白騎士との戦い ①

「……ハッ!

 ぶんぶんと得意げに振り回しやがって。

 剣があれば、ステゴロになんざ負ける気がしねえってかあ?」


 ユーリが設計したカラドボルグⅡのコックピット……。

 魔改造の限りを尽くした先代カラドボルグに比べ、洗練されたインターフェイスを誇るそこで、ジョグは獰猛な笑みを浮かべていた。

 それだけではない……。

 両手を操縦桿から離し、折り畳み式コームで髪を整える余裕まで見せている。


 ここまで、敵機と行ってきた攻防……。

 これは、素人が一見したならば、相手の圧倒的優勢に見えたことであろう。

 粒子振動ブレードを振り回してくる敵機に対し、カラドボルグの方は紙一重でこれをかわし続けていたからだ。


 武器を持つ者と持たぬ者の拭い去れない差……。

 それを確信した相手の機体が、それまでは正眼に構えていたブレードを、腰だめに突き出してきた。

 最速の一撃――刺突により、一気にケリを付けようとしているのだ。


 だが、ジョグからすれば、その考えは――甘い。

 野球のバッターが、相手の球筋を見極めるように……。

 ここまで、ジョグは太刀筋を見切ることに専念しており、それはすでに完了していたのである。


 そもそも、相手機は両肩のバインダーによって機動力を得ているが、背部と両脚部に合計三基もの大型ブースターを備えるカラドボルグに比べれば、圧倒的に――遅い。

 ここまで、距離を取らずにいちいちすんでのところで斬撃を回避してきた意図というものを、敵パイロットは考えるべきであった。


「さぁーて……。

 そろそろ、キメるぜ」


 コームはしまい、操縦桿を握る。

 敵機が突進してきたのは、それと同時のことだ。

 付与された振動粒子によって輝く切っ先を突き出しての一撃……。

 そのモーションは、古今東西、あらゆる種類の剣術に存在する必殺最速のものであった。

 ただし――二足歩行する陸上生物の戦闘であったならば、だ。


 PLという機械は全領域対応の汎用兵器であり、今、戦場となっているのもあらゆる角度に障害がない空中である。

 となれば、前方にのみ全ての推力を注ぎ込むこの攻撃は、最速ではありながらも、実に単調なものであった。

 ことに、銀河最速を誇るカラドボルグとジョグにとっては、あくびが出るような温い攻撃なのだ。


「ほいっと」


 敵の刺突に合わせ……。

 カラドボルグが、頭から突っ込んでいく。

 一見すると、ブースターの推進力を使った頭突きのようであるが、そうではない。

 ジョグはカラドボルグの頭部が切っ先に触れる直前、操縦桿とペダルを小刻みに操ったのである。


 背部の可動式ブースターと機体各所に配置されたアポジモーターが稼働し、カラドボルグの前身をスピンさせた。

 その動きにより、相手の剣は機体に触れる寸前のところで空振っていく……。

 ここが、狙い目だ。


 ――ガッ!


 スピンした勢いを利用して、相手の腕部にカラドボルグの脚部を絡ませる。

 そのままスピンを続けることによって、肘関節を完全に破壊した。


「落ちたぜ」


 腕部が可動不能となった影響だろう……。

 敵機のマニュピレーターが手放したブレードを、下に回り込むことで拾い上げる。

 これは、落下したブレードによる二次災害を防ぐためでもあったが……。

 同時に、こちらの手へ得物を得るための動きでもあった。


「――おらよ!」


 刺突は――二度。

 敵機の腰部と、頭部だ。

 オートバランサーと集約されたセンサー類を失った白い機体は、力尽きたように脱力し……。

 ジョグはこれを、カラドボルグで受け止める。


「ったく……。

 周りに被害を出さねえで戦うってのも、楽じゃないぜ」


 ボヤきながら地上に降り立ち、撃破した敵機を道路に寝そべらせた。

 全ては、都市上空の戦闘による被害を地上に生み出さないため立ち回りである。

 かつて、海賊稼業をやっていた時には考えもしなかった戦い方……。

 ジョグは、それが己の身に染み付きつつあることと、存外、好意的にこれを受け止めている自分に気付いていた。


「まっ……。

 官軍らしい、お上品な戦い方ってこった」


 周囲を見れば……。

 上空で鋼の巨人たちが戦った影響か、街中に植えられた無数の花から、大量の花びらが舞っている。

 他に認められるのは、建物内などへ避難した人々の視線だ。

 おそらく、この機体はラノーグ公爵軍を象徴するような類の代物なのだろう。

 カラドボルグに向けられる視線は、決して好意的なものではない。

 ただ、好意的でないというだけで、それ以上の怨嗟は感じられなかった。

 最大限、自分たちに配慮した戦いをしたのだと、理解してくれたのだろう。


「……と」


 そこで、カラドボルグのレーダーが新たな敵機を察知する。

 そのリアクター反応……一機や二機ではない。

 最低でも――十一機。

 一個中隊に匹敵する数が、こちらへ迫っていた。


「オイオイオイオイオイ。

 さすがに、相手になんかしてらんねえぞ」


 つぶやきながら、カラドボルグを飛翔させる。

 アーチリッターからの通信が入ったのは、その時だ。


『――ジョグ君。

 IDOLは、一度この惑星ネルサスから離れます。

 そちらも、合流してください』


「言われなくたって、そうすらあ。

 さすがに、カラドボルグ一機で相手するのは、骨が折れる数だぜ」


 クソ女――カミュの要請に従い、機体を反転させた。

 新しいカラドボルグの機動性は、大気圏内においても良好……。

 逃げに徹すれば、自分の方が先に宇宙港へ辿り着くことは明白である。

 そして、実際にカラドボルグは敵機を振り切り、すでに発進し始めていたハーレーへと辿り着いたのだ。




--




「やるよ、リッター……」


 パイロットスーツへ着替えた俺の呼びかけに応えるように……。

 機体内部から、プラネット・リアクターのモスキート音じみた起動音が響く。

 ステルスモードで起動した機体は、自らにオーダーが下されるのを、ただ静かに待ち受けていた。


「ブリッジ。

 白騎士団の様子は?」


『そのまま、こちらに追いすがってきます。

 アレル様、あちらに大気圏離脱能力は?』


『この場合は、残念ながらになるが……ある。

 足の遅い艦船では、追い付かれることだろう』


「戦いは、避けられないということですね」


 コックピットの中で、俺は素早く結論を下す。

 どういうわけかこちらへ敵対することを決めたラノーグ公爵軍の追手は――十一機。

 いずれも、機種はミニアドであり……。

 要するに、撃破された3番機以外の全ミニアドが追撃してきていることになる。

 今は、大気圏離脱を果たしつつあるハーレーとティーガーの下方で、プラズマジェットを全開にしているはずだった。


『ハッ……。

 宇宙空間なら、ビームもパルス弾も使い放題だ。

 連中に、カラドボルグの力を思い知らせてやるぜ』


 サブモニターの通信ウィンドウ内で、ジョグが獰猛な笑みを浮かべる。

 余談だが、彼だけは収容が間に合わなかったため、艦外で機体をしがみつかせる形で取り付いていた。


「幸いなのは、誰一人欠けることなく集合できたということでしょうか。

 ……よろしい。

 PL各機は、大気圏離脱を果たすと同時に迎撃態勢を取ります。

 付近の宙域には、宇宙港へ受け入れてもらえなかった船舶がいるため、十分に留意してください。

 通信士は、オープンチャンネルで避難の呼びかけを」


『『『『『――了解』』』』』


『アイ、アイ、マム』


 俺の指示に……。

 各パイロットと通信士から、元気のいい返事が返ってくる。

 さあ……。

 敵は、白騎士団だ。




--




 近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093091171907173


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