第9話

出発から二日目。旅の途中での休憩中、ドモンはナナに自分のレベルについて尋ねた。


「ナナはどうやって自分のレベルを知ったんだ?」

「冒険者ギルドに自分のステータスが分かる道具があるのよ」

「色々なステータスが見られるのか?」

「そうね。大体のステータスが分かるわよ」


「冒険者じゃなくても利用できるか?」

「その場合有料になっちゃうから、それなら冒険者登録をおすすめするわ」

「なるほど。その登録は・・・」

「銀貨1枚でできるわよ。ある程度活動していないと除名されてしまうみたいだけど、ギルドの人に頼めばただで延長してくれるけどね」と笑う。


銀貨一枚がどれほどの価値なのかがわからないが、ナナの口ぶりではそれほど高額というわけでもなさそうだとドモンは頷く。


「ワシが払ってやってもいいぞ」とファルが申し出るが「私が出すから大丈夫よ。ありがとう」とナナが微笑んだ。




「そういえばファル、馬車の乗り心地のことなんだけど・・・」と少し言い難そうにドモンが話し始める。

「ハハハ苦労してるみたいだな」とファルは苦笑い。

「もう少しなんとかならないかな?お尻がもう痛くて痛くて」

「馬車なんてみんなそんなもんさな。辛くても優雅な顔してみんな乗ってら」


それが当たり前ことのようにファルは言う。が、しかし流石にどうにかならんのかとドモンも食い下がる。


「サスペンションを入れるとか、座席を吊り下げるような形にすればもう少し楽になると思うんだけどなぁ」と首をかしげた。

「サスペ・・なんだそりゃ?それに座席を吊ったりしたらもっと揺れるんではないのか?」

「サスは衝撃を吸収するものだ。座席の吊り下げは多少揺れるが振動が直接伝わるよりもずっとマシだな」


そうドモンが説明するも全員納得していない様子。

落ちていた野球のボールくらいの石を拾い上げ、紐を結んでぶら下げてみせながらドモンが説明を続けた。


「慣性の法則・・・と言ってもなんだそりゃってなるだけだろな」

「なんだそりゃ」と一番に言ったのはナナだ。

「止まってるものは止まり続けるし、動いているものは動き続けようとする力だ」

「もっと何言ってるのかわかんないよ」

「実際見せてやるよ」


紐を持ってぶら下げた石を皆に見せるドモン。


「この紐を素早く細かく左右に動かすと石はどうなると思う?」

「普通に石も左右に動くんじゃないのか?」とファルは首をかしげる。

「あとからついていくように動くんじゃないかな?」と若いカップルの男の子が言うと、女の子とナナも「うんうん」と相槌を打つ。

「じゃあ実際やってみせるぞ」


そう言って紐を左右に細かく振るが、当然紐だけが左右に振られ、石はほぼ動かない。


「見ての通り石はこの場に留まり続ける。このくらい細かく動かすと力が石まで伝わらないんだ」

「そんな細かい動きならそりゃそうだろう」とファルが言い、他の三人も頷きながら少し呆れた。


「もちろんこうやって大きく揺らせば力は伝わってしまう」と言いながら、今度は大きく腕を振って石を振り子のように左右に振る。


「それがなんだって言うんだ」

「だから馬車の座席を吊り下げたらこれと同じことが起きる」

「・・・・・」

「ガタガタ道のような細かい振動はぶら下げた座席にはあまり伝わらない。馬が引っ張る大きな力にはついていく」


そんなまさか?!といった表情で顔を見わせる一同。


「だ、だがどうやって吊り下げるんだ?」

「何も本当に上からぶら下げなくても、こうやって枠組みを作って・・・座席というか荷台の下に丈夫なロープやチェーンを通して持ち上げて・・・」と木の枝で地面の土に絵を描きながら説明をしてみせるドモン。

「最初に言ってたサスペンションもバネを使って車体を持ち上げるという仕組みなんだよ」と話を続けるも、実際に体験しなければやはり納得ができない様子。



「じゃあ・・・」と買い物した物が詰まっているダンボールを持ってくる。

「これを手に持ったまま左右に振ると中の物もガシャガシャと左右に揺れるだろ?」

「そりゃそうよ」とカップルの女の子。

「ではこの箱の下にロープを二本通して、そっちとこっちのロープを二人で持って荷物を持ち上げてみてくれ」

そう言って若いカップル二人にロープを使ってダンボールを持ち上げさせる。


「それでさっき俺がやってたように左右に細かく腕を振ってみてくれ」

ドモンの言葉通りにちょこちょことロープを左右に振る二人。


「箱の中身はガシャガシャいってるか?」

「中身は殆ど動いてないわ!!すごいよドモン!!」と叫ぶナナ。

「むーん・・・」と唸るファル。


「これはとんでもない発見かもしれないぞ」とファルがボソリと続ける。

「丈夫な紐かチェーンを用意しないと駄目だけどな」

「いやそれくらいならなんとかなるだろう。鍛冶屋と大工のところへ顔を出さねばならんな」と言いながら、いくらくらいかかるのか改造費用を計算していた。


「発見というか俺の世界ではこれが当たり前で・・・」

「世の中が変わるぞ。これが常識になったなら」とドモンの言葉を遮りながら、ファルは目を輝かせる。

「是非変わっていただきたいね。これで俺の尻が守れるなら」と真剣な顔をしてお尻を擦る。


「この馬車をお前の専売としたら莫大な金が入ると思う。王族も貴族連中も、こぞって買い付けに来るだろう」

「いらねーよそんな金なんて。その内誰かが思いつくもんだしな。それよりもずっと大切なものがある」

ファルの言葉にドモンがそう答えると何故か目を輝かせるナナ。

それに気がついたドモンは「お前は一番大事な俺の尻のその次だ」と言ってナナをからかった。



休憩も終わり再出発。

明日の夜には街に到着するだろうと聞いたドモンは少しホッとする。


この日の夜は若いカップルにテントを貸した。

ファルは馬車の中でひとりゴロ寝をし、ドモンとナナは焚き火の前の敷物に寄り添うように並んで座って眠る。

皆、わさび醤油で食べた干し肉とお米で大満足したあとのこと。



夜中ドモンが用を足しに行った時に、テントの中から何やら妙な物音が聞こえたので聞き耳を立てようとしていたが、後ろから急に現れたナナが思いっきりドモンの右耳を引っ張って遠くへ連れて行った。



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