なんかいた件

「いいですか?

 荷物はもっとコンパクトに、最低限で済ませましょう。

 着替えはこんなにいりません」


 いつもと同じ自室の中……。

 しかし、いつもと異なり、いくつも散乱しているスーツケースの中身をあらためながら、俺はエリナにそう宣告していた。


「ですが、大公家の息女として、これは最低限の備えです。

 必要な場面で、必要な格好ができるようにしておかないと……」


「公式訪問ではないのですよ?

 よしんば、何か必要になったのだとしても、それは現地で調達すればいいのです。

 大体、こんなに物を詰め込んでしまって、皆に買うお土産は、どうやって持ち運ぶつもりなのですか?」


「普通、大貴族家のお嬢様は、臣下へのお土産を気にしたりしません」


 やいのやいのと言い合いながら、旅の荷物を選定する。

 うーん、なんだか懐かしいやり取りだ。

 こう、前世で海外旅行をする時、妹とやり合ったのを思い出す。


「大体、お嬢様はどうしてそのような格好をされておられるのですか?」


 エリナが指摘した通り……。

 俺の装いは、いつものゴスロリ姿とは大きく異なるものだった。

 頭にはキャップを被り、下は頑丈なジーンズ。

 上に着ているのは、Tシャツとベストだ。


「良い質問です。

 これは、古代マサラ族に連綿と受け継がれる旅装束……。

 わたしは、この格好で、こいつと旅に出ます」


 ポケットから、携帯端末を取り出してポチー!

 すると、就寝時と起床時に愛でられるよう、窓のすぐそばで待機姿勢となっている俺のリッターが、やおら立ち上がると両手を頭部の真横まで上げる。


 ――プロロロロロ……。


 外部スピーカーから漏れるのは、謎の電子音……。


『リ゙ッ゙ダー゙』


 そして、やたらとくぐもった合成音声であった。

 ……うん、これだと宇宙恐竜だな。

 もっとこう、軽快に『ピッカー』という感じで『リッター』と叫んで欲しかったのだが。

 いっそ、俺の肉声を入れようか。


「また妙なことを……。

 旦那様が派遣してくれた腕利きのメカニックたちに、何をやらせているんですか?」


「結構、ノリノリでやってくれましたよ。

 普段、こういったことをやる機会はないから、新鮮だって。

 と、わたしのリッターに加え、アレル様のミストルティンも搭載するのですから、やはり旅の荷物は最小限にしましょう。

 ――あ、この服は必須ですね」


 ひょいひょいと荷物の仕分けを行い、スーツケース一つに全て収める。

 ドアがノックされたのは、そんな時のことだ。


「どうぞ」


 入室を促すと、セバスティアンが姿を現す。


「お嬢様。

 整備班から、同行する者の顔合わせをしたいという申し出がきています。

 アレル様の方も、同席されたいとか」


 何しろ、この世界は物騒だ。

 銀河帝国の中では、相当に豊かな方であるこのロマーノフ大公領ですら、辺境に海賊が出没したりするし、つい先日も、お父様が黒騎士団を率いて討伐してきたばかりであった。

 まあ、そんな世界だからこそ、『パーソナル・ラバーズ』作中では容易に宇宙戦国時代へ突入したわけだが……。

 さておき、自衛のため、俺のリッターはオマケとして、アレルがミストルティンを持ち込むのは必須となる。


 となると、問題となるのはメカニックだ。

 乗り込む宇宙船には、高度なオートメーション化をされた整備機器が存在するものの、専門の技術屋が一人は必須。

 そのため、誰を同行させるか……整備班に選抜を頼んでいたのであった。

 アレルが同席を望むのは、愛機を任すに足る人物か見極めるためだろう。


 俺としても、旅の同行者がどんな人物かは知っておきたい。

 また、先日のロケットパンチからこっち、随分と負担をかけている彼らに対し、労いの言葉をかけるのは立場からくる義務であると、カミュとしての感性が告げている。


「では、会いましょう」


 だから、俺は気安くそう返事したのであった。




--




 ――メカニック。


 リアル系であろうとスーパー系であろうと、おおよそのロボットモノにおいて、なくてはならないポジションがこれである。

 何しろ、いないことにはロボットが動かない。

 そのため、設定上の必要性や、あるいはキャラクター間の関係性を埋めるため、彼らが出演するわけだが……どういう人物たちであるかは、それこそ作品によって千差万別だ。


 で、我が親愛なる整備班たちはどうかというと……もう、俺好みドンピシャ。

 長いこと技術屋としてやってきました! という感じがするいぶし銀のおじさんたちであった。


 いやー、いいよね。メカニックのおじさん。

 機動する警察のメカニックチームや、ご唱和してもらうウルトラなマンのメカニックさんとか、超俺の好みである。

 おっと、今は女の子になっている俺だが、別にそういう意味での好きではないからな。

 と、いうわけで……。


「全員、整列!」


 屋敷付近へ仮設された野外ドックの前では、ツナギを着たおじさんたちが、俺たちの前に整然と並び立っていた。

 軍隊のごとく統制が取れた様子なのは、単純に彼らが軍の一部だからである。

 お父様は、かわいい娘のために、腕利きを集めて下さったそうだ。

 なんでも、通常なら整備小隊長を務められるレベルの人材ばかりだとか。

 パイロットスーツに関してもそうだが、娘一人のために、金と人材をぶっ込み過ぎであった。

 まあ、最高の環境を与えられる側としてはちぃーっとも悪い気はしないがな。


「カミュお嬢様……。

 今回のチューキョー行きへ同行する栄誉に預かった者を紹介します。

 自動的に、アレル様のミストルティンを触らせることにもなりますが、構いませんか?」


「あなた方の整備には、僕も機体も満足している。

 その中から選ばれた人材なら、なんの文句もないさ」


 いつも通りのさわやかな表情で、アレルが整備班長に答える。

 ちなみに、各貴族家が技術の粋を結集した存在である当主専用機を他領の人間が触るのは、本来ならNGだ。

 が、持ち主であるアレルいわく、ミストルティンは徹底したカスタマイズを施した機体であるものの、使っている技術そのものは枯れているか、あるいは、ありふれているものなので問題ないらしい。

 『パーソナル・ラバーズ』作中でも、その辺は無頓着だったしな。


「ありがとうございます。

 と、いうことだ。

 前に出ろ!」


 整備班長が命じると……。

 たった一人、前に出る人物がいた。


「……子供じゃないか」


 アレルが前言撤回し、顔をしかめたのも無理はない。

 前に出たのは、俺と同じくらいか、やや年下くらいの……少年だったのである。

 それも驚きだが、こんな子供が整備班に紛れていたことへも驚く。

 大人に混ざって子供が働いてたなら、気付いてもよさそうなもんだからな。


「子供ですが、腕は確かです。

 しかも、度胸がある。

 自分から当家の軍へ腕を売り込みに来て、旦那様に認めさせたんですから」


「お父様が?」


 それもまた、驚きだ。

 俺に対しては死ぬほど甘いお父様であるが、おそらく、子供全般に対して甘いわけではない。

 しかも、軍の中枢たるPLの整備兵として採用したというのだから、これは子供ながらに、ただならぬ人物であるに違いな……。


 ん……?

 んん……?


 なんかこの子、見覚えあるぞ。

 顔立ちは、ともすれば女子と見間違いそうなくらいに整っており、優しげ。

 栗色の髪はやや天然パーマ気味であり、そこが、ほんの少し愛嬌を与えている。

 お父様に腕を売り込んだという度胸はどこへやら、今は、やや恥ずかしそうに身を縮こまらせていた少年が、どうにか背を伸ばして名乗った。


「ユーリ・ドワイトニングです!

 よ、よろしくお願いします!」


 ふーん。

 ユーリ君……。

 ユーリ君かあ……。


 ――攻略対象かよおっ!?



--



 近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093085262276076


 そして、お読み頂きありがとうございます。

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