落ちていったのだ。
――ズバーン!
下から放たれたビームを喰らったクサナギが、地上へと真っ逆さまに落ちてダウンする。
「完っ全に手玉だなあ」
「まだまだあっ!」
健気に起き上がるクサナギと共に、再度のアタックを試みたが……。
その後の展開も、やはり変わらない。
クリッシュが操るリッターは、こちらの攻撃をことごとく回避するか、あるいは、トリッキーなキャンセル行動で翻弄してくるのだ。
ついでに叩き込まれたカウンター攻撃が、どんどんライフを削ってくる。
「どーすんだオイ?
もう後がねーぞ?」
「まだバーストがあります!」
ジョグに答えた通り……。
ゲームのキモであるバーストゲージはダメージの累積と共に溜まっており、すでに満タンとなっていた。
これを――解放!
「やっぱカッケエ! 実物のPLでも出せねえかな? こういうオーラ!」
「出してどうすると言うのですか?
これは、あくまでもゲームとしての演出ですよ、演出」
光り輝くオーラに包まれたクサナギを見て、俺たちはそんなことを言い合う。
ともかく、これで機動力を始めとする各能力は大幅に向上!
スーパーアーマーのおかげで少々の攻撃では怯まず、武器の当たり判定も大きくなり、威力も格段に増している。
さっきのメガネ兄ちゃんも言っていた通り、ここからの逆転こそが、このゲームにおける醍醐味であるに違いない。
しかも、向こうのリッターにはノーマル量産機の哀しさか、バーストが存在しないという……。
この勝負、もらったあ!
「まずは牽制!」
メイン射撃のビーム斬撃を放ちながら、回り込むような機動で接近した。
素ではただただ貧弱なだけの斬撃波であるが、バーストに入ると三連射され、しかも、追尾能力が多少マシになることは、トレーニングモードで実験済みだ。
それを放ちつつ、格段に機動力の増したクサナギで接近すれば、斬撃と機体本体で挟み込むような動きとなる。
迎撃のビームは、スーパーアーマーを頼りにライフで受けた。
防御力も増しているので、ギリギリライフは残る。
ここで――押し込む!
「とおーっ!」
俺の気合いを乗せ、対艦刀が横薙ぎに振るわれた。
そこからの攻防は――一瞬。
クリッシュの操るリッターは恐ろしい反応速度で飛び上がると、そのまま粒子振動ブレードを下に突き刺したのである。
「……へ?」
――ナムアミダブツ!
クサナギはしめやかに爆発四散だ!
「特殊格闘、まだ見せてなかったよねー?
基本性能悪くてバーストもないノーマルリッターにとっては、切り返しの生命線になる技なんだー」
またも筐体の上側から覗き込んできたクリッシュが、ニヤニヤしながら解説した。
か、完璧にもてあそばれたーっ!?
ちなみに、このゲームは一本先取制であり……。
画面内にはクサナギの残骸と共に、GAME OVERの文字が映し出されていたのである。
……完敗だ。
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近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093089596200955
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093089596242133
そして、お読み頂きありがとうございます。
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