パーティー会場のカミュ・ロマーノフ
「カミュか、久しぶりだな。
元気にやっているか? ケガなどはしていないか?」
翠玉の間へ踏み入るなり……。
銀河最速をマークするスピードで接近し声をかけてきたのは、他でもない……お父様である。
多分、カラドボルグよりも速いと思う。
「お父様、お久しぶりです。
元気にやっておりますし、ケガもしていませんとも。
それより、娘の晴れ姿を見て、他に言葉はございませんか?」
百パーセント確実にこうなると予想していたため、俺は用意していた言葉を、頬なんぞ膨らませつつ告げた。
「おお……そうだったな。
似合っている……宇宙一のかわいさだとも。
この姿を、お前の母に見せたかったものだ」
お父様の反応は、なんとも複雑なものだ。
単に感心しているのではない。
誇らしさと、感動と……一抹の寂しさ。
そういった感情が、俺の中へと流れ込んでくる。
――お母様、か。
わたしにその記憶はないが、俺は母という存在のありがたさや、家族というものの暖かさをよく知っていた。
夫が妻を愛するということが、どのようなものなのかも……。
きっと、着飾った俺の姿を見て、色々な感情が溢れてしまったのだろう。
鉄の男とかいういかつい異名を持つ男も、実態は生の人間に過ぎないということだ。
「もう……大げさなんですから」
まあ、減るもんでもなし。それで満足がいくなら、いくらでも見ればいい。
ちょっと涙ぐみつつあるお父様のために、はしたなくならない範囲で、ドレス姿を見せつけ続ける。
「親子の団らんとは、ほほ笑ましいですな。
鉄の男と呼ばれるお方にも、熱い血潮が流れているのだと思わされます」
「いかにも、ですな。
ですが、今宵は陛下が用意された社交の場……。
差し支えなければ、我らにもご息女を紹介頂けませぬか?」
そうしているところに声をかけてきたのは、お父様とさして変わらないだろう年代の貴族男性たちだ。
えーと……オーフッド子爵にテネーロ子爵か。
両方共、お父様の派閥と呼ぶべきグループに属していて、俺と年齢の近い男児がいた。
実際に会うのは初めてだが、さすがはロマーノフ大公家が雇ったオンライン教師……。
顔立ちは覚えさせられた写真のものとそん色なく、常にアップデートした情報で学ばせてくれていたのだと知れる。
「オーフッド様、テネーロ様。
はじめまして。
カミュと申します」
すかさずお父様の前に出て、ちょこんとお辞儀をしておく。
「おお、我らごときの顔を覚えていてくださるとは……」
「さすがは、ウォルガフ公のご息女ですな」
二人はといえば、まんざらでもない顔で互いを見交わした。
「ムッハッハ!
いや、おれごときには過ぎた娘だとも」
ついでに、お父様の方も上機嫌に笑う。
正直いって、さっさとスルーしてヒラク社長へサインをおねだりしに行きたいところだが、そういうわけにもいかない。
大げさではなく、これは――外交だ。
前世の地球で、政治家たちがそうしていたように……。
こういうちょっとしたところで好感を稼ぐことによって、いざという時の助けを得るのである。
「抜け駆けとは、感心しませんな」
「そうですとも。
噂に聞くカミュ嬢が、ようやくにも社交界デビューを果たされたのです。
挨拶の栄誉を、我らにも分けて頂きませんと」
そんな風にしていると、来るわ来るわ……。
えーと、あっちはゲイル侯爵であっちはサモーネ伯爵。
で、そこのおじさんがスマック子爵で、やや遠慮がちにしているのが、ポリトー男爵だな。
「陛下直属部隊の指揮官……。
ならびに、アイドルとしての活躍……。
報道で目にしておりますとも」
「私などは、銀河ネットワークでの配信を生で楽しませてもらいましたぞ」
「私としては、我が領土で起こっていたゴチソウアニマルの転売屋を執念深く探し出し、撲滅してくれたことについてお礼を言いたいですな」
うーん。
こうなってしまうと、もはや握手会会場だな。
「まだまだ未熟なれど、皆様に支えて頂いて、どうにか指揮官としても、アイドルとしてもやっていけております」
「配信を……それも生でご覧いただいて、光栄です。
どこか、パフォーマンスで至らない点はなかったでしょうか?」
「ゴチソウアニマルの転売については、わたしもかねてから気にしておりましたので、どうかお気になさらず。
それより、捕らえた下手人たちには、きちんと地獄よりも苦しい労役を課してくださっていますか?」
決して笑顔は崩さず、レディとしての所作も忘れず……。
それでいて、転売ヤーのクズ共に手ぬるい措置が下されていないか、キッチリ釘を刺しておく。
まあ、これもロマーノフ大公家息女に課せられた使命であり、わたしはこういった時のためにこそ、英才教育を施されているのだ。
こなしてみせよう。
--
「なんつーか、こうやって見ると、あいつマジにお姫様なんだなー」
翠玉の間というらしいパーティーホールの片隅……。
じっと立ちながら控えていたユーリに、たっぷりと料理の載ったプレートを手にしたジョグが、語りかけてきた。
「そのお姫様が恥をかくような振る舞いは、しないでくださいね?
周りを見てくださいよ。
料理なんて食べてる人、いないじゃないですか」
元海賊の少年へ、少しばかり非難の混じった視線を向ける。
今のジョグは、ユーリと同様のタキシード姿であり……。
強制的に髪を整えられた結果、本来顔が整っていることもあり、なかなかの美男子に仕上がっていた。
……が、主に肉料理の満載されたプレートなど手にしていては、何もかも台無しである。
「んだよお。
せっかく料理が並んでるのに、食わねえのは料理人にも生産者にも失礼だろうが」
「食べるなとは言いませんが、タイミングがあるんですよ」
「温かい内に食べるのが、最高のタイミングってもんだぜ」
「ちゃんと保温されてるから、焦る必要ないですよ」
もぐもぐとローストビーフを頬張りながら答えるジョグに、無駄だと理解しつつ告げた。
――くす。
――くす、くす。
そんな風にしていると、周囲から笑い声が漏れてくる。
この辺りに控えているのは、自分たちと同じく、招待された貴族のお付きとして馳せ参じた者たちで、中にはチューキョーで助けられたキキョウ――当然スーツ姿だ――の姿もあった。
彼らから向けられる思念波に悪意がこもっていないことは、ハイヒューマンとしての感覚で理解できる。
思念波に宿っているのは――ほほ笑ましさ。
が、そうと分かったところで、恥ずかしいことに変わりはなかった。
「に、してもよお……。
オレらくらいの年のやつ、見当たらねえな?
貴族や有名人ってのは、こういうとこにガキを連れて来ねえもんなのか?」
「単純に、招待されてないだけだと思いますよ?
今回は、皇帝陛下による一種の決起集会ですから。
これから、ボクたちIDOLを使って、どんどん悪事に対処していく……。
それに賛同し、協力してくれっていうね」
「はあん?
手下たちを集めて、気合いが入ってるか確かめようってわけだ?
ユーリの言葉に、訳知り顔でうなずくジョグだ。
実際、スカベンジャーズは宇宙海賊として最大規模の組織であり……。
それをまとめるには、相応の気苦労もあったのだろう。
今、銀河中に散っている分家のごときスカベンジャーズ構成員たちは、そのままIDOLの諜報組織として再編されているが、彼らの士気と忠誠心には、気を配る必要もあるかもしれない。
と、そんなことを話してる間に、場の空気がまた変わったのを感じる。
理由は、推察するまでもない……。
今日の主役――銀河皇帝カルス・ロンバルドが姿を現したのだ。
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近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093089180222103
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093089180266882
そして、お読み頂きありがとうございます。
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