白騎士との戦い ④
「ライトニング・アローを、初見でかわされた。
敵もさる者、考える者ですね……」
アーチリッターのコックピット内で、指揮官機と思わしきミニアドの様子を見ながら、俺はつぶやいていた。
今のアーチリッターは、かつてと同じ機体ではない……。
ちょっとしたバージョンアップを果たしている。
まずは、装甲。
獣型PLの手でズッタズタにされた装甲は、直すついでに、かねてより計画されていた強化を施されていた。
別段、強度などが上がっているわけではない。
ただ、機体各部に配置されたカメラが周囲の風景を読み取り、装甲表面へこれを映し出すのだ。
要するに、リアルタイムの迷彩である。
たかが迷彩、されど迷彩……。
視認性が重視される戦闘において、その効果は侮れるものではない。
前世地球の戦闘機も、高高度戦闘で視認されにくくなるグレー塗装をよく採用していたしな。
ステルス性が命の本機にとっては、有用な装備であった。
続いて、二種類の新たな矢。
これらは、IDOL結成時にはもう装備していたものの、報道に晒す懸念や、周囲の状況的に使えなかったことから、結果として今まで温存する形になった代物だ。
一種類目――ルスト・アロー。
これは、例によってユーリ君特性の超強力な酸を周囲に放って、敵機の装甲を溶かす特殊矢である。
下手をすると敵パイロットがミンチよりも酷いことになってしまうため、使い所は難しいが、上手く使いこなせば広範囲に敵機を弱体化させることが可能であると期待していた。
二種類目は、ライトニング・アロー。
たった今、あっさりと回避された矢である。
矢の先端部から放射状にワイヤーが射出され、超高圧電磁電流を流し、触れた敵機がスタンする……。
どちらかというと、本命として用意した無力化装備であった。
敵機至近で不意に広がるワイヤーは、よほどの腕利きでなければ、回避し得ないはずだったが、その腕利きが白騎士団団長ということである。
「面白い。
相手にとって、不足なしということですか」
セオリー通りに回避運動をしながら、笑みを浮かべた。
同時に、敵ミニアドの手にしたビームライフルから、灼熱の重金属粒子が放たれる。
アーチリッターの末端部を狙ったとおぼしき一撃は、機体に触れることなく虚空を穿つ。
こんなのは、軽い挨拶代わりみたいなものだろう。
これから始まる、素晴らしい戦いに向けた……。
だが、それに対する俺の返答はこうだ。
「なら、皆で相手をしましょう」
瞬間……。
待ってましたとばかりに、極太のビームが別の方角から殺到する。
先にミニアドのビームを見ていただけに、出力の違いが一目瞭然であった。
しかも、その高出力ビームは一本だけではなく、三本がそれぞれ別の角度から放たれているのだ。
これだけの大出力を使うと、どうしても強烈なリアクター反応が検出されるものであり……。
戦艦並みの砲撃を警戒していた白騎士たちが、三々五々に散って三つの光条を回避する。
だが、これはハナから撃墜を狙った攻撃ではない。
敵集団を散開させ、連携を断つことが目的だった。
砲撃支援機というものは、何も命中させることだけが仕事ではないのだ。
『お嬢様、ここからは……』
「ええ、パーティーと参りましょう」
『そうこなくっちゃなあ!』
緑色に塗られた重砲撃機……。
本体に随伴するビーム・ポッド型のスマート・ウェポン・ユニットが印象的なPL――グラムと共に、赤い機体が姿を現す。
そして、スポーティなそのシルエットは、閃光と化して敵集団の中へと飛び込んでいったのだ。
――カラドボルグ。
その役割は、機動力を活かしてのさらなるかく乱である。
無論、かく乱に留まらず、敵機を撃墜してしまったとしても、なんの問題もない。
『カミュちゃん船長!』
『おれたちも混ざりますぜ!』
『大将首、取ってやりましょうや!』
言いながら、リッターの直掩に回ったのが三機のバイデントだ。
敵集団の相手はグラムとカラドボルグという二枚看板に任せ、彼らは正面切っての戦いに弱い俺の支援へ回ってもらっていた。
「アットン、ベン、クレイル、頼みますよ」
『『『アイ、アイ、マム』』』
元スカベンジャーズの皆さんが、俺の呼びかけに応えて立体的な包囲陣形を取る。
最初の不意打ちで、十一機いた敵機の内、二機はダウンさせていた。
残る敵は――九機。
内一機は片方のバインダーにトリモチが絡まって機動力を削がれているが、大貴族家の精鋭部隊を相手取って数的不利であることに変わりはない。
「……勝てる」
だが、俺は危機的な状況にありながらも、余裕を失わない。
自分たちの方が上であると、不思議と確信できたからである。
--
「行かせませんよ。
お嬢様の所には……」
グラムのコックピット内でつぶやいたユーリは、ビーム・ポッド型のスマート・ウェポン・ユニットに追加で攻撃指示を出した。
このユニットには、ハイヒューマンが用いる人型機動兵器――オムニテックで使われている技術の一部を流用してあり、パイロットの脳波を拾って的確な援護行動が可能となっている。
チャージを終えたユニットに吐き出させるのは――拡散ビーム。
シャワーのごとく敵部隊に降り注ぐ光条は、一本一本が、通常のビームライフルと同等の威力だ。
だが、これは……当たらない。
あらかじめ十分な距離を取っていたミニアドたちが、しかも回避運動に徹したからであった。
雑魚相手ならばこの距離でも多少の戦果は期待できるが、さすがに公爵家の精鋭部隊ともなれば、デタラメに撃たれたビームくらい、何発でも回避してみせるのである。
だが、結果としてミニアド各機はさらにお互いの距離が離れ、連携を欠くこととなった。
そして、それこそがユーリの狙いなのである。
『後は任せな! ユーリ!』
叫んだジョグを乗せたカラドボルグが、赤い閃光となってミニアドたちに肉薄した。
動きながら、二丁のライフルで牽制……といったセオリー通りの攻撃はしない。
ジョグとカラドボルグならば、無駄弾なしに必殺の一撃を叩き込むことが可能だからである。
『まず、一つ!』
それを証明するように……。
片方のバインダーがトリモチで封じられたミニアドに、カラドボルグが肉薄した。
圧倒的機動力を活かし、下方から急に顔を突き出したその挙動は、敵機からすれば、突如として出現したように見えたことだろう。
そして、カラドボルグはただ至近距離から睨みを利かせただけではない。
接近すると同時に、右手のアサルトライフルを向けていたのだ。
宇宙空間の戦闘であるため、発砲音はないが……。
電磁パルス弾特有の閃光が、ミニアドを穿つ。
それがもたらす電磁的な衝撃は、物理的な衝撃以上に深く白騎士専用機の内部へと浸透していき……。
駆動系がショートしたミニアドは、がくりと力尽きて人型のスペースデブリに変じたのであった。
「ボクも負けてはいられませんね」
言いながら操作し、グラムに粒子振動アックスを振らせる。
柄に加速用のブースターが備わった大斧は、恐るべき速度の斬撃を生み出し、ブレード片手に近付いたミニアドの左腕と左脚をまとめて切断した。
――鈍重な砲撃機が、これほどの素早さで接近戦に対応しただと!?
敵パイロットの驚きを、ハイヒューマン特有の感覚で受信する。
パイロットの驚きを反映したのだろう。
ブレードを振り上げたまま硬直する敵機の右肩に、左腕部一体型のビームガンを撃ち込めば、完全な無力化の完了であった。
「ビーム・ポッドのチャージ中に接近戦を挑めば、たやすく討ち取れる……そう思っていましたね?
ボクだって、侮られるのは好きじゃありません」
ほぼダルマと化した敵機に、冷たく言い放つ。
そもそも、ビームが直撃しないように攻撃の手を緩めていなければ、ユーリ一人で過半数を撃墜可能なのだ。
「グラム、カラドボルグ、バイデント……。
そして――アーチリッター。
ボクの作品が集ったこの部隊は、あなた方ごときに遅れを取りません」
これは、矜持である。
自分が手がけたPLは、公爵軍の精鋭相手にも決して劣らない……。
いや、
同時に、どうしようもない喜びに胸を震わせた。
「いいものですね。
自分の手がけた機体が、こうも活躍するというのは……」
ビーム・ポッドたちと連携した立体的なビームの包囲網……。
それに足を止めざるを得なかった敵の一機へ、トドメとなるビームガンの一撃を放つ。
頭部が破壊された敵機を見て浮かぶのは、笑みだ。
主人であるカミュが、そうであるように……。
ユーリにとってもまた、このIDOLという組織は、自らの『好き』を最大限に実現できる場なのである。
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近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093091342490028
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093091342530359
そして、お読み頂きありがとうございます。
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