白騎士との戦い ⑤

「確か、構成員の多くはスカベンジャーズとかいう海賊上がりだったか……。

 元々が、賊とも思えぬ練度だったか……。

 はたまた、正式な官軍となってから、よほど過酷な訓練を積んだとみえる」


 アーチリッターを守護するように展開した三機のPLは、確か名をバイデントといったか……。

 参考した銀河ネットワークの映像を基に考えるならば、地上戦の……それも、対人戦闘が絡む局面を見据えて調整された機体である。

 脚部の鳥類じみた逆関節構造や、背部のドローン・ユニットがその証左で、脚部構造を活かした軽快な立ち回りや、ドローンから得られた情報を活用しての的確かつ迅速な動きには、スコッチを舐めながら感心したものであった。


 だが、それがイコールで宙間戦闘への不向きを表すかといえば、そうではない。

 ドローン・ユニットは背部に装着したまま、推進機関として活用し……。

 普段は脚部に装備している小型のシールドを左手に持ち替えれば、立派な中距離宙間戦仕様のPLが完成だ。

 その機動力は、帝国軍の主力量産機たるリッターにも劣らぬか、それ以上のものであり……。

 装備しているアサルトライフルの電磁パルス弾は、ことに対艦戦を想定するとやや火力不足のきらいがあるものの、対PL戦に限って考えれば、十分な威力があるだろう。


 そんな機体が、上、右、左に分かれ、それぞれ青白い弾光が特徴の電磁パルス弾を放ってくる……。

 そして、それらを回避するために軌道が限定されたミニアドに向けられるのが、本命たる――アーチリッターの矢。

 今度はおかしな細工の施された代物ではなく、ただ相手を穿つためのノーマル・アローであったが、その威力は侮れない。

 速射性を重視し、手持ち型のミドルボウで放たれるそれは、もし当たったなら、十分にミニアドの装甲へ突き刺さることだろう。


「教科書通りの動き、などと揶揄やゆはできまい。

 セオリーとは、強力であるからこそセオリーなのだ。

 そして、それを集団で実現するには、高い練度が必要となる。

 指揮官に対する信頼感も、な。

 元海賊の部下たちと年端もいかぬ少女……。

 そのような構成でこれだけの動きを見せるのは、称賛に値する。

 単機で対処するのは、困難だろう。

 私が並のパイロットであったならば、な」


 解説した通り、回避困難なはずの攻撃をスレスレのところで見切りながら、しかし、ギュンターは余裕の笑みを浮かべていた。

 なるほど、バイデントという機体の機動力は、侮れるものではない。

 だが、ギュンターが……白騎士が駆るPLは――ミニアド。

 当主専用機たるミストルティンのデータを基に、フレキシブルな動きを見せる両肩のシールド・バインダーで、トリッキーな機動力を確保。

 まさに、ラノーグ公爵領の技術力を結集した機体であるのだ。


「教えてやろう。

 PLというのは、機動兵器。

 いかに数をもって対抗しようとも、絶対的なその差を覆すのは困難なのだ」


 ギュンターの言葉へ応えるように……。

 1番機のプラネット・リアクターが、雄々しく脈動する。

 そこから生み出されたエネルギーは、機体内部の動力系統を伝わり、両肩のシールド・バインダーへ注ぎ込まれた。


「では――指導してやる」


 全開となったバインダーのプラズマジェットにより、一気に推力を増したミニアドが、横一直線に飛翔する。

 三条の電磁パルス弾もリッターの矢も、ミニアドが元いた空間を虚しく素通りしていった。


「見失っている場合ではないぞ」


 両肩のシールド・バインダーが、別の意思を持った生物めいてうごめき……。

 飛翔する1番機の動きを、瞬時に変更させる。

 向かう先は、こちら側から見て右……。

 敵部隊の左翼を担うバイデントだ。


「遅い」


 ミニアドが放ったビームは――三発。

 内、二発は回避運動を取ったバイデントにかわされたが、その動きを先読みして放った三射目が、相手の脚部へ命中した。

 体勢が崩れたところへさらに射撃すると、灼熱の重金属粒子が頭部を貫通し、溶解させる。


「コックピットを狙ったが、なんとか回避したか。

 よろしい、命は見逃そう」


 咄嗟に伏せる挙動で命を拾ったパイロットに言い残し、次の獲物へ向かう。

 残る二機のバイデントは、アーチリッターを庇うように前へ出ながら電磁パルス弾を連射したが……。

 シールド・バインダーのフレキシブルな動きにより、ギュンターはそれを上側へ回り込むことで回避した。

 回避しながら放ったビームが、敵機たちの肩や脚部に直撃し、その戦闘力を大きく削いだ。


 そこへ放たれてきたのが、アーチリッターの矢だが……。

 矢じりの形状がノーマルのものと違うことを一瞬で看破したギュンターは、大回りな機動でこれを回避する。


 すると――爆発。


 矢じりの先端が、PL数機を包み込むに十分な規模の爆発を起こしたのであった。


「グレネード・アローといったところか。

 手品は通用しませんぞ」


 ミニアドの機動力をもってすれば、回避運動から立ち直ることは容易。

 アーチリッターに向かいながら、ビームライフルの連射を行う。

 こちらが狙ったのはいまだ随伴している二機のバイデントたちで、シールドによってこれを防いだ赤い機体たちは、その足を止めざるを得なかった。

 今なら、アーチリッターを……。

 敵大将を守る者はいない!


「ここで――仕留める」


 言いながら、ミニアドにビームライフルを発射させる。

 今度のそれは――三連射。

 いずれも、アーチリッターの末端部を狙ったものだったが、しかし、これらは紙一重で身をひねることにより回避された。


「なかなかの身のこなし!

 だが、接近戦ではどうかな!?」


 ギュンターの操作に従い、ミニアドが左手で粒子振動ブレードを引き抜く。

 すると、ブレード本体にチャージされていたエネルギーが即座に解放され、細身の刀身を高速振動する荷電粒子で覆う。

 そのまま、袈裟懸けに切りかかったが……。


「初撃は避けたか!

 だが、このままいけば……」


 バックステップじみた挙動で初撃をかわしたアーチリッターが、そのまま距離を取ろうとする。

 おそらくは、頼みの綱である弓へ矢をつがえたいのだろうが……。

 ここまで距離を詰めておいて、むざむざとそれを許すギュンターではない。

 切り上げから、横薙ぎに振るう斬撃。

 畳みかけるべく、連続攻撃を行う。


「――よくよける!」


 だが、それらはことごとく回避されていた。

 驚くべきは、背後に大きく動いての回避運動ではなく、身をひねり、あるいは伏せることで、的確に剣閃を避けていることだろう。

 筋の良さは――想像以上だ!


「だが、これならどうかな?」


 右手のビームライフルを後ろに回し、バイデントたちへけん制の射撃を放ちながら、左手のブレードをまたも振るう。

 が、今度のそれは当てることを狙っていない。

 やはり、斬撃は身をひねることで回避されたが……。

 それと同時に、前方へ向けられたシールド・バインダーが、瞬時にミニアドを仰向けの体勢とする。

 そこから放たれたのは、強烈な――キックだ。

 お行儀の良い白兵戦法とは、かけ離れた一撃であった。


 ギュンターは、白騎士団内での訓練において、時折、このような攻撃を混ぜる。

 それは、部下たちが当たり前の戦い方しかできないパイロットになることを、防ぐためであり……。

 つまりは、普通の訓練しかしてないような相手には、間違いなく直撃する一撃である。

 ……が。


「――なんだと!?」


 ここへきて、初めてギュンターは目を見開いた。

 ご令嬢の操るカスタムリッター……。

 それが、自らも蹴りを突き出すことで、ミニアドの蹴撃しゅうげきを相殺してきたからだ。


「……どういうことだ?」


 いぶかしさに、眉をしかめる。

 ただ筋が良いだけではない。

 勘働きが良いというだけでもない。

 何か……得体の知れないものを、白騎士団の長は感じたのだ。


 弓矢を携えた黒いカスタムPL……。

 その内側から、こちらの全てを見透かすような視線が感じられてならなかった。




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 近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093091406821734


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