第363話
「おお!!よくいらっしゃっ・・・じゃなかった、よくぞ参った!ミユ、ギルバート、そしてオーガの者達よ」
「はい・・・」「はーい」「は、はい」「フフフ私は二日ぶりですが、どうもご機嫌麗しゅう」
馬車の騒動があった翌日にドモンからトッポ宛の手紙が届き、もう居ても経ってもいられずに、ミユとギルバート、そしてナナ似とサン似のオーガの四人をすぐに呼び寄せた。
そうして翌々日、四人は宮殿の謁見の間へと通されることになったのだ。
昨夜は「遅い遅い!太陽が昇るのが遅すぎる!」と何度も夜中に起きていたトッポ。
「ええと・・・ギル、本当に宮殿なのよね?王様がいるの?」目は見えないけれどキョロキョロと辺りを見回したミユ。
「ええ、目の前の椅子に座ってますよ。あ、立ち上がりました。あ、また座りました」笑いを堪えながら答えたギル。
「ウフフ!何をやっておられるのかしら?大丈夫ですか王様?」
「い、いえその・・・はい大丈夫です。なんでもありません」トッポはしどろもどろ。
ドモンの手紙にはこう記してあった。
『正真正銘、本物の歌姫だぜ。この世界で一番の。盲目ではあるけれど、下手なことをすれば一発で見抜かれるし、トッポであろうがなんだろうが闘う女だ。口喧嘩なんか絶対に勝てん。俺も無理』
そんな手紙を読んでいたので、トッポはソワソワ。
オーガ達とも接したいけれど、今はミユが最優先。
「僕・・・私はアンゴルモアと・・・」
「なぜ?なぜ私はここに呼ばれたのでしょうか?ドモンさんが犯人なんでしょう?」
「犯人だなんてそんな!わ、私が呼んだのです」
「嘘。あの人は私を利用したの。きっと確実に劇場を押さえようとして。でもそれは私の願いでもあるから、だから私はここに来たんですフフフ」
「は、はい」
ドモンにも似た、いや、それ以上の圧倒的存在感。
トッポだけではなく、大臣や護衛の騎士達までその雰囲気に飲まれる。
不敬?それがどうした。私の行く道を、もう誰にも止めさせはしない!という確固たる意志が、そのオーラから溢れ出ていた。
「よくはわからないけれど、私は歌えば良いのですね?」
「ひ、人払いをしましょうか?もしくは場所を移して・・・」
みんなが注目する中で歌えというのはあまりにも酷だとトッポは考えた。
ドモンも注目されたが、あれはまだ食事の場。
楽天家のギルですら、謁見の間で歌うことは流石に考えられない。
「結構です。どうぞ皆様そのままで」
「え?ミユさん待って待って!ハンカチハンカチ!!」「わわわ私も!!」慌てるナナ似とサン似のオーガ。
「伴奏は?」とギル。
「今は必要ないわ。音が響くもの」
自分の声の響きを確認したミユ。謁見の間では音が跳ね返りすぎるのでギルの弦楽器は拒否した。
ピンと張り詰めた空気。
ここ二日で覚えた数曲の中からひとつの歌を選び、ミユは歌いはじめた。静かに、だが力強く、優しく寂しく。
「♪今はこ~ん~なぁに~悲しくて~」
「!!!!!!」「!!!!!!」「!!!!!!」「ぶわぁ!やっぱりこれだぁ!うびぃぃぃ」「うぅ」
もうその歌を知っているオーガのふたりは、歌いはじめた途端に抱き合いながら大号泣。結局ハンカチを用意する間もなく、ギルが苦笑しながら二人の顔を拭くはめに。
他は絶句。
魂を揺さぶられ、全身が総毛立つ。
最後は全員が涙腺を雑巾のように絞られ、これまでの人生で流した涙の十倍は流すこととなった。
「ああもう僕はダメです。ドモンさんよりお上手だなんて」
「お褒めにお預かり光栄です。フフフ、それが本当の口調なんですね」
「こんなボロボロの顔で今更取り繕ったところで、もうどうにもなりませんし」
「でも良いのかしら?ドモンさんより上手だなんて言ってしまって。きっと拗ねますよ?あの人」
「絶対に他言無用でお願いしますアハハ・・・グス」
ミユと会話しながら、替えのハンカチをまた侍女から受け取るトッポだったが、そのハンカチは湿っぽかった。
つい侍女が自分の涙を拭いてしまった方のハンカチを渡してしまったためだ。
「という訳で、復興チャリティーコンサートというものを開くことになりまして、来週にでも一番大きな劇場を押さえてほしいのです陛下」とギル。
「手紙で話は聞きました。もちろん賛成ですし、どんな事をしてでも押さえてみせますよ。それに・・・この歌を聴けば誰も反対なんて出来ないでしょう。させないですけど」
ミユの方を見たトッポ。
凛とした姿で立つ彼女の顔に、窓からの光が差す。
ミユは陽の光が眩しくはないので、顔をしかめることもない。
その横で、それはもう鬼のようなしかめっ面で「まぶしっ!カーテン閉めなさいよ!」と憤怒しているナナ似のオーガと、「ダメですよ・・・」と注意をしたサン似のオーガ。
トッポはもうそれだけでこのふたりのことをすっかり気に入ってしまった。
ミユとギルは、まだこれからたくさんの練習をしなくてはならないと、王宮の楽団の演奏協力依頼をしたあとすぐに、ドモンのいる宿舎へ戻っていった。
「ねえ王様、護衛って何をすればいいの?あとご飯とか・・・」護衛の心配よりもご飯の心配をしたナナ似オーガ。
「僕のことはトッポと呼び捨てにしてくださって構いません。護衛と言っても、あなた方がそばにいてくれたら恐らく襲われることもないでしょうから、必要な時に僕と一緒に街の散策をしてくれればいいですよ。食事は僕と一緒に食べましょうね」
「王都の中を歩いてもいいの?わかってるとは思うけど、私オーガだからね??あと私すっごいご飯食べるよ?」
「大丈夫です。そこら辺りの志は、ドモンさんと僕はもう一緒ですから。必ずあなた達のことは国民、そして人間全てに認めさせるつもりです!あとご飯の心配はしないで大丈夫ですから・・・プクク」
周りからはクスクスという笑い声。
ただ嘲笑というわけではなく、あまりにもナナとそっくりで、つい笑みが漏れてしまった。
サン似オーガはナナ似オーガの横で、赤くなった顔を両手で隠していた。
「ちょっとあんた達!なに笑ってるのよ!」「ダメですダメです!」
「違うのです違うのです。ほら、ナナさんと本当にそっくりで、皆驚いているのですよ」
「ドモン様もそう言ってたけど、そんなに似てるかなぁ?私の方が1センチくらい背が高いし、胸だって私の方が1センチの半分くらい小さかったわよ?それに先っぽの色と位置も」「だめぇ!!もうっ!!」
「ブハッ!く、くるしい・・・」
オーガふたりのやり取りに、盛大に吹き出したトッポ。
もう気に入ったどころの話ではない。
心臓がドキドキと高鳴り、そして心がムズムズする。
「僕は案外浮気者なのかもしれないですね。きっとあの方の影響です」
トッポはそう言ってこのふたりのオーガを、近衛師団親衛隊長、通称『ロイヤルガーディアンズ』に任命した。
立場的には大臣である宰相と同じ。しかしその関係性は大臣は元より、親族よりも近しい関係である。
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