オロッソの乱――終結

「すげえ……!」


「騎士爵側のPLが、どんどんやられていくぞ!」


「じゃあ、やっぱりあのIDOLとかいう連中は、おれたちの味方なのか!?」


「だったら、こちらのヴァイキンに攻撃を仕掛けては――わっ!?」


 廃棄された建物の三階に隠れながら戦況を見守っていたレジスタンスたちが、身をすくめた。

 彼らの近くで伏せ、同じように様子をうかがっていた味方ヴァイキンの一機……。

 それが、横合いから放たれたビームの直撃を受けて、頭部を破壊されたのだ。

 荷電粒子ビームがもたらす熱とイオン臭は、人間に死を直感させる。

 それゆえに、恐怖を抱いたレジスタンスたちは、窓辺へ伏せるようにして身を隠していたが……。

 やがて、恐る恐る顔を覗かせた一人が、それを発見した。


「スマート・ウェポン・ユニットか……」


 彼が口にした通り……。

 円盤状のスマート・ウェポン・ユニットが、横合いから荷電粒子ビームを撃ち込むことによってヴァイキンを無力化したのだ。


 ――ズウン!


 そして、そのユニットを放った本体も地上に着地する。

 いかにも重々しく分厚い装甲をまとったシルエットは、戦車をそのまま人型へ抽出したかのようだ。

 その印象を加速しているのは足裏に装備した履帯で、これが着地するなりしゃがみ込んだ機体へ、滑るような機動性を与えていた。


 ――ダダダッ!


 味方ヴァイキンが放った迎撃のマシンガンは、しかし、完全に射線を見切られており、グリーンカラーの頭上スレスレで空を切る。

 履帯の機動力にモノを言わせ、しゃがんだまま接近した敵機が振るったのは、右手に備えたブースター付きのアックスだ。


 ――ズバンッ!


 ブースターの力も借りて下から切り上げられたアックスが、まとった振動粒子の力でヴァイキンを切り裂く。

 左脚ごとマシンガンが備わった左腕部を切り裂かれてしまえば、もはや、そのヴァイキンはダルマも同然であった。


 破壊をもたらすのは、本体のみではない。

 すでに分離を済ませている三基の円盤状スマート・ウェポン・ユニットが、ビームによってレジスタンス側のヴァイキンを無力化しているようである。

 それにしても、黒赤の機体もそうだが、こちらのパイロットも技量が並外れていた。


 と、いうのも、スマート・ウェポン・ユニットたちは、自分への銃撃は回避しつつ、明らかに頭部などへの射撃でパイロットを殺さず無力化しており、これは、自動操縦で対処しきれる範囲を超えた動きと思えるのだ。

 さすがに、大半はAIによる操縦であろうが、肝心の部分では、親機に乗ったパイロットの操作が関わっているに違いない。


 ならば、子機たるユニットを含め、事実上、一人で四機もの機体を操っているということ……。

 それでいて、未来予知か、あるいは相手の意思を読んでいるかのような動きで攻撃は回避し、的確に無力化していくのだから、レジスタンスごときに成す術などあるはずもなかった。


 戦場を跳ね回る黒赤の機体……。

 スマート・ウェポン・ユニットも駆使したビーム攻撃で攻め立てる緑の機体……。


 両者によって、戦場の様子は一変している。

 もはや、レジスタンスも騎士爵軍も、完全に――狩られる者。

 反面、戦艦で頭上を抑え、未知の機体によってPLも歩兵戦力も無力化していくIDOLという組織は、狩る者だ。


 狩人といえば、あまりにその要素を体現しているのが、黒赤と緑に続いて出撃した漆黒のPLだろう。

 ただし、この機体のみは前二機と異なり、上空に留まったままである。

 それゆえ、誰の目にも機体の姿がハッキリと映るわけだが……。

 リッターを改造したと思われる機体の特徴は、なんといっても、ミドルとロング二種類の弓を装備しているということ……。

 とはいえ、手持ち式のミドルボウは折り畳んで後ろ腰に装着しており、この戦場で用いているのは、もっぱら左腕部一体型のロングボウであった。


 そこから放たれる矢が、問題だ。


 PLの腕力を用いて放たれるゆえ、矢羽根も何も無い杭のごとき矢が、上空から地面に突き立つ。

 特殊な武装であるため、火器管制システムFCSが対応しきれず、誤った場所に射てしまったのか?

 ……そうでないことは、突き立った矢のシャフトを見れば明らかだ。

 なぜなら、シャフトの中ほどに、サウンドスピーカーめいた機構が存在するからである。


 ――ギュウウウウウンッ!


 その機構から、人間の聴覚では知覚できないほどの爆圧的な音波が放たれた。

 これは、先行した機体たちが放っていたのと同種の超音波砲……。

 しかも――レジスタンスや騎士爵軍には知る由もないが――矢は突き立つと同時にエコー測定を行っており、内部演算装置のAIが瞬時に射程範囲内の地形と隠れ潜む歩兵を把握。

 障害物による反響も利用して、立体的な音波攻撃を行っているのである。


 このような攻撃をされると、廃工業地帯に隠れ潜みながら銃撃の機会をうかがっていた歩兵たちにとっては、たまったものではない。


「――ぐあっ!?」


「――うおっ!?」


 レジスタンスも、騎士爵軍も関係なく……。

 歩兵たちは、迅速に無力化されていく。

 上空から射る音波矢の効果範囲から漏れた分を片付けるのは、先行した逆関節機の役目だ。

 無人ドローンの航空偵察も組み合わせ、入念に索敵した上でPLサイズのアサルトライフルを向けられては、超音波砲など放たれなくとも、両手を上げて降参するしかなかった。


 そうして、歩兵が無力化された頃には、黒赤と緑の機体によるPL戦も決着がついており……。

 気がつけば、惑星オロッソの命運を決める決戦地帯で健在なのは、全くの部外者であるIDOLという組織の者たちのみとなる。


「一体、どうするつもりなんだ……」


「秩序維持機構だとか言っていたが……」


 こうなると、もはやレジスタンスも騎士爵軍も関係なく……。

 惑星オロッソの者たちは、地上を制圧するPLたちか、あるいは、上空の弓使いや戦艦を見上げていた。

 そうすると、弓使いのリッターに変化が起こる。

 大胆にも胸部のコックピットハッチが開き、しかも、その姿を、戦艦がホログラフィー映像で上空に投影し始めたのだ。


『皆さん! 戦いは終わりです!』


 なんと、弓使いの搭乗者は、あの少女であったのか!

 最初に、軍服姿で介入を宣言した少女が、今度はパイロットスーツ姿で言い放つ。

 ホログラフィー映像は、彼女の一挙一投足のみならず、その音声も極めて明瞭に拾っていた。


『カルス・ロンバルド皇帝陛下は、これ以上の流血を望んでいません!

 また、それだけではなく、貴族が為政者としての任を忘れ、不当に民から金品を徴収することも、銀河憲法により禁じています!

 すでに、ターブ騎士爵が行ってきた不当な搾取については、確かな証拠と共に帝室が知るところとなっています!

 近く、元当主は罷免され、新たに抜擢された者がこの惑星を統治することとなるでしょう!

 わかりますか!? レジスタンスも騎士爵軍も、すでに戦う意味を失っているのです!』


 その言葉を受けて……。

 超音波攻撃を受けずに済んだレジスタンス兵や、無力化されたヴァイキンのコックピットから脱出したパイロットが、次々に歓声を上げる。


 ――銀河皇帝!


 遠い世界の縁なき他人と思えていた存在は、確かに、自分たちのことを気にしていてくれたのだ。


『また、これを伝えるにあたって、双方の無力化を優先したのは、憎しみからくる過度な報復を避けるためですので、ご容赦ください!』


 そこまで言った少女が、コックピットの中へと戻る。

 こうしてみると、顔立ちの愛らしさもあり、レジスタンスにとって彼女は、福音を告げる天使のように思えた。

 あるいは、正義のために軍勢を率いる現代のジャンヌ・ダルクか……。


『さて、戦いも終わったところで……』


 いまだホログラフィーによる中継は続いており、コックピット内の少女が大空に映し出されている。

 そして、立体映像の彼女は実に可憐なウィンクと共に、こう告げたのだ。


『この後はライブを行いますので、皆さん、楽しんでいってくださいね!』


 ――ライブ?


 地上のオロッソ人が、そろって首をかしげた。




--




 近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093088703119237

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093088703155224


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