海賊たちの本音
前回のあらすじ:ラーメン美味しかった。
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基本的な東京ラーメンの形式を踏襲していながらも、材料から調理法に至るまで、全てが――ハイスペック。
『青春教室カフェ はーもにい』のラーメンを堪能した俺たちは、運ばれてきた食後のお茶なんぞ楽しみつつ、向き合わせた席で真剣な顔となっていた。
「では、腹も膨れたところで、そろそろ本題といこう。
――これから、どうするべきか」
ケンジの言葉に、アレルが懐から携帯端末を取り出す。
「情報共有だが、外部との連絡が取れなくなっている。
一応、こいつは特注品なんだけどな」
「電波妨害……。
例えば、コンサート会場などでは着信音が鳴ったりするのを防ぐため、そういった装置を用いることがあります。
カトー一派が使っているのは、それのコロニー対応版であると考えていいかと」
「でも、カトーの生配信は受信できましたよね?」
メガネをカチャリとやりながら解説するカシコカワイイユーリ=チャンに、自分の端末を手にしたエリナが疑問を投げかけた。
「古典的なフィルタリングです。
何しろ、仕掛けているのはカトー陣営自身なわけですから。
生配信のチャンネルだけ視聴できるようにするのは、技術的にそう難しくはありませんよ。
もっとも、規模が規模なので、前準備は大変ですけど」
「カトーめは、入念な準備の末に決起したということだ。
しかし、そうなると気になるのは、どうしてこのタイミングでそうしたのか、だな」
冷たい緑茶が入ったグラスを置いたケンジが、見えない目をズレた方向にさまよわせる。
「二つ、心当たりがあります」
そんな彼に対し、ラーメン食って当初の目的を達成した俺は、真面目モードで挙手した。
「ほう? お聞かせ願おう」
「まずは、例の可変試作機。
あれが形になるのを、待っていたのではないでしょうか?
何しろ、生配信での声明を聞く限りでは、あの機体こそが決起する大義名分そのものですから」
スラスラと答えてみせると、アレルが腕組みしてみせる。
「確かに、それは大前提でしょうね。
それで、どうなんだ?
あの機体は、最近になってあそこまで完成したのか?」
「まあ、そんなところだ。
だが、それだけだと、今日仕掛けてくる材料としては弱いな。
何しろ、向こうは警備のニンジャたちへ奇襲を仕掛け、全滅させることが可能な戦力がある。
例えば、昨日の夜に『ホテル・ニューエド』で同じように襲撃してきたとして、なんらおかしくはない」
「そこで、心当たりの二つ目です」
ケンジには見えていないが、掲げた手で二本指を立てた。
「わたしが思うに……。
カトー一派が決起したのは、例の宇宙海賊――スカベンジャーズが収監されたと知ったからではないでしょうか?」
「あの海賊がですか……?
あたしには、関係性があると思えないのですが」
半ば確信じみた俺の言葉へ、エリナがいぶかしげな表情となる。
それも、そのはずだろう。
たかが宇宙海賊風情の収監が影響を及ぼそうなどと、誰が思いつくだろうか。
だが、おそらくこの世界で、俺だけは話が――別。
今や大分怪しくなってきてはいるが、前世で『パーソナル・ラバーズ』をプレイしたことにより、巨視的にこの世界を知ることができていた。
その知識に、照らし合わせるならば……。
「あのスカベンジャーズという集団は、そんじょそこらの宇宙海賊とは一線を画した戦力があります。
――これを見て下さい」
ケンジ以外の面子が見れるように、自分の携帯端末を机へ置く。
表示されているのは、先日ブラウジングしておいたスカベンジャーズのホームページだ。
今はネット回線も使えなくなっているようだが、事前に読み込んでおいたページを開くことはできる。
「これは、先日話してくれた連中のホームページか。
確かに、色々な情報を開示してくれているな」
画面に苦笑いを浮かべているのは、アレルだ。
昨夜、ケンジにしたのと同様……。
俺は他の皆に対してもこのホームページについて教え、カラドボルグへ先手が取れた理由を説明してあった。
「実際に見ることはしていませんでしたが、これは……。
もし、ここに記載されている通りの保有戦力だとしたら、艦隊に匹敵しますよ」
俺の操作により表示された保有戦力の項目を見て、ユーリちゃんが驚いた顔をする。
――改造輸送艦五隻。
――改造PL29機。
――カラドボルグ。
これは、数だけならば、弱小貴族の領軍をはるかに上回る規模だ。
何しろ、どこかに秘匿している拠点での後方要員を含めれば、三千人は確実に越すだろう規模だからな。
「話半分だとしても、相当な戦力になるな。
まあ、大げさに宣伝しているだけで、実態は捕まえた連中が総戦力という可能性もあるが……」
「――いや」
アレルの言葉を制したのは、ケンジであった。
「私はそのホームページを見れていないが、確かに、カラスを掲げた宇宙海賊によって、我が領は大きな被害を受けている。
恥ずかしながら、先日も遭遇したパトロール小隊が瞬く間に壊滅され、PLを奪われたくらいだ」
「なら、あながち、誇張ではないということですか……?」
驚くエリナだが、ゲームをプレイ済みの俺は、さらに追加情報も持っている。
「とはいえ、これだけの数が一つの宙域で食べていくのは不可能。
実際には、様々な領土へ分散しているものと考えられます。
そして、彼らは親が命じれば――集結する」
「集結してしまえば、かなりの大艦隊か。
いまだカトー一派と激突していない以上、我が旗下の軍は、押さえつけられている可能性が高い。
だがそれは、カトーからすれば封じられているだけで、行動には自前の戦力しか使えないということ……。
各地で抵抗するだろう人間を武力で鎮圧し、反乱を成功させるにはいささか心もとない数だ」
「そこへこの宇宙海賊が合流すれば、戦力は十分となる……か。
だが、カトーが降れと言ったところで、素直に従うものか?」
「頼み方によると思います」
討論するアレルとケンジの間へ、割って入る。
「あのスカベンジャーズという海賊は、こんなホームページを持っていることから分かる通り、強い承認欲求があります。
それは、裏を返せば、上がりたがっているということ……」
「上がり、ですか?」
ユーリちゃんの言葉にうなずいた。
「カタギになりたいんですよ。
いくら強力な戦力を持っていても、海賊は海賊。
明日をも知れない身であることに、変わりはありません。
でも、今の生活をやめる手段がない。
このホームページは、そういった心の表れでしょう」
実際のところ、これは、ホームページから読み取ったのではなく、ゲームの個別ルートでジョグ本人が語っていたことだ。
いわく――王になりたい。
王となって、ここまでついてきた連中に最高の上がりを迎えさせてやりたい。
それこそが、銀河戦国時代で彼が立ち上がる理由なのである。
鋼鉄の華風に言うと、止まらない人ということだ。
「自分たちという存在を認めてほしい、か。
海賊というものをただ迷惑な存在として考え、あちらの立場や心情に関しては、考えたことがなかったな……」
「彼らも、本来は善良な民と成り得る存在です。
しかし、長き統治によって荒れた銀河帝国が、そういった生き方を許さなくなってしまった……。
と、これは皇室批判になってしまいますね」
アレルの言葉へ付け足す俺に、ケンジが顔を振った。
「いや、統治者としては考えなければいけないことだ。
そして、なるほど……。
どこぞのコロニーを明け渡すなどして、安寧を約束すれば、海賊が傘下に加わる可能性はあるということか」
「そこまで認識して頂いたところで、考えがあります」
にっこりと笑って、結論を出す。
「カトーより先に、あの海賊をわたしたちの仲間へ加えましょう」
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近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093086719711449
そして、お読み頂きありがとうございます。
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