援軍登場
「ジョグ君、それは……」
俺の操作に従い、アーチリッターが指差したもの……。
それは、カラドボルグが左手にぶら下げている一機のミニアドであった。
おそらく、電磁パルス弾によりスタンし、無力化されたのだろう。
機体はぐったりとうなだれており、コックピットハッチが開いていることから、パイロットは脱出済みであると知れる。
『戦利品だ。
電磁パルス弾をぶち当てちまったが、ちっと直せばまた使えるんだろ?』
『簡単に言ってくれますね。
人間でいうなら、あちこちの血管が破裂してるようなものなんですよ?』
ほいっとミニアドを持ち上げるカラドボルグに対し、グラムの方が肩をすくめてみせた。
『でもまあ、お嬢様のためなら、そのくらい喜んで直しますよ』
「え、ええ……ありがとう」
そんな彼の献身に対し、俺は力ない言葉で返す。
自分でも驚くくらい、感情の起伏がない。
普段ならこう、目を輝かせて喜んでいるところだ。
ただただ、疲れていた……。
今は新しいオモチャでどう遊ぶかよりも、シャワーを浴びたいという考えてイッパイだったのである。
『んだよ、リアクション薄いな……』
『古い方の船長、無理もありませんぜ。
カミュちゃん船長は、大手柄を上げたばかりで疲れてんでさあ』
『うっせえ! 誰が古い方だ! 誰が!
クレイルてめえ、一人だけ撃墜されやがって、たるんでんじゃねえか!?』
頭部を失った結果、コックピットハッチを開いての視認運転でこちらに合流したバイデント3号機へ、ジョグが怒鳴った。
戦いを勝利で終えた後のにぎやかなやり取り……。
俺たちが、それを楽しんでいた時のことである。
『――っ!?
多数のリアクター反応を検出!
これは……ネルサスの大気圏内から発されています!
規模は――艦船サイズ!
公爵軍の艦隊が、上がってきたんです!』
遠隔砲撃を実現する都合上、最も優れたセンサー系を誇るグラムに搭乗したユーリ君が、そう言って警告を発したのだ。
「……増援?」
その事実に……。
俺はやや、弱腰な声を漏らす。
アーチリッターの機体は万全だが、すでにアロー・ラックの矢は尽きつつあり、何よりパイロットであるこの俺が疲労困憊となっている。
とてもではないが、連続しての戦闘などこなせる状態ではない。
また、部隊全体の状態で見ても、バイデントは一機が戦闘不能で残りもダメージを負った状態だ。
グラムとカラドボルグに関しては万全だが、いくらなんでも艦隊相手に二機だけで立ち向かわせるのは無謀というものであろう。
ゆえに、俺は素早く決断する。
「――撤退しましょう。
とてもではありませんが、迎え撃つことはできません。
まさか、白騎士団だけでなく、通常艦隊までこうも素早く動員してくるなんて……!」
これに関しては、完全なる誤算であった。
だって、軍隊を動かそうっていうんだぜ?
前世地球における様々なニュースを見れば、分かる通り……。
軍という組織は、よし動かそうと思って即座に動けるものではない。
シビリアン・コントロール下にあるあちらと違い、この世界においては貴族という特権階級の指揮下にあるとはいえ、やはり即応が難しいことに違いはないのであった。
『……たく。
どいつもこいつも、んーなにアレルの兄ちゃんが嫌いなのかね?』
「確かに、若年で当主となったばかりで、家中を掌握できているとは言い難いでしょうが……。
そうだとしても、この反応は極端すぎます。
まるで、軍の上層部がなりふり構わずアレル様の排除に乗り出しているみたい……」
アレルのことを面白く思っていない人間がいまだ多かったとしても、イコールで実力排除に乗り出すとは短慮すぎる。
おそらく捏造されているのだろう暗殺加担の証拠が見つかったとしても、だ。
そもそも、カルス帝はどうして抹殺指令なんか出したんだ?
俺が彼の立場なら、そうだな……捏造された証拠だと知った上でネットリとアレルを追い込み、帝室にとって有益な何がしかを引き出すことだろう。
だから、出すとしたらせいぜい拘束命令までであり、殺しに乗り出すなど考えられない。
どこかで、何かが食い違っている……。
いや、食い違わされている。
そのような直感が、俺の脳髄に走った。
が、悠長に考え事をしている場合ではない。
「ともかく、ハーレーに着艦を。
捕獲したミニアドに関しては、
急ぐ状況とはいえ、カラドボルグの推力ならPL一機の運搬は余裕なので、そう指示を出しておく。
ハーレーの格納庫に余裕がないのは、先日にも触れた通りだが……。
かといって、PL収集を諦める気は毛頭ないこの俺であり、ティーガーの方に格納庫というかコレクションルームを設けてあるのだ。
いざという時には、予備機として運用もできるしな。
『お嬢様、その後はどうなさいますか?
追手がPLを差し向けてきたら、ワープ・ポイントまで逃げ切ることは不可能です』
『いっそ、アレルの兄ちゃんを差し出しちまうかあ?
こっちは皇帝のオッサン直属なんだから、そうすりゃおいそれとは手出しできねえだろ?』
母艦に向けて飛翔するグラムとカラドボルグから、そのような通信が入る。
ここは……決断のしどころだ。
99%無罪であろうアレルを庇うか、あるいは差し出して大事な部下たちを守るか……。
人として、あるいは指揮官として、決断の時がきたのであった。
が、俺の持ち得る答えはただ一つである。
「……差し出すことはあり得ません。
わたしは常に、正しい道を進みます」
『へっ……そうかい』
通信ウィンドウに映されたジョグの顔は、まんざらでもなさそうであり……。
『さっすがカミュちゃん船長!』
『それでこそでさあ!』
『古い方の船長は、見習ってくだせえ!』
アットン、ベン、クレイルも次々とうなずく。
『では……やれるだけ、やってみるということで』
最後に、多数を相手取るなら頼みの綱となるグラムに登場したユーリ君がうなずき……。
俺たちが、短い補給を受けてからの連続戦闘を決意したその時だった。
『――IDOLならびに、惑星ネルサスから出動しているラノーグ公爵軍に告げる。
これは、どのような状況であるか?』
俺たちを待つハーレーよりさらに先……。
ワープ・ポイント側から、そのような通信がもたらされたのである。
しかも、その声は……。
「ケンジ様!?」
『こちらは、タナカ伯爵家旗艦オーサカ。
返答されよ。
その内容次第で、こちらは武力行使を辞さない覚悟である』
『お嬢様、前方にタナカ伯爵家の艦隊が!』
別の通信ウィンドウが開き、今はハーレーで艦長代理をしているエリナの姿が映し出された。
同時に別のウィンドウも開き、ハーレー側の捉えた映像が回される。
そこに映し出されていたのは、艦隊の姿だ。
とりわけ目を引くのが、先頭に立つ戦艦の姿である。
全体的なシルエットを見て思い浮かぶのは、青いカニという言葉……。
艦全体が横に広がった構造をしており、両端部や船体下部には、いかにも強力そうなビーム砲が備わっていた。
ただ、やはり、現代の戦闘艦船として、重視しているのはPLの運用能力であり……。
船体の両脇に存在するカタパルトは、いかにもPLの離発着が容易そうである。
――オーサカ。
かつて、カトーが運用していた戦艦であり……。
今は、破壊されたかつての伯爵家旗艦に代わり、ケンジが自らの居城として運用している艦であった。
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近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093091533347380
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093091533381435
そして、お読み頂きありがとうございます。
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