リッター
チョロおじことお父様ことウォルガフ・ロマーノフ大公と電撃的和解を遂げ、はや数日……。
「わあっ……」
大公家直属の企業へ超特急で依頼し、完成したパイロットスーツに身を包んだ俺は、屋敷の玄関ホールでクルクルと回転しながら、その着心地に感激を覚えていた。
「お嬢様、よくお似合いです」
「いや、はや、実に可憐ですな!」
「これはもう、銀河随一の美少女と言って、過言ではないでしょう」
そんな俺を見ながら、口々に賞賛の言葉を贈ってくれるのは、普段から屋敷で働いている家人たちではない。
びしりと着こなした特注の軍服は、漆黒の色に染まっており……。
全員の左胸に、猟犬をイメージした部隊章が輝いている。
彼らこそは、銀河帝国でも最強と恐れられる最精鋭部隊のパイロットたち……。
すなわち、黒騎士団の団員であった。
彼らが、この屋敷に逗留している理由は、たった一つ。
すなわち――休暇である。
何しろ、お父様自らに率いられての海賊討伐から帰還したと思ったら、ろくに休む間もなく緊急出動命令が下ったのだ。
しかも、それがどんなものかと思ったら……しょうもない理由による親子喧嘩への助っ人だったのだから、肉体的にはどうだか知らんが、精神的には大きく疲労したことだろう。
その疲れを癒すため、隊員たちにはこの屋敷へ逗留してもらい、大公家お抱えの料理人による豪華な食事の数々や、マッサージ師によるマッサージ……。
果ては、周辺部の森林を使った狩猟や釣りなども楽しんでもらっているのであった。
と、いっても、そこはなんといっても雇い主が暮らすお屋敷である。
何をするにしたって、気は張ってしまうことだろう。
彼らにとって一番嬉しかったのは、この惑星タラントに存在する都市部へ繰り出すことだったに違いない。
その証拠といえるのが、わざわざ出向いて、俺のパイロットスーツ姿お披露目に参加していることであった。
参加した上で、腕組みしながら俺を見つめる父上に聞こえるよう賛辞の言葉を投げかけ続けるのである。
なんかもう、涙ぐましくなってしまう。
特に、騎士団長であるカール大佐の必死さときたら、ひとしおだ。
銀河帝国最強の騎士も、日本のサラリーマンも、雇い主の顔色を伺わなければ生きていけないという点では――同じ。
うーん。『パーソナル・ラバーズ』だと、マジで恐怖の象徴だったんだけどな。
俺もう、この人たちのことを、親しみやすいおじさんとかお兄さんとかにしか思えないよ。
俺というか、お父様のご機嫌を取るために、トリシャス全機で一矢乱れぬアクロバット飛行を披露したりしてくれたし。
「ううむ。
我が娘ながら、実によく似合っている。
お前たちがそれだけ褒め称えるのも、無理のない話だ」
すっかり上機嫌となったお父様が、腕組みしながら言い放つ。
「しかも、これはただデザイン性に優れているだけではありません。
こちらに集結された黒騎士様たちのスーツにさえ使用されていない最新技術を惜しみなく投入し、通常のスーツをはるかに上回る対衝撃、対弾、対刃能力を備えております。
さらに、ごく短時間ですが、一般的な乗用車を持ち上げられるほどの力が発揮できるパワーアシスト機能付きです」
「そんなものすごい機能付いてるんですか!?」
セバスティアンの言葉に、目を剥いてしまう。
俺はロボットに乗りたいだけであって、アベンジするヒーローチームに入りたいわけじゃねえぞ。
「ふっふ……。
トリシャス三機分の金を費やした甲斐があった」
お父様の言葉に、カール大佐が「え?」という顔をする。
そりゃそうだ。そんな金があるなら、娘の道楽用スーツではなく黒騎士団に回してやれよ。
「そして……お前が扱うための機体も、用意してある」
お父様がそう言いながら、窓の一つへと歩み寄った。
そんな彼に付き従って、俺も窓へと歩む。
対弾ガラスの向こう側に存在しているモノ……。
屋敷の玄関前で、黒騎士団のトリシャスに囲まれるようにして膝立ちの待機姿勢となっているのは、今朝方、搬入されたばかりのPLである。
全体的なシルエットは鋭角的かつ直線的で、芸術品じみたティルフィングや、特定の戦術へ特化した設計のトリシャスに比べると、いかにも大量生産を前提とした工業製品という印象を受けた。
全体はグレーがかった青色に塗装されており、これは、銀河帝国軍の標準的なカラーリングである。
頭部のメインカメラは、バイザーによって覆われており、右腕のハード・ポイントには、マニュピレーターで保持することも可能なビームライフルが……。
そして、背部のハード・ポイントには、展開式の粒子振動ブレードが接続されていた。
これは、PLとしてのごくごく標準的な武装……。
俺のために用意された機体の名は――リッター。
銀河帝国軍の主力量産型PLである。
『パーソナル・ラバーズ』作中においても、最初に登場する機体であり……。
そして、色んな場面で見事な撃破されっぷりを見せるやられ役のメカであった。
だが、そんなことは俺にとって、なんらの減点要素とならない。
「量産機……カッコイイ!」
お父様の隣で、自分用に用意された機体を見上げた俺は、そうつぶやきながら目を輝かせる。
「気に入ってくれたようで、何よりだ」
そんな俺に対し、お父様がにんまりと笑いかけた。
「はい!
量産機ならではの無骨さ……シンプルさ……。
これは、過度なカスタマイズが施されたティルフィングとは、また趣きの異なるデザイン美です!」
「え、そお?
もしかして、おれのティルフィングより気に入っちゃってる?
ただ単に、調達が容易で操縦もマイルドだから、あの機体にしたんだけど……。
い、いや。お前が満足してくれてるなら、それでいいんだ」
ハキハキと答える俺へ、お父様がやや微妙そうな表情で答える。
ううん、もうちょっとティルフィングを持ち上げてやればよかったか? 正直、甲乙つけがたいとは思っているぞ。
「ま、まあ……ともかく!
これで、お前がPLの操縦について学ぶための環境は、完璧に整ったわけだ!」
配下である黒騎士団が見ていることもあり、お父様が、舞台役者じみたやや大げさな動作で宣言した。
「カミュよ! 覚悟するがいい!
ことPLの操縦に関して、お前の父は厳し――」
「――何を仰っているのです?
まさか、ご自身でPLの操縦を教えられるおつもりですか?」
会話に割って入ったのは、エリナの祖父である執事セバスティアンだ。
「え?」
きょとんとするお父様に対し、忠実なる老執事は淡々と告げる。
「よいですか?
このところ公務をサボり続けてくれたおかげで、旦那様にやってもらわなければならない仕事は山積しております。
当面は、気が散らないようホテルのスイートで監禁――じゃなかった。
缶詰めをしてもらいますぞ」
「今、監禁って言わなかったか!?
な、なら、カミュには誰が教える!?
黒騎士の誰かか!?」
「精鋭部隊である彼ら黒騎士たちに、そんな暇はありません。
ご安心下さい。
全て、完璧に手筈を整えております。
ほら、時間通りに到着されましたぞ」
言いながらセバスティアンが、窓の外を見上げた。
すると、彼の言葉通り……。
遥か上空に、きらりと輝く機影があったのである。
--
近況ノートで本エピソードのイラスト公開してるので、リンク張っておきます。
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093084703378729
https://kakuyomu.jp/users/normalfreeter01/news/16818093084703396742
そして、お読み頂きありがとうございます。
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