PLエクストリームバーサス2オーバーブースト
「それで、どんなゲームで遊ぶんですか?
その……わたし、最近になってDペックスを触るまで、あまりゲームとかしたことなくって……」
「それで公式大会に出場できるの? すごいねー。
と、ゲームだったね?
まあ、ここには色々とあるから、ビビッときたやつでいいと思うよ。
別にわたしも、勝ち負けを楽しみたいわけじゃないしねー」
あくびなんぞ挟みながら、クリッシュが周囲を見回す。
確かに、彼女の言う通り……。
店内には対戦格闘を始め、レーシングゲームからリズムゲー、果ては麻雀からカードゲームに至るまで一通り揃っており、選び放題の様相を呈している。
残念なのは、場所を取ってしまう都合からか、エアホッケーがないことだろうか……。
あれ、なんか好きなんだよな。まあ、どの道今はミニスカートだから、迂闊にあの手のゲームを遊ぶわけにはいかないけど。
さておき、と……。
やはり、各筐体を見て気になるのは、だ。
「……なら、あの『PLエクストリームバーサス2オーバーブースト』が気になりますね」
俺は同型の筐体が五台ずつ向き合い、一つの島となっている一角を指差しながらそう告げた。
ちなみにだが、島のお誕生日席的な部分には大型モニターが据え付けられており、店内及びネットで対戦中の映像がリアルタイムで中継されている。
その大型モニターに映し出されている対戦映像……。
それは、一言で表すならば、PL同士の戦闘であった。
プレイヤーは、画面に表示された自機を背後から俯瞰する形で操作し……。
各機体ごとに特製の異なる射撃、格闘、サブ射撃、特殊格闘を使い分け、対戦相手の撃墜を目指すのである。
うむ! この手のゲーム、前世ですっごく覚えがある!
懐かしいぜ……俺もかつては、動物園の一員として奇声を発していたものだ。
まあ、こっちは一対一なので、どちらかというとバーチャの方がゲーム性近いけど。
「ふうん……いいねえ」
それまでの、気怠げな様子から一転……。
クリッシュが、すっ……と目を細める。
「それじゃ、早速やろうよ」
そう言って、さっさと席に着いてしまった。
「オイオイオイオイオイ、銀髪のお嬢ちゃん、よりにもよってあのゲームを選びやがったぜ」
「知らねえってなあ、おっかねーな!
『PLエクストリームバーサス2オーバーブースト』は、クリッシュが一番得意なタイトルだっていうのによォー!」
俺の方も向かい側に座ろうとすると、壁際で腕を組んでいた兄ちゃんたちが、何やら聞こえよがしに語り出す。
あんたら、サイコパワーを溜めてたわけじゃなかったのか。
語り出したのは、彼らだけではない。
「『PLエクストリームバーサス2オーバーブースト』……」
やはり立ち見していたメガネ姿の男性も、カチャリとメガネを鳴らしながら独り言をつぶやき出す。
「PLの大戦アクションゲームとしてリリースされたPLバーサスシリーズの最新作であり、同シリーズの特徴であるバーストシステムをさらにパワーアップさせたタイトルだ。
当然、実際のPLにそのようなオカルトは発生しないため、実機のマニア勢からは敬遠される傾向にあるが、カジュアルで取っつきやすい操作性と、窮地からの大逆転が狙えるダイナミックなゲーム性から、愛好者は数多い。
また、各貴族家が保有するカスタムPLに関しても、外観からスペックを推定するという形ではあれど、おおよそ網羅している操作キャラの幅広さが特徴だ」
「あ、そういうの、自分でやってみるんでいいでーす」
「なあっ!?」
どこにでも生息する解説好きの兄ちゃんに答えながら、席に着く。
「最初は、トレーニングモードで感覚掴んでみるといーよー」
すると、筐体に膝立ちでもして向こう側から覗き込んできたクリッシュが、親切にもそう促してきた。
「そうですね。
ここは、遠慮なく練習させてもらいましょう」
「おー、結構、色んなPLがあるじゃねえか。
さすがにカラドボルグはねえけど、ミストルティンやクサナギまであるぜ」
携帯端末で決済し、ゲームスタートすると、背後から覗き込んできたジョグがそんな言葉を漏らす。
彼の言う通り……。
いや、メガネさんの解説通りか?
お父様のティルフィングやアレルのミストルティンなど、実際に存在し、メディアなどで報じられている機体の姿がズラリと並んでいる。
他には、銀河各地で実戦投入されているリッターのバリエーション機も、豊富に存在しており……。
なんと、アーチリッターまで選択可能だった。
「おお、いいじゃねえか!
つーか、アーチリッターはあんのに、バイデントやカラドボルグはねえのかよ!」
「多分、モデリングを使い回せる都合でしょうね。
さておき、せっかくなので……」
ここで俺が選択するのは――クサナギ!
自キャラ選択画面の中で、一対の対艦刀スマート・ウェポン・ユニットを備えた青いPLが、格好良く見栄を切ってみせる。
「なんだあ?
どうせなら、アーチリッター使えばいいじゃねえかよ?」
「だって、ゲームとはいえ、あの子使って負けたら悔しいじゃないですか?
それに、クサナギは乗る機会なかったので、ちょっと興味あるんですよね」
ジョグに答えながら、ゲーム開始だ。
トレーニングモードを選択すると……。
『――オッケイ!
今日はこのウォルガフ・ロマーノフ大公が、直々に貴様を鍛えてやろう!』
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主人公たちが、昭和のギャグアニメみたいなコケ方をしています。
少々、お待ちください。
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「……オメーの親父、こんな仕事もしてるのか?」
「……まあ、有名人ですし、銀河有数のエースパイロットなのは間違いないですから。
多分、顔の画像や音声データ渡してるだけだと思いますけど」
どうにか立ち直り、メガネをかけ直しながら答える。
画面右上には、教官役であるお父様の姿がデカデカと表示され、こちらを見つめていた。
……この銀河において、PLを操るパイロットは騎士階級のごとく扱われ、社会的名声も高い。
まして、銀河最大貴族家の当主であり、同時に銀河最強PL部隊の指揮官でもあるお父様は、その筆頭みたいな立場であった。
だから、冷静に考えておかしくはない……おかしくはないのだが……。
うん、おかしさしかねーよ。
というか、仕事選ぼうよ……お父様……。
『さあ! まずは基本中の基本、ステップだ!
これができなければ、相手の射撃をかわすこともままならない!
画面に表示されている通り、レバーを素早く二回動かしてみろ!』
「なんだか、やりづらいなあ……」
画面からはお父様、後ろからはジョグに見守られ、基本操作の練習を行う。
まあ、トレーニングモードなので、引っかかるようなところはない。
「結構、操作は簡単なんだな。
PLの後ろから見るってのが、なんか違和感あっけど」
「コックピットだと、頭部カメラが捉えた映像ですからね。
対戦アクションだと、この方が当たり判定も分かりやすくていいんでしょう」
答えながら、俺はこのゲームにおけるクサナギの特性をほぼ掴んでいた。
うん、分かりやすく格闘特化の機体で、とりわけ、前ダッシュ能力に優れているみたいだ。
武装は、射撃兵器として謎のビーム斬撃を放てるが、連射性も誘導能力も頼りない。
あくまで、突撃しての対艦刀が本命の機体である。
ちなみにだが、スマート・ウェポン・ユニットで再現されているのは対艦刀だけで、分割変形してのカタナやショートソードは再現されていない。
そこら辺のスペックは公表されていないため、汲み取り切れなかったのだろうが、本物と打って変わって大ざっぱな斬撃を繰り出すPLとなっていた。
「そろそろ、準備はいーかなー?」
また向こう側から覗いてきたクリッシュが、ニコニコしながら尋ねてくる。
「そうですね……オッケイです」
「うん。
じゃーやろうかー」
デジタルお父様にオッケイオッケイ言われてそれが移ってしまった俺に対し、クリッシュはゆるーく答えたのであった。
--
近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093089537191914
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093089537240231
そして、お読み頂きありがとうございます。
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