皇星までの日々
それからの日々は、俺にとって多忙を極めた。
まず、第一にやらねばならないのは、当然ながらIDOL指揮官としての各種業務だ。
無論、元スカベンジャーズ組とは別にカルス帝が派遣してくれた優秀な隊員たちがいるため、俺の役目は基本的に決裁するだけである。
だが、軽い神輿といえど頭は頭。何がどうしてそのような書類が必要なのか、どうしてその航路を行く必要があるのかなど、大まかには理解しておきたい。
皇帝から派遣されたスタッフは俺の要請を快く引き受け、半ば家庭教師じみた形で、いちいちレクチャーをしてくれているのであった。
次にやらなければならないのは、PLパイロットとしての各種訓練だ。
これには、実際にPLを操縦する訓練だけではなく、宇宙で働く軍人に必要な基礎訓練も含まれている。
というか、それが大半だ。
何しろ、そういう基礎カリキュラムの全てをすっ飛ばして、宇宙空間で実戦しちまってたからな。
前世での宇宙飛行士が、様々な分野に精通したジェネラリストであったことからも明らかなように、宇宙空間の活動で必要な知識とスキルは数多い。
そこら辺、やはり我流で済ませていた元スカベンジャーズ組――ジョグ含む――と共に、カルス帝から派遣された教官の訓練を精力的に受けるのであった。
ややカリキュラムを減らしてもらってはいるが、年頃の貴族令嬢として必要な通信教育の数々もおろそかにはできない。
礼節と教養が、人を形作る。
人生を豊かなものとするために、学びは必要だった。
余談だが、これにはユーリ君とジョグも強制参加させている。
事実上、二人は俺付きの騎士であり、今後、注目を浴びることになるのは火を見るよりも明らかだ。
人前に出しても恥ずかしくないよう、しっかり仕上げておかないとな。
それからそれから、アイドルとしてのレッスンや仕事も山積みであった。
カルス帝というかカルスPから派遣されたトレーナーさんにしごかれ、さらにパフォーマンスを磨き上げる。
また、戦艦で移動中とはいえ、銀河ネットワークを駆使すれば、アイドルとしての活動も十分に可能であった。
例えば、チューキョーで起こった乱に関するインタビューを受けたり……。
例えば、トーク番組にホログラフィック出演したり……。
飛ぶ鳥を落とす勢いの今だからこそ、オーバーワークにならない範囲で仕事を入れ、人気の盤石化を図らなければならないのだ。
そして、最後にして、目下のところ最も重要なタスク……。
それこそが、Dペックスの特訓であった。
――壁ジャンプ!
――バニーホップ!
――タップストレイフ!
――ハイパージャンプ!
――ピン打ち!
――レレレ撃ち!
体に叩き込まなければならないテクニックは、数多い。
何より重要なのは、それらを習得した上で、プレイングのパターン化を図ることだ。
何しろ、ゲーム内の戦況は刻一刻と……それも、瞬時に変わっていくからな。
頭で考えていては、到底対応が追い付かない。
ゆえに、どのような状況に陥ったら、どう動くか……これを、各種テクニックと共に体へ染み込ませるのである。
もちろん、この特訓をするのは、俺一人でではない。
ユーリ君とジョグも一緒であった。
前世でのオンライン対戦もそうであったが、ランダムマッチングした野良プレイヤーと、何度も戦場を共にしたフレンドとでは、連携に雲泥の差が生じる。
「ジョグ君、六時の方向に敵プレイヤーを発見!
お嬢様は、先にキルボックスからバックルを回収してきてください!」
「おう! スキル発動するぜ!」
「すぐに戻ります!」
そのようなやり取りをかわしながら、幾度となく実戦を重ねた。
中には、とうとう最終勝利チーム――チャンピオンへと輝いたこともあり……。
最後の敵プレイヤーを撃ち抜いた時は、全員でハイタッチを交わしたものだ。
「これで、万全ですね」
右手にアクセサリーを装着した携帯端末……。
左手に、自分たちで製作した戦術マニュアル入りのタブレット端末を手にし、俺は力強く宣言する。
「ええ……どうにか、仕上がりましたね」
「へへ……本番が待ち遠しくて仕方ないぜ」
ミーティングルームに集い、最後の特訓を終えたユーリ君とジョグも、自信ありげにうなずいた。
皇星ビルクへの到着を前にして、どうして俺たちがこうも大急ぎでDペックスの特訓をしているのか?
それには、理由がある。
「ゲスト枠としてシークレット招待されたDペックスの公式大会……。
IDOL司令官として……ロマーノフ大公家の息女として、決して恥ずかしい姿は見せられません。
わたしたち三人、一丸となって挑みましょう」
そうなのだ。
連絡があったのは、まさにDペックスと出会ったその夜……。
――Dペックスを運営しているヒラク・カンパニーから、公式大会にゲスト枠として参加して欲しいと打診がきた。
――正直、俺も出たい。もう少しでプラチナに上がれそうなんだ。
――で、出る? どうする?
銀河皇帝ことカルスPから聞かれた俺は、二つ返事でこれを了承したものである。
ハマッているゲームの公式大会に、運営側から参加を打診される……。
どう考えてもアイドルとしての人気が影響した結果だが、僥倖とはまさにこのことであった。
仕上げたといっても、正直、俺たちの実力はまだまだ。
だが、運が絡むゲーム性なのだから、それでもワンチャンはある。
何より、特訓でも大いに参考とさせてもらった有名プレイヤーたちと実際に会い、胸を借りるまたとないチャンスだ。
しかも、しかもである……。
「大会もそうだけどよお……。
オレは、皇帝さん主催のパーティーも楽しみだぜ。
まさか、ヒラク社長も参加するなんてなあ……。
どうにかして、サイン貰えねえもんだろうか」
「銀河長者番付に初めて名前が載ったゲーム会社社長ですから、呼ばれるのも当然ですよ。
ああ……楽しみだなあ。
お話なんて恐れ多いですけど、遠くから見られるだけでも満足です」
「フフフ……当然、サインは貰うつもりですよ」
そわそわしながら当日を思い描く二人に、俺は自信満々で胸を張った。
「自慢じゃありませんが、わたしは注目の的です。
パーティー会場で本人と接触するチャンスは、十分にあるでしょう。
そこで、わたしはサインをおねだりするつもりです。
二人もわたしのお付きとして参加するのですから、流れで一緒にサインをもらうことは十分に可能でしょう」
「頼んだぜ!」
「お嬢様! 一生ついていきます!」
ついでにガッツポーズを決めた俺に対し、目をキラキラさせた子分二人が、拝むように両手を組む。
「このミッション……必ず成功させましょう!」
そんな二人へ、俺はそう宣言する。
「……社交界デビューなんですから、くれぐれも、貞淑になさってくださいね」
……ミーティングルームの隅で控えていたエリナから、ジト目で告げられてしまった。
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近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093089071800470
そして、お読み頂きありがとうございます。
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