カラドボルグⅡ
IDOLを名乗る組織による乱入……。
これにより、戦場と化した廃工業地帯には、奇妙なこう着状態が生まれていた。
それまでは、優勢の騎士爵軍側が押し込み、レジスタンス側はPLも歩兵も防戦一方という状態だったのだが……。
赤いPLたちが間に入った結果、騎士爵軍・レジスタンスの両者が押すに押せない状態となっていたのである。
そうなったのは、ひとえに赤いPLのパイロットたちが、確かな腕前を持っていたからだろう。
逆関節構造由来の軽快な足さばきを活かし、時にステップで、時には屈むことで、ビームもマシンガンも回避していく。
しかも、頭上では背部から分離したドローンが、リアルタイムで敵味方の位置情報を送っているようであり……。
その情報を基に、豊富な遮蔽物に隠れながらそれらの回避運動を行うのだから、挟み込んでいるはずの両軍は大いに翻弄されていた。
しょせん、片田舎の辺境惑星で生まれ育った者たちであり、PL戦の練度がまったく不足していたことの証左であろう。
ただし、IDOL所属機たちも、なかなか反撃しきれない。
戦場においては、挟撃し、包囲した側が絶対的に有利であり、その法則は、生身の人間が弓や槍で争っていた時代から、いささかも変わっておらぬ。
その上、どうもこの連中は、戦場に散らばっている生身の歩兵たちを強く意識しているようなのである。
自ら挟撃される形を選んでいる上に、歩兵の保護と無力化などを差し挟んでいては、PLに対する攻撃がおろそかとなるのは当然であった。
これだけならば、IDOLという組織はご大層な戦艦で現れてPLを投入したものの、自ら戦局的な袋小路を作り出してしまった間抜けたちということになるだろう。
だが、赤いPLたちは先発部隊に過ぎず……。
後続のPLたちも、戦艦の電磁カタパルトから射出される形で姿を現したのだ。
最初に飛び出したのは、黒を主体として各所に赤いカラーリングが施された機体である。
この機体、おそろしく――速い。
背部に一つ、両脚部にも一つずつ。
計三つのバーニアが配置されており、それらを直線的に作用させることで、電磁カタパルトによって得られる初速をさらに増しているのだ。
まるで――キャノンボール。
砲弾のごとく空中を飛翔するシルエットは、細身かつマッシブな人型であり、バーニアを配置された両脚部は、他の部位に比べてやや膨れ上がった印象を受ける。
頭部はスポーツバイクのヘルメットめいた形状であり、それが細身でマッシブなボディパーツと合わさって、どこかスポーティな印象を見る者に与えた。
武装は、二丁持ちにしたライフル。
右手に握っているのはアサルトライフルであり、左手に装備しているのはビームライフルである。
アサルトライフルに関しては先行する機体たちとほぼ同型であることから、本機は、実弾とビームを使い分ける意図で武装をセレクトしたと推測できた。
あるいは、乗り手が単純に攻撃的な性格であるだけか。
その証拠として、強度確保の意図もあろうが、脚部構造は通常の人型であり、シールドも装備していない。
先行する機体たちのように特殊な意図は込めず、あくまで、スピードとアタックに特化した設計のPLであるのだ。
それにしても、新たなPLが見せる空中機動の、なんと自由自在なことであろうか。
PLという機械は、重力子のコントロールによって本来存在するはずの重力を無視し、無理矢理に浮いているわけであるから、戦闘機のように超音速で飛び回るというわけにはいかない。
だが、三か所のバーニアによってもたらされる最高速度は、限りなく音速に近いものであることが、傍目にも明らかであり……。
その上、両脚部のバーニアを使っての方向転換が、重力法則を完全に無視した上で行われるのだ。
まるで、バレリーナか、あるいは軽業師か……。
遥か上空をステージとし、時に急加速し、時には急旋回からの立体的な方向転換をして、黒赤の機体が自身の機動性を見せつける。
そして、PLという兵器が驚異的なのは、この機動性を発揮できるフィールドが、空中だけではないということだ。
デモンストレーションか、あるいは慣らしが終わったとばかりに空中で停止した機体は、じっと真下の戦場を見下ろした。
搭乗者の意思をフィードバックするかのように巡らせた頭部が見据えたのは――騎士爵軍。
ビーム兵器を擁するリッターの方が、より脅威度で勝ると判断したのである。
再び強烈な加速を見せつけた機体が、黒赤の砲弾と化して地上に降下した。
無論、これを黙って待つ騎士爵軍ではない。
対空迎撃するべく、それぞれのリッターが、右腕部装着型の大型ビームライフルを発射する。
――ビューン!
野太い音と共に、灼熱の重金属粒子が光条となって上空へ迸ったが、これは――当たらない。
空中での機動力は、先ほど見せてやったとばかり……。
跳ね回るバッタのような回避運動を見せて、黒赤の機体はビーム群を完全回避せしめたのであった。
そして、ビーム兵器を装備しているのは、黒赤の機体も同じ……。
回避運動を取りながらも、左手のビームライフルが反撃として発射される。
――ビュン!
ビームの発射音は、リッターのそれよりも鋭く、また、実際に放たれた荷電粒子ビームそのものも、リッターのものより細い。
これは、出力で劣っているからではない。
あちらのビームライフルが、より優れた収束率を誇るからであった。
――ボッ!
針のような細さを誇る上空からのビームが、一機の頭部へ命中する。
光線はリッターの顔面部をたやすく貫き、遅れて、荷電粒子の熱が頭部に大穴を広げた。
まるで、マシュマロに焼けた鉄串を突き刺したかのよう……。
相手のビームライフルが持つ威力は、銀河帝国が標準採用しているそれ以上に、一撃必殺の威力を誇るのだ。
騎士爵軍側のリッターが恐れおののく間に、黒赤の機体は地上への降下を果たす。
ただし、着地するような真似はしない。
重力子操作によって重力のくびきから解放された機体は、両脚部のバーニア噴射によって、地表を滑るように移動したのである。
その機動力は、空中を飛び回っていた時といささかも変わらない。
PLという機械が飛行する原理を思えばこれは当然のことであったが、それにしても、廃工業地帯に立ち並ぶ建物の間を縫い、あるいは飛び越えながら、三基のバーニアでトップスピードを維持し続けているのだから、これは脅威というしかない。
間違いなく、機体の性能そのものもすごい。
だが、それ以上に凄まじいのは、内部でこれを操っているパイロットだ。
このパイロットが乗っているからこそ、障害物だらけの地上を、パルクールめいた挙動で動き回れているのである。
それは、リッター側からすれば、瞬間移動を繰り返すような動きであり……。
なんとか撃墜せんと放たれたビームは、むなしくかわされるのみであった。
そうこうしている内に、黒赤の機体は、ついに一機のリッターへ接近を果たす。
地を這う狼のような動きで、足元にしゃがみ込み……。
そして、持ち上げた右手のアサルトライフルを、ゼロ距離から叩き込んだ。
――ダダダンッ!
先行の機体たちと同じ特殊弾が直撃し、電磁攻撃を浴びたリッターが沈黙する。
黒赤の機体は、動きを止めることなく再び滑るように移動し、一機、また一機と、近距離射撃によって撃破していった。
たった、一機。
たった一機のPLが、騎士爵軍側のPLを次々と減らしていく。
これは――圧倒的だ。
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「うんうん、よいですよ。よいですよ。
想定通りの見事な活躍ぶりです」
『オメーも働きやがれ!』
カラドボルグⅡの働きぶりを見て、腕組みしながら悦に入っていた俺へ、ジョグからのツッコミが入った。
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近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093088645891077
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093088645935363
そして、お読み頂きありがとうございます。
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