海賊現る
「そういえば……。
前々から思っていたのですが、どうしてワープドライブ可能宙域に関所のようなものを設けないのでしょうか?
海賊が主に暴れているのは、まさにそこなんですよね?
治安を維持するためには、効果的かと思うのですが……」
いよいよ、チューキョーへ向け最後のワープドライブを行う直前……。
全員が集まった操縦席で、俺はふとそんな疑問を口にした。
これは、カミュ・ロマーノフの知識にも存在しない部分であり……。
また、前世でプレイした『パーソナル・ラバーズ』作中でも細かくは語られなかったし、TIPSも存在しなかったところである。
何しろ、ゲーム本編で描かれるのは銀河規模での内乱だからな。
すぐに話が大きくなってしまうので、設定として宇宙海賊は存在しても、ある人物のルート以外ではあまりフィーチャーされていなかったのだ。
そのルートに関しても、すぐに小さな貴族家へ匹敵する勢力を築いてしまうので、実質、この世界における一般的な宇宙海賊……。
とりわけ、ゲーム本編より四年前である今現在のそれに関しては、まったく知識がないといっていいだろう。
「ハッハッハ!
各貴族家が、無限の軍事力を備えていたのならば、きっとそれは良いアイデアなんですがね」
操縦席に座り、ワープドライブに向けて細かな操作をしていたアレルが、愉快そうに笑った。
「一言でワープドライブ可能宙域といっても、非常に広大な領域ですから……。
その全てをカバーするとなると、これは現実的ではありません。
もちろん、各領主も無策というわけではありませんが、せいぜい、いくつかの小隊を哨戒に出して、遭遇戦に賭けるしかないというのが実情です」
丁寧に解説してくれたのは、アレルの隣で同じく各種の演算処理を行っていたユーリだ。
いずれは、彼がパイロットになると知っている俺ではあるが、それを踏まえても十歳の子供とは思えないほどに堂々としており、手際にも淀みというものがない。
これは、これまで生計を立てる手段としてきたのは、単純な機械いじりだけじゃないな。
そこら辺の細かいこと、自分のルートでもあまり話してくれなかったんだよね。
多分、同じ平民出身とはいえ皇帝の遺児である主人公に、心の壁を作っていたんだろうけど。
それが壊れた頃にはもうエンディングなので、ゲーム中じゃ聞く暇がなかったということである。
「そうなると、先日にお父様が行っていた海賊の掃討作戦は、相応の手間をかけていたのですね。
こう、相手の拠点とかがある場所を見つけ出すために」
「戦いというのは、そういうものです。
準備九割、実際の戦闘が一割ですよ。
とはいえ、僕も実戦経験は数えるほどしかありませんが」
興味深くアレルたちの話を聞く俺に、じとりとした目を向けてきたのがエリナであった。
「もう……お嬢様ったら、そんな物騒なことにばかり興味を持って。
こんなことばかり話して、海賊を呼び寄せるようなことになっても、知りませんからね」
「噂をすれば、というやつですか?
でも、いくら世が乱れているとはいっても、雑草のようにそこら中へ海賊が生えているわけでもないのですし、ユーリ君が言った通り、ワープ可能な宙域は広大なのです。
そうそう、遭遇するはずなど――」
――瞬間。
……俺の背筋をぞくりと震わせたのは、なんと例えればいいんだろうな。
刺すようで、熱いようで、それでいて、ひどく冷たい感覚である。
一体、これはなんなのかと、自問自答する暇もない。
次いで、俺たちを乗せた輸送船が大きく振動したのだから。
「――きゃあっ!?」
自身でも驚くくらい、女の子女の子した悲鳴を上げてしまう。
それほど、この振動は――激しい。
しかも、明らかに外部からの衝撃が原因で揺さぶられており、輸送船を構成する装甲の一部が破損したのを、シート越しの感覚で察することができた。
「これは……!?」
「攻撃っ……!?」
「――お嬢様!」
アレルとユーリがうめき、隣に座っていたエリナは、俺を庇うようにして覆いかぶさる。
「ふぐっ……!?」
十三歳にしてはなかなか立派なものをお持ちのエリナなので、俺の顔はやわらかく、魅惑的な弾力を備えたショックアブソーバーによって守られることとなった。
かような船内のゴタゴタを、察しているか、いないのか……。
ともかく、外部からの音声通信が入る。
『親愛なる獲物の諸君。
諸君らは、我々海賊の手によって包囲されている。
選択肢は、二つ。
大人しく貢ぎ物を差し出すか、あるいは命を差し出すかだ』
「海賊か……」
「敵影捉えました。
モニターに出します」
アレルが呻いている間に、ユーリがコンソールを操作した。
すると、操縦席のサブモニターに、カメラの捉えた映像が映し出される。
「……ヴァイキン」
エリナに抑え込まれた状態でそれを見た俺は、口の中で機体名をつぶやいた。
――ヴァイキン。
円筒形を組み合わせたような機体は、現行の主力量産機であるリッターに比べ、ひと回りでかく、やや鈍重そうな印象を与える。
特徴的なのは、左腕が実体式のマシンガンとなっていること……。
何より、全体的にボロボロというか、ツギハギだらけなことだ。
それも、そのはず。
こいつは、正式なラインで生産された工業製品ではない。
密造されている旧式量産機のフレームをベースに、様々なジャンクパーツをパッチワークして、どうにかPLとしての運用を可能としているのがこの機体なのだ。
機構が複雑なマニュピレーターを右手にしか備えず、左腕を生産が容易な実弾式のマシンガンにしているのは、そういった事情を象徴しているといえるだろう。
ヴァイキンという機体名から察せられる通り、これを用いている勢力は――宇宙海賊。
それを表すかのように、頭部のフェイス部分は、骸骨を模したようなデザインとなっていた。
『パーソナル・ラバーズ』本編においては、ある人物のルートで、自陣営の主力として用いられるのがこの機体である。
その中では、機体の胴体とか肩に構成員が上がって、様々な日常の作業をこなしたりしているのが印象的だったな。
と、いうわけで、だ。
噂をすれば本当に影がさし、宇宙海賊の襲来であった。
これに対し、各人の反応は様々だ。
「やれやれ、本当に来てしまうとはな……」
アレルは、余裕を失っていない態度で髪をくしゃりとかきあげ……。
「敵の数は五……。
通常なら、三機で一個小隊とするところですが、枠組みに当てはまらないのは賊軍ならではでしょうか」
ユーリは、冷静に敵勢力を分析する。
「お嬢様……!」
エリナは、ただ俺を抱き締める手に力を込め……。
――いいなあ、ジャンク機。
――欲しいなあ。
一方、俺は素直な欲求を胸中で膨らませていた。
『――十分だ。
十分後に、こちらは格納庫へ接触する。
貢ぎ物を差し出すなら、その準備を。
命を差し出すなら、神に祈りを捧げておけ』
海賊からの通信は、それでおしまい。
サブモニターに映し出された機影たちが、スラスターの噴射光と共にこちらへ接近してくる。
「どうしますか?」
尋ねたのは、ユーリであり……。
「決まっているさ」
答えたのは、アレルだ。
「三つ目の選択肢でいこう」
その表情は、いつも通りのさわやかな笑顔であったが……。
隠しきれない狩人の高揚が、確かに存在していた。
--
近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093085505458940
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093085505486840
そして、お読み頂きありがとうございます。
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