ニンジャたちの襲撃

 突然、試作機が動き出すと共に……。

 上の方でも、異変が発生した。

 PL製造能力を備えた施設ということもあり、この工場は天井が非常に高く、メンテナンス用の空中通路が、クモの巣めいて張り巡らされているわけだが……。


「――いたぞっ!」


「――ケンジ伯爵だ!」


「――その客人たちも揃っておるわ!」


 その上に、どこからともなく人影たちが姿を現したのである。

 人の影……。

 そう、人の影という言葉がふさわしい。


 何故なら、彼ら彼女らは漆黒のマスクで顔を隠しており……。

 体の方も、黒子じみたボディスーツで覆っているからだ。

 物々しいのはその武装で、それぞれが、弓矢や槍、刀を手にしている。


 ――ニンジャ。


 タナカ伯爵家が誇るシャドウウォリアーたちが、彼らであった。

 時には、堂々とした警備として……。

 また、時には表沙汰にできぬ裏仕事の執行者として……。

 陰に日向にタナカ伯爵家を支えているのは、銀河中に広まっている公然の秘密だ。


 伝え聞くは、白兵戦闘力の高さ……。

 見た通り、前時代的というのもはばかられる武装でありながら、各貴族家が抱える特殊部隊に劣らぬばかりか、上回るほどだという。


 えー、つまりは、そこで唖然としているケンジさんの配下たちであるわけでしてね。

 そんなニンジャさんたちが、何かものすごーく殺気を発しながら、こちらを見下ろしておられます。

 もうね。こうなったら、俺がやるべきことはただ一つだ。

 そう……。


「アイエエエエエッ!?」


「ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」


 ……俺がやる前に、この工場で働いてる皆さんが上を指差しながらお叫びになられてしまった。

 というか、冷静に考えて、ヘッズと化してる場合じゃなかったわ。

 なぜなら、目の前では、一歩を踏み出した試作機が、もう一歩を踏み出そうとしているのだから!


「――全員、逃げろ!」


 アレルの言葉にハッとなった俺たちは、大慌てで工場の隅――出口がある方へと走り出す。


「なんなんですか、これは!?」


「分かるわけないでしょう!?

 いいから走りなさい!」


 混乱するエリナに叱咤し、ひたすら足を動かした。

 見れば、工場内は大混乱となっており、働いてる職人さんたちがその場へしゃがみ込んだり、右往左往したりしている。

 ニンジャを見た結果、遺伝子的に刻まれた恐怖がチューキョー人の脳を刺激し、正常な判断ができなくなっているのだ。


 だが、彼らが心配する必要はない。

 どうしてかって?

 天井から飛び降りたニンジャたちが向かっているのは、俺たちの方なんだから!


「――イヤーッ!」


 ニンジャの一人が、手にした刀で飛び降りがてらにケンジへ斬りかかる。


「――ちいっ!」


 だが、それでやすやすと殺されるケンジではない。

 白杖を、カチリと鳴らしたかと思ったら……。

 杖が分割され、しかも、内側から細身の刃が飛び出したのだ。


 ――仕込み杖!


 歩行補助の杖に刃を仕込むは、盲目キャラのお約束だ!

 白刃が交差し……。


「――グワーッ!?」


 ケンジの刃を受けたニンジャが、そのまま着地することなく床へ激突する。


「お嬢様、見てはいけません!!」


 すぐに俺の視界を遮ったのが、女装姿でありながらも勇ましいユーリちゃんだ。

 彼は俺を庇うようにしつつも、油断なくニンジャたちに目を向けていた。

 その雰囲気から、何かを察したのだろう。


「少年、使え!」


 ケンジが、懐から取り出した拳銃をユーリに投げ渡す。

 それを難なくキャッチし、素早くスライドラックするユーリ。

 子供の彼にとっては手のサイズが合っていないが、それを苦とはしていない様子だ。

 ……え? 生身で戦える人なの?

 そんなシーン、『パーソナル・ラバーズ』作中では一度もなかったぞ。


「くそ、なんなんだ一体!?」


 懐から拳銃を取り出したアレルが、照準先に迷いながら毒づいた。


「分からん。

 分からんが、戦って切り抜けるしかなさそうだ」


 やや斜め上の方に視線を向けながら、ケンジが仕込み杖を構える。

 これは、倒すべき敵がどこにいるのか、分かっていないわけではない。

 ただ、視覚以外の全感覚を集中させているのだ。


「ユーリ君、やれるのか!?」


「……あまり、やりたくはありませんが」


 アレルの問いかけに、ユーリが答える。

 拳銃を構える彼の姿勢は堂に入っていて、明らかに何かの訓練を積んでいるか、あるいは実戦経験があるのを感じさせた。

 というか、聞いた側のアレルよりよほど様になっている。


「お嬢さん方は、伏せていたまえ」


「は……」


「はいい……」


 こうなると、俺やエリナに出来ることなど何もない。

 ただ、頭を抱え込んでその場にしゃがむだけだ。

 だから、どのような戦いが繰り広げられたのかは、感じ取るしかない。


「――イヤーッ!」


「グワーッ!?」


「――イヤーッ!」


「グワーッ!?」


「――イヤーッ!」


「グワーッ!?」


 ただ、上から飛び降りてくるニンジャたちの雄叫びや悲鳴……。

 それから、剣戟の音や銃声は嫌でも耳にこびりつく。


「……よし、進もう」


 少し静かになってから、ケンジが冷静な声で言い放つ。


「進むって、どこにだ?

 向こうはPLまで奪ったようだぞ」


 顔を上げると、アレルが拳銃のマガジンを交換しながら試作機に目を向けた。

 彼が言う通り……。

 何者かが乗り込んでいたらしい試作機は、そのまま工場の外へと続くゲートに歩もうとしている。


「それは気にしなくていい。

 奪ったPLで襲いかかってこないということは、賊はこの施設に被害を与えたくないということだ。

 連中が襲いかかってきたのも、我々だけのようだしな」


 見えていない目で、どう感じ取ったのだろうか……。

 確かに、ケンジの言う通り、他の職人さんたちはただ怯え惑っているだけで、人的被害は出ていないようだった。


「でも、このままここにいたら、新手が来るかもしれないわけですね。

 ですが、なんの策もなく飛び出して行っては、袋叩きにあうだけでは?」


 ケンジから投げ渡された新しいマガジンを受け取り、素早く装填を終えたユーリちゃんが、冷徹な眼差しで周囲を見回す。


「……この工場内にも、秘密の脱出路がある。

 今日は秘密の大盤振る舞いだな。

 ――ついて来てくれたまえ」


 言いながら、ケンジがさっそうと歩き出す。

 こうなっては、彼に従う他になく……。


「お嬢様……」


「ええ……」


 俺は、エリナに支えられるようにして立ち上がると、他の皆と共に後へと続いたのである。




--




 近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093086362129251

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093086362184316



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