黒騎士襲来

「私の邪魔を……」


 対艦刀モードへ戻した左のスマート・ウェポン・ユニットを振り上げながら、クサナギの軽快な機動力で敵リッターへと接近する。


「するなあああっ!」


 撃ち放ったビームを見切られて接近され、硬直する敵機に対し、そのまま、対艦刀を振り下ろした。


 ――ブッピガン!


 何しろ、艦艇を叩き切るための刀剣なのだ。

 たかが一機のPLが抗せるはずもなく、哀れ、そのリッターは縦に両断される。

 これでまた一つ、敵旗艦への障害は取り除かれた。

 しかし……。


「多勢に無勢か!」


 叫びながら、たった今、敵を両断するのに使ったスマート・ウェポン・ユニットを盾代わりとする。

 前方向から放たれたビームの集中砲火が、ユニットの装甲という装甲を剥ぎ取り、対艦刀としての機能を失わせた。


「左のユニットで使えるのは、ショートソードだけか」


 分割変形可能なユニットから、無事な部分を手元に呼び戻し左手で保持させる。

 このショートソードは、更なる分割を行うことでダガーとして用いることも可能だが、結局、レンジが短くなってしまったことに変わりはない。


「どうにかして、カトーの首を取らなければ……!」


 ケンジの意思を受けたクサナギが、イナズマめいた機動で敵リッターたちの射撃を縫う。

 そうして接近を果たし、リッター二機を健在な右の対艦刀で真っ二つとしたが、それでもまだ、敵艦隊へ肉薄するほどの隙間は生み出せない。


 前方のみならず、上下左右から艦隊直掩のリッターがビームライフルを撃ち放ってくるため、回避軌道を取るだけでも精一杯なのだ。

 このような状況にも関わらず、多少なりとはいえ敵PLの数を削れているのは、ケンジの操縦技術とクサナギの性能を証明しているといえるだろう。


「一手足りない……!

 カトーへ肉薄するための、一手が……!」


 バッタのごとく跳ね回った機動で迫りくる無数のビームを回避しながら、歯を食いしばる。

 敵の秘密基地側では、アレルとカミュ嬢が、何者か――かなりの腕利きが操る試作機とならず者たちの相手をしており……。


 敵艦隊を挟んだ向こう側では、ユーリ少年の操る新造機が敵主力を引き付け、海賊少年のカスタム機も艦隊周辺を飛び回りながら突撃の機会をうかがっているようだ。

 また、生き残り艦隊と海賊の連合軍も、カトーが放ったリッター隊と激しく交戦しているようだった。

 つまり、こちら側が切れる手札は、すでに全て切っている状態……。


 ドローが必要だ。

 逆転に繋がる強力なカードの補充が……!


『――ちの――は――だ?』


「なんだ……?」


 オープン回線から声が入ったのは、その時のことである。


「ひどく強力な電波が……この宙域に向け、放たれている?」


 敵機の攻撃から注意は逸らさないまま、サブモニターの情報を拾う。

 まるで、拡声器を手にして呼びかけるかのように……。

 何者かが、妙に強力な電波でオープン通信を行っているようだった。

 ただ、まったく分からないのが、その意図だ。


「チューキョーの内乱は、銀河中に喧伝されている。

 となると、サーカス船でも迷い込んだわけでもあるまい……。

 一体、どういうことだ? カトーめの罠か?」


 だが、口にした推測が間違っていることは、敵軍のリッターを見れば明らかである。

 どうやら、彼らにとってもこの通信は知りえないことであるらしく、困惑している様子なのが、若干ぬるくなったこちらへの攻撃から見て取れるのであった。


 電波の発信源が――それも猛烈な勢いで――こちらに接近しているのだろうか?

 徐々に、オープン回線から放たれる声が、その音量を増していく。

 いわく。


『もう一度聞こう! 貴様らの敵は誰だ?』


「この声は……」


 明らかに、どこかで聞き覚えがある。

 確か……そう。

 上級の貴族が集まる会合などで耳にする声だ。

 そして、回線から放たれるのは、この人物の声のみではない。


『『『カトー! カトー! カトー!』』』


 何人もの男たちの返答する声が、続けて流されてきたのであった。

 さらに、最初の男が問いかける。


『貴様らはカトーのクソ野郎をどうしたい?』


『『『殺せ! 殺せ! 殺せ!』』』


『貴様らの特技はなんだ?』


『『『殺せ! 殺せ! 殺せ!』』』


『貴様らは帝国を愛しているか? カミュちゃんを愛しているか?』


『『『ガンホー! ガンホー! ガンホー!』』』


『カミュちゃんを愛している奴は後でおれの所に来い! すり潰してブタの餌にしてやる!』


『『『マイガー! マイガー! マイガー!』』』


「この声、もしや……」


 普段とあまりに声色――というか、人格そのものが異なるせいで、優れた聴覚を持つケンジでも判別できずにいたが……。

 ようやく、問いかけている人物が何者であるかに気づく。

 というか、話してる内容を思えば、該当する人物など全銀河にただ一人しかいない。

 そして、その人物は帝国でも屈指の腕前を誇るスーパーエースであり……。

 擁する新鋭部隊は、銀河最強とうたわれる騎士たちなのだ。


『ようし! 黒騎士団よ! 突貫せよ!

 カトーのクソッタレをぶっ殺すぞ!』


『『『オッケーイ!』』』


 大型の肉食獣もかくやという殺意に満ちた叫び声が、オープン回線から放たれると同時……。

 別のものも、彼方から敵軍に向かって降り注いだ。

 それは、なんとも美しき――光条。

 しかして、その実態は、恐るべき破壊エネルギーを含んだ灼熱の重金属粒子だ。


 ――ビーム。


 PLサイズの出力で放たれた荷電粒子ビームが、いくつも敵軍を襲っているのだ。

 ビームの光条と、直撃した敵機の爆光……。

 それらへ殺到するかのように飛来したのは、ひどく特異なシルエットのPLたちであった。


 まるで、巨大なブースター・ポッドに手足を取り付けたかのような……。

 人型機動兵器たるPLでありながら、人の形すら維持していないデザインなのである。

 しかも、マニュピレーターが存在すべき箇所に取り付けられているのは――ビームガン。

 高速機動戦闘という設計思想に従い、一切の無駄を排除した姿は、さながら猟犬のようであった。

 この機体は、圧倒的な機動力でもって急行し、敵となる存在を殲滅することだけに特化しているのだ。


 これなるPLたちの名を知らぬパイロットは、モグリであると言い切ってよい。


 ――トリシャス。


 銀河最強の精鋭PL部隊――黒騎士団が駆る専用PLである。

 そして、彼らを束ねし長は、戦場の上方から凶悪な殺気を放っていた。


 トリシャスと打って変わって、アスリートじみてさえいる均整の取れた人型を染め上げるは――黒。

 頭部は軍帽を思わせる形状であり、人間でいう顔に当たる部分のデザインも、どこか凶暴さが感じられる。

 両肩に漂っているのは、それぞれライフルとシールドの役割を持つスマート・ウェポン・ユニット。

 両腰部へ漂っている同種ユニットは、大型の展開式粒子振動ブレードだ。


 ――ティルフィング。


 間違いなく銀河最強の一角だろうカスタムPLであった。

 搭乗しているのは……。


「ウォルガフ・ロマーノフ大公!

 間に合われたか!」




--




「――お父様っ!」


 逆手に構えた通常矢で敵試作機の蹴撃しゅうげきをしのいでいた俺は、今や懐かしくすら感じられる声に喜びの叫びを上げていた。




--




 近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093088049706573


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