大会は盛り上がり……
「ぐや゙じい゙い゙い゙い゙い゙!゙
あ゙ん゙な゙に゙が゙ん゙ば゙っ゙だの゙に゙!゙」
ステージから控え室に戻った俺は、ひとしきり叫びながら地団駄をかましていた。
「まあ、仕方がないですね。
ああも四方八方からこられては、テクニックもヘッタクレもありません」
「んだな。
ある意味、目立つことができてよかったじゃねーか?」
ユーリ君の言葉に、椅子も使わずウンコ座りしていたジョグが同意を示す。
こうしている間にも、ゲームは進行しており……。
クリッシュ操るツーギーちゃんが、華麗な銃さばきで敵を倒す姿が、興奮気味な実況と共に画面へ流されていた。
「欲しいのは、撮れ高ではなく勝利です!
天才ゲーマーカミュちゃま爆誕の予定が、こうもたやすく頓挫するとは……!」
「天才ゲーマーて。
オメー、そんなこと目論んでやがったのか」
「まあまあ、負けてしまったものは仕方がありません。
この後はライブが控えているんですから、そっちの準備をしましょう」
「ん……。
リッターの準備は、できていますか?」
俺が尋ねると、ジャーマネとして控え室に待機していたスーツ姿のエリナが、伊達メガネをカチャリと鳴らす。
「お嬢様のアーチリッターは、すでに無人操縦で上空に待機しています。
端末から呼び出せば、いつでも降下してくる手筈です」
「しっかし、わざわざPLを降下させて、コックピットから生歌たあ、ヒラク社長も豪快なこと考えやがるよなあ。
行政の許可、どうやって取ったんだあ?」
「そこはもう、皇帝陛下も関与していることですから。
トップがやれと言ったら、現場はそれを叶えるために全力を尽くすだけでしょう」
「上意下達ってやつかあ?
んーなことばっかやってっから、パーティーで刺されそうになるんじゃねーの?」
「ですが、盛り上がること間違いなしの演出です。
幸い……というわけにはいきませんが、ライブ開始まで猶予ができたのです。
この機会に、最後の確認をしておきましょう」
くいっとメガネを持ち上げたエリナが、タブレット端末を差し出してくる。
そこに表示されているのは、事前に何度も確認しておいたこの後の動きだ。
――PLに乗ってのライブ。
言うのは簡単だが、実行するのはかなり難儀なイベントであった。
まず、自動操縦で降下し、俺をマニュピレーターでコックピットまで運ぶアーチリッターの動作を、事前に何度もシミュレートしているからな。
さらに、尻へ装着しているユーリ君お手製のキツネ尻尾は、いざという時にパラシュートとしても機能するよう細工されている。
……お尻を上に突き出して落下していく姿は乙女としてかなり微妙だから、できれば避けたいけど。
ともかく、安全対策は万全を期してあるわけだが……。
そんなものは大前提に過ぎず、ライブ自体をどう盛り上げるのかというのも課題であった。
何しろ、今回のハコは商業ビルが無数に立ち並ぶヘルメスのメインストリートだ。
いくら皇帝の強権で許可をねじ込んだとはいえ、十八メートル級の人型機動兵器が好き勝手に飛び回ったりするわけにはいかない。
しかも、ライブをする当人である俺は、開け放ったリッターのコックピットへ収まっているわけだから、歌はともかく、踊りの方はどうにもならないのである。
そこをどうにかするのが、我らが技術担当ユーリ君だ。
「ホログラム演出を行うドローンは、全て整備班による点検を受け、駐車中のコントロール車両に待機済みです。
もちろん、事前のシミュレートも抜かりありません
その上で、ストリート各所で交通整理に当たっている警察官や警備員には事前通達してあるので、ドローンに何か問題があった際には、すぐさま建物内へ人々を避難させることになっています」
「グッジョブです。
ダンスがない分は、ホログラム映像の演出で盛り上げるしかないですからね。
これで、万難を排したといえるでしょう。
そう……。
何か、不測の事態でも起きない限り!」
――わっはっはっはっは!
……と、みんなで笑った。
いやいやいやいやいや。
まさかまさかまさか、そんな。
こんな平和な惑星の平和な都市の平和なイベントで、そう大した不測の事態が起きたりするはずがないのだ。
あったとして、せいぜい、迷子とかそんなレベルのトラブルに違いない。
--
良いゲーム……。
ひいては、良い遊戯というものは、プレイヤースキルと運のバランスが絶妙に取れているものだ。
代表的なところでは――麻雀。
かの遊戯は、運によるところが非常に大きいものの、かといって、ランダム要素が支配的というわけではない。
プレイヤーの選択によって、悪い状況からでも傷口を最小限に抑える……場合によっては、逆転することが可能であり……。
逆に、恐ろしいほど手が優れていても、あまりに見え見えであった結果、かえって得点につながらずぬか喜びということも、十分にあり得るのである。
どうして、良いゲームとはこのようなものでなければならないのか?
それは、負けた時、運を言い訳にすることが可能だからだ。
逆に、勝った時は運のみならず、チャンスをモノにした自分の手腕をも誇ることができた。
これは、勝負を楽しむ上で、実に重要なファクターだ。
実のところ、百パーセントの純然たる実力勝負を楽しめる人間というのは、さほど多くない。
人間というのは、本質的に負けることが大嫌いな生き物なのである。
そこへいくと、このDペックスというゲームは、ハイヒューマンならぬ人間が制作したものでありながら、実によくできていた。
ゲーム内に存在する多くの要素で、プレイヤーの選択と運が試される。
その上で、エイムやチームメイトとの連携など、プレイヤー自身のスキルも極めて重要であり、レアリティ的に格上のアイテムを保有する敵も、十分に撃破することが可能となっているのだ。
「ほいっ……と。
残念だったねー」
のんびりとした言葉遣いにそぐわぬ挑発的な笑みを浮かべたクリッシュは、たった今倒した敵キャラクターに向け、そのような言葉を漏らしていた。
ゲーム展開は、順調の一言。
ランダムマッチングしたチームメイトたちはいずれもプロのeスポーツ選手であり、突出しがちな自分の動きにも文句を言わず、むしろ、適切な援護を入れてくれている。
おそらくは、予選の映像を研究したか、あるいはプロとしての嗅覚により、ハイヒューマンの圧倒的な反応速度を理解しているのだ。
「いいねー。
いい感じだねー」
自分が選択したキャラクター――ツーギーが、縦横無尽にバトルフィールドを駆け巡り、他プレイヤーの操るキャラクターと銃撃を交える。
今、戦場となっているのは、オリンポス自衛のために設置された砲台付近……。
この砲台は、プレイヤーキャラが乗り込んでPLのそれに匹敵する出力の荷電粒子ビームを放つことも可能であるため、ダイナミックな戦況になりがちな場所であった。
それが――イイ!
「あはっ!
戦ってるって、実感が湧くよ!」
命中判定ギリギリのところでビームが巻き起こす爆炎をしのぎ、そう叫ぶ。
長く、退屈な潜入任務……。
クリッシュのように戦闘向けの調整を施されたハイヒューマンにとって、これは必須であると理解しつつも、かなりのストレスである。
その鬱憤を晴らせるのが、ゲームという戦場であった。
が、何事にも、終わりというのはあるもの……。
――クリッシュ。
――そろそろ、作戦決行だ。
うなじの辺りをチリリとさせる感覚と共に、会場内でバイトしているヴァンガードの思念が流れ込んでくる。
オープニングでステージをガン見した結果、社員の人からバッチクソに怒られていた彼であるが、こっちの仕事はちゃんとこなすつもりらしい。
と、いっても、仕掛けが済んでいる以上、自分たちにできることは、特等席から観戦することだけだが……。
「あっ!
いっけなーい!」
わざとらしく言いながら隙だらけの自キャラを晒し、敵の銃撃でハチの巣となる。
『リタイア』
「ふあ……。
ちょっと寝不足で、集中力が落ちちゃったかなー……。
すいませーん。ちょっと洗面所で顔洗ってきまーす」
自キャラが消滅したのを見届けて、これもわざとらしくあくびなどしながら、ステージを後にした。
「さーてと。
カミュちゃん……。
ゲームより面白いもの、見せてねー」
健闘を称える観客たちへ適当に応えたりしつつ向かうのは、会場となっている屋上の端……。
そこは、転落防止のために強化ガラス製のフェンスが張り巡らされており……。
これから起こる見世物を見物するには、ちょうど良い場所であった。
--
近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093089825509022
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093089825556524
そして、お読み頂きありがとうございます。
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