集っちゃった者たち

『やれやれ、話に聞いていた以上にお転婆なお嬢様だ。

 まさか、ロマーノフ大公家のご令嬢が、PLに乗って海賊の船長と取っ組み合いをするとはな……』


 若い男のものと思える音声通信が、リッターのコックピット内に響き渡った。

 通信を飛ばしてくる主は、トリモチとワイヤーとでがんじ絡めとなっている俺たちの前へ、こつ然と現れた青いPLだ。


 と、いっても、まさか何も無い空間からにじみ出てきたということもあるまい。

 真空の宇宙において、おかしな表現ではあるが……。

 ただ、こいつは――静かなのだ。


 人型をしていることもあり、PLというものは、内部からこれを操縦するパイロットの息遣いが嫌でも伝わってくるものである。

 少なくとも、アレルにせよ、しょーもない口喧嘩を繰り広げてしまったジョグにせよ、パイロットの性格と個性が、モーションパターン以上の雄弁さで俺に語りかけるのを感じられた。


 翻って、こいつにはそれが――ない。

 ただ、最小にして、最適……。

 機体の挙動一つ一つに、一切の無駄というものがなく、それが死神めいた静けさを生み出しているのである。


「この機体は……」


 そのように密やかな挙動とは裏腹に、機体そのものは、極めて個性的なデザインをしているPLだ。

 全体的なシルエットは――細身。

 ミストルティンもスマートさという点では優れているが、それよりもさらに装甲が削ぎ落とされた設計であった。

 結果、各関節の可動域は、明らかに広がっており……。

 見るからに、接近戦を重視した機体であるのが分かる。


 その予想を裏付けるのは、機体の武装構成だ。

 最新鋭のPLにはおなじみのスマート・ウェポン・ユニット形式を取っているのは、機体の両側に自立浮遊する超大型の対艦刀であった。

 ただ、これを一見して、粒子振動ブレードであると判断できるのは、かなりの通に限られるだろう。

 何しろ――デカイ。

 機体の全長を上回るほどであり、パッと見では、シールドのようにしか見えないのだ。


 ただ、防御用の兵装であるシールドと明らかに異なるのは、下部に存在するブレード部分であり……。

 しかもこれは、実のところ、刃渡り様々な粒子振動ブレードが折り畳まれて合体した兵装であることを、前世の知識から俺は知っていた。


 ――対艦刀。


 ――ロングソード。


 ――カタナ。


 ――ショートソード。


 ――ダガー。


 実に五種類もの刃物を複合させたこの兵装は、あの機体を最強の剣戟用PLとして君臨させているのである。

 これなる機体の名は……。


「……クサナギ」


 潔いといえば、あまりに潔い。

 欲張りといえば、あまりに欲張り。

 ただ、立ち塞がる敵を切り倒すことにのみ特化したPLは、日本神話に伝わる神剣の名を冠していた。


『そこの宇宙海賊』


 対艦刀の一本をマニュピレーターで保持したクサナギが、その切っ先をこちらに向けてくる。

 分厚い刀身の周囲を重金属粒子が覆い、高速振動している様は、秘められた切れ味を否が応でも感じさせた。


『――詰みだ。

 大人しく投降すればよし。

 まだ抵抗するというのなら、タナカ家領主の名において、その命を取らせてもらおう。

 万全ならさておき、その状態で勝てるとは思わないことだな』


『くっ……』


 カラドボルグのコックピット内で、ジョグが悔しげにうめく。

 まだ接触回線が繋がりっぱなしなので、その様子はこちらにリアルタイム中継されていた。


『――ケンジ!

 済まない。助かった』


 と、そんなやり取りをしている所へ、横から入ってきたのがアレルだ。

 どうやら、最後のヴァイキンを片付けたのだろう。

 彼を乗せたミストルティンは、こちらへ向かって猛烈な勢いで飛翔してきている。

 ……無我夢中で気が付かなかったが、カラドボルグの圧倒的な機動力は、俺たちを輸送船から随分と離れた場所まで運んできてしまっていたらしい。


『アレルか。

 油断したな。

 君ともあろうものが、お嬢さんをみすみす危険な目に遭わせるとは』


『返す言葉もないな。

 それより、どうしてこんなところにいるんだ?』


 アレルの言葉に、クサナギが肩をすくめてみせた。


『何……君からお忍びで来ることは、聞かされていたからね。

 無粋かとは思ったが、タナカ伯爵家当主として、非公式なりに挨拶しておこうと待ち構えていたのさ。

 もっとも、君は最短の経路から少し外していたので、こうしてタイミングはズレたがね』


『あくまで、お忍びの旅行だからな。

 無用なトラブルを避けようという選択だよ。

 結果として、海賊に襲われてしまったわけだが……』


『ははは。

 裏目を引いたというわけか』


 アレルと和やかに音声通信を交わしているのは、タナカ伯爵家当主――ケンジ・タナカ。

 これから向かうスペースコロニーチューキョーの主であり、『パーソナル・ラバーズ』本編より四年前の現在は、二十歳くらいのはずである。


『――お嬢様!

 ご無事ですか!?』


 そうこうしているところへ、ユーリからの通信が入った。

 彼の操縦する輸送船は、ミストルティンのさらに後方からこちらへ向かっているようだ。


『……クソッタレが』


 こちらが終わった雰囲気を出している一方、吐き捨てているのが、通信ウィンドウの先にいるジョグ……。

 カラドボルグの背後には、ワイヤーとトリモチで一体化したリッターが張り付いており、正面からは、クサナギが油断なく対艦刀を向けてきている。

 加えて、ミストルティンも到着しつつあるのを見て、もはや抵抗の余地がないことを悟ったようだった。


「お嬢様……終わったんですね」


 サブシートに座ったエリナが、安堵から胸を撫で下ろす。

 そう、終わったのだ。

 海賊の襲来……。

 それから、極めて強力なカスタムPLとのタイマン……。

 危機を乗り越え、今、俺たちは五体満足でこうしている。

 なのに、俺はまったく気を抜くことができず、ただシートにもたれかかっていた。

 それも、そのはずだろう。


 なんの因果か、はたまた偶然か……。

 今、この場には、『パーソナル・ラバーズ』の攻略対象たちが、一堂に会することとなっていたのである。


 白亜の機体を操る貴公子――アレル・ラノーグ。

 銀河を生きる盲目のサムライ――ケンジ・タナカ。

 宇宙海賊スカベンジャーズのキャプテン――ジョグ・レナンデー。

 やがては同盟軍を率いることになる天才メカニック――ユーリ・ドワイトニング。


 個性いろいろ、まだ建造されていない一名を除き、搭乗機体もとんがった面々であった。

 バラエティ豊かなのは、彼らのパーソナリティと専用機だけではない。

 ゲーム本編におけるわたし――カミュ・ロマーノフの散り際もそうだ。


 荷電粒子の奔流に呑まれ、跡形もなく蒸発し……。

 生身の状態で対峙し、ワザマエによって惨殺される……。

 マニュピレーターで叩き潰され、フレッシュトマトと化すこともあった。

 殺さずに放免してくれたとて、その先に明るい未来がないことは、バッチリ示唆されている……。


 いやー、まいったな。

 関わるとロクなことにならなそうな殿方たちが、全方位を囲んじまっている。

 そして、お疲れ様でしたーおたっしゃでとならないことは、空気から明らかであった。


 あー……そうだ。

 こういう時は、アレだな。


 ――わたし。


 ――これからどうなっちゃうのー!?




--




 近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093085870380762

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093085870424893



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