見えざる危機
「遅いな……。
あまりにも反応が遅過ぎる……。
どうして、敵がPLを積んでいると……。
そうでないにしても、決死の抵抗へ打って出ると予想しない?」
シールドという防御の生命線を手放しながら、アレルは余裕たっぷりにつぶやいていた。
海賊のPLは、瞬く間に二機撃破したわけであるが……。
逆を言うならば、いまだ三機は健在ということであり、数だけで考えれば、圧倒的に有利な状況であることは変わらない。
で、あるから、さっさとそのマシンガンを撃つなりすればよいものだが……。
呆れ果てたことに、海賊たちは突然の逆襲で頭が白くなってしまったらしく、ろくな反応を見せることすらなかったのである。
と、いっても、その間はほんの二、三秒に過ぎない。
だが、PLを用いた戦闘でそれだけの隙は――致命的。
「まったく……」
溜め息を吐き出しながら、操縦桿に力を込めた。
「カミュ殿の方が、よほど手強いぞ!」
ミストルティンのビームライフルが、再び荷電粒子ビームを発射する。
当然ながら――命中。
ろくに回避運動すらしていないのだから、これは、ターキー・ショットと呼ぶことすらはばかられる鴨撃ちだ。
さらに、もう一機ばかり仕留めようと銃口を巡らせたが……。
「回避運動を取ったか。
だが、それもおろかな選択だ。
ビームの威力に恐れをなさず、二機で一斉射を行ったなら、格納庫内で身動きできないこちらは、装甲で受けるしかなかったものを……」
もう、こうなってしまうと、呆れる他にない。
賊は、どこまでいっても――賊。
戦士として、腕を競える相手ではなかったということだ。
「もっとも、その程度で撃墜されるミストルティンではないが……。
せめて、一矢は報えただろうに――な!」
言いながら、フットペダルを押し込む。
宙間戦闘モードの機体は、アレルの操作へ答え、背部と脚部のスラスターを全開にした。
すると、当然ながら、ミストルティンは一条の矢となって宇宙空間に進出するわけだが……。
すでにミストルティンが通り過ぎた後の空間に向けて、無駄弾を放つ海賊PLの姿は、もはや滑稽ですらある。
ミストルティンの機動力に驚き、慌ててマシンガンを放ったが、こちらの動きをまったく捉えられていないのだ。
「つまらん相手だ。
が……カミュ殿は、あの機体を欲しがりそうな気がするな」
また一機、ビームで頭部を破壊しながら、独り言を吐き出した。
何しろ、PLというものに異常な執着を燃やす彼女だ。
事実、ここまでの道中では、失敗作としか思えないユーリの試作品に対し、並々ならぬ興味を示している。
アレルの目からすれば、しょうもない密造フレームとジャンクパーツの集合体にしか見えない海賊の機体も、流行りのドレス以上のプレゼントへ変じてくれるかもしれなかった。
「将来的な婚約まで見据えている身としては、整備士の小僧にばかりなびかれても、面白くないしな」
そんなことを言って、つい、苦笑してしまう。
大公家の娘を娶れば、自陣営は盤石なものとなる……。
そのように打算的な視点から出た言葉ではないと、自覚できたからだ。
「僕は、あの子に惹かれているのか……?
相手は子供だぞ……」
確かに、カミュは恐ろしく美しい少女である。
まだ子供であることは違いないが、ほんの三年か四年もすれば、帝国中から求婚の文が届くことであろう。
そして、自分は年上であるといっても、たった四歳差なのだから、惹かれるのは当然であるかもしれなかった。
とはいえ、である。
「そういった感情は、コントロールしているつもりなんだがな……」
アレルは、ただの少年ではない。
その双肩には、大領ラノーグ公爵家の未来を背負っているし、ゆくゆくは、荒れている帝国そのものを立て直したい気持ちがあった。
ならば、伴侶というものも政治的な視点から選ばねばならないのだが……。
脳裏にちらつくのは、無邪気にPLを操縦し、笑うカミュの顔……。
「ふんっ……」
思考は打ち切って、操縦桿を操る。
恐慌状態に陥った敵機をいかに無力化し、パイロットのみ放り出すか……。
今は、それに集中するべきだった。
--
「敵機を無力化するに留めているのは、わたしたちへの配慮でしょうか?
あるいは、情報を引き出して領主であるタナカ家への土産にするため……。
ううん、両方ですね」
どこぞの自由な羽持ち主人公機よろしく、不殺の戦いぶりを繰り広げるミストルティンに、俺はそんな感想を漏らす。
まあ、真にフリーダム過ぎるのは親友の方だったと、劇場版で明らかになったんだけどな!
……あいつだけ、跳躍する少年漫画誌の幕末エイリアン漫画に出演してると勘違いしていた疑惑があるよな。
「ならば、捕縛した敵海賊をどうするかという問題がありますね。
ユーリ君は、相手を抑える自信がありますか?」
『無茶を仰らないで下さい。
取っ組み合いでは、勝ち目がありませんよ』
船外カメラの様子が映し出されているのとは、別のウィンドウに顔を出しているユーリが、そう言って苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、エリナは?」
「お嬢様は、あたしに何を求めているんですか?」
そっかー。
実は暗殺術とか習得してるスーパーメイドである可能性もほんのり期待してたんだけど、セバスティアンも、実の孫にそんなけったいな教育は施さないか。
『多分ですけど、機体を回収して、パイロットは酸素だけ与えて放逐するんじゃないでしょうか?
向こうだって後方の人員はいるでしょうから、回収に来るでしょうし。
こちらとしては、捕縛と尋問の手間をかけるより、PLからデータを抜き取る方が楽かと』
「いつ来るかも分からない救援を、宇宙遊泳しながら待たせるんですか?
なんだか、PTSDになりそうな仕置きですね」
『相手は宇宙海賊なんですから、命を奪わないだけ温情があるかと』
なんということもないという顔で、ユーリが答える。
これは、彼が特別に冷酷というわけではなく、この世界における一般的な感覚だ。
その証拠に、隣のエリナもうんうんと頷いているし、俺というかわたしもすんなりと受け入れている。
悪党に人権はないのですなあ。
と、気になるのは、だ。
「そういえば、襲いかかってきてるのは、どこに所属している人たちなんでしょう?
最後の一機、アレル様に追いかけ回されてかわいそうなことになってますけど」
現在の戦況は、最後に残った敵機の周囲をミストルティンが飛び回り、装甲スレスレへビームをかすらせたりしながら、追い立て回しているという具合であった。
どうやら、並行して投降を呼びかけているらしい。
機動力と火力で圧倒的に上回るミストルティンなのだから、ヴァイキンとしてはどうにもならない。
間もなく、戦闘は終結するだろう。
『相手の所属ですか?
あ、肩にエンブレムらしきものを施してますね。
今、拡大します』
ユーリが手際よく、こちらにスクショを転送してくる。
どれどれと見てみたそのエンブレムは、でかいカラスを海賊旗じみた意匠で描いたものだった。
ふんふん、なるほどなあ……。
そのエンブレム……。
そして、通常編成なら三機一組で行動するのがPLなのに、相手は五機編成という中途半端な数であることを思い出す。
最後に、前世の記憶を結び付けて出された結論は、だ。
「――ユーリ君!
すぐにトリモチ・ランチャーの準備を!」
俺は、通信ウィンドウに向けて叫んだのであった。
--
近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093085632869100
そして、お読み頂きありがとうございます。
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