Dペックス公式大会開始 後編

「予選大会を勝ち残れたのは、幸運か?

 いいや、そうではない!

 真の強者は無名の中にあり! クリッシュが参戦だーっ!」


 大会というからには、全選手入場が付き物……。

 総勢48人のプロフィールを端的に告げきった俺は、確かな手応えと共に観客たちを見下ろした。


 ――オッケーイ!


 返ってくる言葉は、いつものオッケイコール。

 よかった……ちゃんとウケた。

 これだけの人数がいると、前口上を考えるのも大変だし、いかにわたしが才女であるといえど、丸暗記するのも大変だ。

 その労力が報われた充足感に反応したわけでもないだろうが、ユーリ君お手製のキツネ耳と尻尾がピョコピョコと動く。


 そうしていると、ふと、トリを飾って席に着こうとしているクリッシュと目が合う。


 ――キランッ!


 ……という音がしそうなポーズでウィンクされてしまい、わたしの頬が赤くなった。

 ……はわわわわわ!

 ……はわわわわわわわわわわ!

 わたしの頬には、まだ、あの時の感触が残っているわけで……。

 彼女を見ていると、どうしてもそれを思い出してしまい、ステージ上だというのに取り乱してしまいそうになる。


 い、いけない! いけない!

 進行に戻らないと……!


「そして、最後にゲスト枠として、このわたし……。

 カミュ・ロマーノフとIDOL隊員の二人が参加しちゃいまーす!

 本大会は参加者による完全ランダムチーム制ですが、わたしたちだけはハンデとして、仲間内でのチームが許可されました!

 隊員の名前は、順番にユーリ・ドワイトニングとジョグ・レナンデーです。

 みなさん、よろしくお願いしまーす!」


 ――オッケーイ!


 この手のゲームにおいて、チームワークは最大の武器……。

 俺たちにのみそれを与えられるというのは結構なハンデであるが、会場が満場一致でそれを認めた。

 彼ら彼女らが認めてくれた理由は、単純に俺たちのスキル不足や、芸能人としての贔屓によるものだけではない。


「あの男の子、かわいー!」


「ね? 女の子みたい」


 耳を澄ませば、女性客たちの会話が聞こえてくる……。

 ふっふ……。

 そうだろう、そうだろう。

 うちのユーリ君は、どこへ出しても恥ずかしくない自慢の男の娘なのだ。


 ……ん?

 と、ここで気付く。

 薄ぼんやりと知覚できる女性客たちの好意的な感情……。

 それらの多くは俺やユーリ君に向けられていたが、一部はジョグへと向けられているのである。


「あの赤髪の子、個性的な髪型だけどカッコカワイイね」


「ほんと!

 まだ子供なのに背伸びしちゃって、カワイー!」


 なんと! そういうのもあるのか!

 両隣を見れば、ユーリ君の方はガッチガチに緊張しており、ジョグの方は何を勘違いしたのか、自信ありげに腕組みなんぞかましていた。

 まー、あれだな! 二人とも、カルス帝から下賜されたスーツ姿だからな!

 ユーリ君は素材の良さが引き出され、ジョグの方は、まあ見れないこともないという風になっているのだろう。


「それじゃあ、わたしたちも用意された席に着きますね!

 皆さん、活躍期待してくださーい!」


 ――オッケーイ!


 観客たちの声に応えながら、ステージ上に用意された席へ三人で着く。

 他の参加者たちは覗き見防止のために離れた席だが、俺たちは同じチームなので三人横並びの特別席だ。


「それでは、参加者の皆様は、お手元の端末でプレイヤー名を入力して下さい」


 俺と代わってステージに上がった運営側の司会者が、きびきびと進行していく。

 この大会は、運営側であらかじめ用意された端末を使うことになっており、各卓の携帯端末からは、それぞれ中継用のケーブルが伸びていた。


「ケーブルと繋がってると、ちょっと重みを感じるな」


「それは、参加者たち全員が同じです。

 泣き言は厳禁ですよ」


「へっ……ただの感想さ」


 ユーリ君とジョグが、そんな軽口を叩き合う。


「はい、皆さん入力は終わりましたね?

 先ほど説明があった通り、本大会はカミュチーム以外、ランダムマッチングとなります。

 それでは――抽選スタート!」


 手慣れた司会者の言葉に従い、ホログラムプロジェクターにチーム分けが表示されていく。

 通常、このDペックスというゲームは、事前にどんなプレイヤーがどんなチームを組んでいるのか分からないのだが、今回は特別仕様ということだろう。


 ――オォーッ!


 表示されたチーム分けに、観客たちがどよめきを起こす。

 苦労して行った全選手入場の効果はてきめんで、どのチームが優勝するかの予想に、会場内は大賑わいだ。

 俺が気になるのは……テンパーとマクシミリとアジアンのチームである。

 なんかもう……嫌な予感しかしねえプレイヤーネームだからな。


「それでは、皆さんの健闘を祈ります。

 ――ゲームスタート!」


 司会者が宣言すると同時に……。

 それぞれのセレクトしたキャラクターが、バトルフィールド上空で降下を開始する。

 本大会で用いられるフィールドは――オリンポス。

 とある惑星の上空に浮かぶアイランド型スカイコロニーであり、断崖絶壁めいた激しい高低差はなく、市街地と緑地とがバランスよく配置されているフィールドだ。


 これはつまり――プレイヤースキルが、モロに反映されるということ。

 特に、己の実力を示したいガチ勢から支持を受けている大人気フィールドであった。


「ユーリ君! ジョグ君!

 ――勝ちますよ!」


「はい!」


「おう!」


 さて、このゲーム……まずは、キャラクターがバトルフィールドへ降下するところから始まるのだが……。

 この降下フェーズから、早くも駆け引きが行われる。

 その大きな理由は――ドロップアイテムだった。


 フィールド上に配置されたドロップアイテムの内容はランダムだが、場所によって、大まかな傾向というものがある。

 地形を戦術的に判断しつつ、他チームの降下場所も見極め、優位なアイテムを確保できる場所に降り立つ必要があるのだ。


「――ここです!」


 俺が選択した降下場所は――ドック。

 ドロップアイテムの質・量共に充実している人気スポットだ。

 その分、他プレイヤーの選択とも被りがちだし、接続している施設も多いため混戦傾向になりやすいが、リスクを取るだけのうまあじがあると判断した。


 俺の選んだタヌキニンジャが……。

 ユーリ君の選んだネコミュージシャンが……。

 ジョグの選んだウシ現場作業員が……。


 それぞれ、オリンポスの大地を踏み締める。


『レディ……ファイッ!』


 戦いのゴングが――鳴った。




--




『リタイア』


 五分後……。

 俺たちの戦いは、終わりを告げていた。


「あーっと! カミュチーム、無念のリタイア!

 下手に注目されていたのが、かえってよくなかったか!

 各チームからマークされ、包囲殲滅陣を敷かれてしまった!

 残念ながら、最初の脱落となってしまいました!」


 俺たちのキャラクターが哀れにもボッコボコにされ、消滅していく中……。

 実況者の軽快なトークが、場を盛り上げる。


「あーん! もう!

 なんでですかー!?」


 ……かわいらしく悔しがってみせられたのは、我ながらプロ根性の成せる業だと思う。

 よいこのみんな!

 努力が必ず報われるとは、限らないぞ!




--




 近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093089756361654

https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093089756393893


 そして、お読み頂きありがとうございます。

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