第633話
ドモンが車から持ってきたのは一本のスキニージーンズ。
スキニージーンズとはその名の通り、体の線にピッタリと張り付いて、細く痩せて見えるジーンズのこと。
サイズがぴったりなら穿けるが、そうでなければ穿けないし似合わない。
ケーコがリサイクルショップにて当てずっぽうに買ってきた物の一つだが、残念ながらナナには短く、エリーはお尻が入らなかった。
「ほら、いつまで裸で失神してるんだ。尻を上げろ」
「あ・・・う・・・?」
「長さはちょうど良さそうだけど、尻がキツイか?それとも無理やり尻を押し込めばいいのかな?それっ!それっ!」
「おんっ!おおんっ!!なにこれ??ちょ・・食い込ん・・」
流石にピッタリとはいい難いが、元から少し伸びる素材であったため、なんとか穿くことが出来た。
その見た目は、向こうの世界からきたドモンでさえ目を見張るもので、アーサー達だけではなく女性陣も見とれてしまうほど。
裸でいる時よりも魅惑的だった。
「だ、だからこれは一体なんなの?!」
「これは俺が異世界から持ってきた貴重なズボンだ。王都の仕立て屋に聞いたけど、この世界では金貨千枚や二千枚はくだらないというほどの価値があるそうだ」
「!!!」「!!!」「!!!」驚くサキュバス三姉妹。
ドモンは知らなかったが、今現在そんな値段では取引されてはいない。
金貨三千枚から五千枚とも言われ、将来的には一万枚にも届くと予想されている。
金貨一万枚は日本円にして、約10億円。
ドモンは穿かせたジーンズのボタン付近に、何かをカチャカチャと仕掛けながら言葉を続けた。
「これをお前達にやろう。ただしさっき言ったようにタダではやらない。もしタダであげてしまったと噂が広まると、俺を襲いさえすれば大金が手に入ると勘違いするバカが現れないとも限らないからな」
「・・・・」「・・・・」「・・・・」
三姉妹は言葉もない。確かにそういった安易な考えで襲ったのは自分達だったからだ。
他の者達もその言葉に納得。
「一体何をすれば・・・」
少しだけ見えた希望の光に、すがりつくような視線を送る三姉妹。
後ろ手に縛られたまま跪き、立ち上がったドモンを見上げた。
「口を開けて舌を出せ」一番上の姉サキュバスの顎を持ち上げたドモン。
「こらドモン!目の前でまた浮気?!あんたあとで覚えてなさいよ!!」結界をブチ破りそうな勢いのナナ。
「違うっての!そんなこと言ってたらホントにベロチューするぞまったく。ほら口開けろ。早くしないと全部なしにするからな。はい、べー」
「うぅ・・何をする気・・・べー・・・」不安そうな姉サキュバスだったが、素直に指示に従った。
ドモンは姉サキュバスの舌の上にとある錠剤をひとつ置き、二本指で舌を口の中へと押し込んだ。
突然に、そして強引に口の中へと指をねじ込んできたドモンに、涙目になりながら何故かついうっとりし、うっかり錠剤を飲み込んでしまいそうになったのを、姉サキュバスはなんとか堪えた。羨ましすぎたサンはその場で地団駄。
「これは何?!何を飲ませようとしたのさ!!」
「さあな。毒かもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただそれを飲み込みさえすれば、今穿いているそれはお前達にやる。一応、命に関わるものではないとだけ言っておく」
「えぇ?!」「本当に??」「駄目よ駄目!毒よお姉ちゃん!罠だわ!」
「お前らの話をいきなり信用しろと言われても、俺達も困るからな。お前が俺を信用してくれるなら、俺もお前らのことを信じることにするよ」
人間の、しかも異世界人が持ってきた、異世界の正体不明の薬。
命を奪うものではないと言われたけれど、それも実際どうなのかはわからない。
生涯眠り続けるかも知れないし、生涯発情し続けるかも知れない。記憶をなくされ、性奴隷として生きることになるかも知れない。
サキュバスの姉は、想像出来るありとあらゆる最悪の事態を頭の中で想像し、その薬を飲み込んだ。妹達にサキュバスの未来を託して。
「の、飲み込んだわよ」
「じゃあそのジーンズはお前のものだ。良かったな。あと10分したら拘束を解いてやるから、逃げるなりどこへでも行けばいいよ」
「本当ね?!」
「あぁちなみに注意しておくけど、そのズボン少しでも汚したりしたら、一気に価値が無くなるから気をつけるんだぞ。スキニージーンズってのは、汚しが付加価値にあまりならないのよな」
「え?!」「お姉ちゃんすぐに立ち上がって!!」「お尻の土をすぐに!!」
後ろ手に縛られながら立ち上がった三姉妹だったが、当然手が使えないので土も草も祓うことは出来ない。
ジタバタとしながら二分ほど過ぎた頃、薬を飲み込んだ姉サキュバスの顔が曇り始めた。
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