第634話

「一体・・・一体何を飲ませたの?!」

「異世界の下剤だよ。この世界じゃ五分と我慢出来ないほど薬が効くみたいだな。万が一お前が漏らせば、もうそれの価値もなくなって、金貨千枚が消えて無くなるぞ」

「うぅぅ!酷い!酷すぎる!!」

「言っただろう。それなりの報いは受けてもらうと。それに俺は悪魔だぞ?イーッヒッヒ!」


額から脂汗をダラダラと流しながら、ドモンの顔を睨んだ姉サキュバス。

ドモンはタバコに火をつけて、その煙をフーっと苦しむサキュバスの顔の辺りへと吐き出した。


姉サキュバスは、タバコの煙の独特なニオイに唸り声を上げる。これにはナナ達も思わず顔を背けた。

タバコの煙にはなぜかわからないけれど、便意を催す効果があるのを肌で感じとっていたからだ。

食事の後、一服するドモンの隣りに座っていると、必ずと言っていいほどお腹が痛くなった。

結界の中で守られたナナですら、その様子を見てお腹がグルグルと鳴ってしまうほど。


「お姉ちゃんに酷いことしないで!」「お願い!せめて脱がせてあげてよ!!」焦る姉妹が跪きドモンに懇願。

「どうしようかなぁ。もうすぐ5分か、ナナならもう限界で漏らしてもおかしくない時間だけども」


「ぐぅぅぅ!!ほあっ!!ふ・・・ふ・・・ふぅ・・・ぁぁあああ・・・もう限界・・・」

「じゃあお前らが脱がせてやりゃいいじゃないか。結界を解いてくれりゃ、お前らだけでも拘束を解いてやるよ。ふたりで協力して鍵を外して脱がせてやれよ」

「わ、わかったから!」「先に手を自由にして!そうじゃないと結界は解けないの!!」


ドモンが姉妹の拘束を解くと、結界を解くこともせず、ジーンズに付いた鍵を外そうとした姉妹。

だが初めて見る数字型の南京錠、いわゆるナンバーロック型の鍵の外し方がわからず大パニック。

もしかしたら助かるのかもと思った姉サキュバスは、それが叶わないのだと瞬時に理解し絶望の表情。


「そうするだろうと思って鍵をつけたんだ。外し方を教えてほしけりゃ結界を・・・」

「ハッ!」「ヤッ!」


切羽詰まった姉妹は、即結界を解除。皆ようやく自由の身に。

駆けつけた勇者パーティーはサキュバス達を討伐することもなく、「耐えるんだ!」「私も手伝うわ!」とサキュバス達に協力をし始めた。


「それは三桁の数字を回しながら、その線がついているとこに数字を合わせるんだ。000から999まで、順番にやっていけばいつかは当たるだろうよ。まずは000からやってみろ」

「そういうことなのね!」「無理だわ!」「千分の一か!やってやれないことはない!」


姉妹とアーサーは鍵外し、ソフィアは姉サキュバスを必死に励まし続けている。ミレイと大魔法使いはそばで祈るのみ。

そしてドモンに近寄ったナナは、ドモンの頭を思いっきり引っ叩いた。


「なんてことしてんのよ!可哀想じゃない!!」異世界の下剤の効果をよく知るナナ。

「イテテッ!まずは俺の話を聞け!あれは下剤なんかじゃなく整腸剤なんだよ。お腹の調子を良くする薬だ。ただ調子が良くなりすぎて、大きなオナラが出そうになるのが難点なんだよなハハハ。だから平気だよ」


実際にCMでもやっていたオナラを止める有名な薬は、『飲み始めに、腸内に溜まって出にくくなっていたガスを出しやすくすることで、腹部膨満感を解消しますので、服用後しばらくはおならが多くなることがあります。』と説明に書かれている。


「でもあんなに苦しんでいます!」「ワタクシ達もこうして結界から出られたのですから、救ってあげてはいかがでしょう?」サンとシンシアも流石にサキュバス達に同情。

「大丈夫。鍵を外す数字は『123』なんだ。ゼロから順番通りにやればそろそろ外れると思うよ。それよりもサン、紙とペンを用意してくれる?」


ドモンの言葉を聞いてようやく納得したナナ達。

全ては結界を解かせるためのドモンの罠であった。だが・・・


「あの人は000からやれと言ったわ!それなら999から減らしていけば良いはず!」「そうそう!絶対に最後の方に外せるようにしているはずだから、最後からやればいいと思うの!」とドモンの罠を読み、機転を利かせる姉妹。

「なるほど!ドモンさんならやりかねない!そうしよう!」アーサーも999へ数字を合わせ直した。ちなみに今の数字は『121』であった。


仲間のため、サキュバスの未来のため、サキュバスの姉は耐え続けた。

整腸剤の副作用で、グルグルポコポコとガスを溜め続けたお腹は目に見えるほど膨らみ、そしてそれを出すまいと閉め続けていた出口も、ついに限界を迎えようとしていた。


「ごめん・・・なさい・・・もう・・・無理・・・」姉サキュバスは、何もかも諦めてもう楽になりたかった。

「諦めるな!ドモンさん!もう許してやってくれないか?!数字を!答えを教えてくれ!」指が擦り切れる勢いで数字を回し続けるアーサー。

「アーサー!この部分だけ切るしか方法がないわ!今はお金よりも女性として守らなければならないものがあるの!」女性としての尊厳を優先させるべきだと訴えるソフィア。


「切るのだけは止めてよ。それよりも、もうそろそろ10分経つから答えを教えるぞ?答えは『123』だ。だから000からやれと言っ・・・」

「123!よし鍵が外れたぞ!すぐに脱がせるんだ!」「お姉ちゃんあと少しよ!」「頑張って!!」


ドモンが話し終えるのを待つことなく、アーサーが一瞬にして鍵を外し、姉妹がジーンズを脱がせにかかる。

しかし無理やり肉を押し込んだスキニージーンズは、すぐに脱がせることが出来なかった。


やっとこの苦しみから解放される。

そう考え、一度緩んでしまった気持ちはもう戻ることはなく、ジーンズからお尻すら出すこともないまま、全身の力を抜いてしまった。


『ブホッ!ぶっぷぅ~・・ブスブスブスゥ~・・・』


派手な破裂音が森の中に響き、それと同時にオナラの臭いが周囲に広がる。止まる時間。

サキュバスの姉は、助かったとか助からなかったとかはもう関係なく、今すぐ消えてなくなってしまいたい気持ち。

その様子を見てケタケタと笑い転げるドモンと、ドモンに冷たい視線を送るナナ達。


「ワハハ!さっきのは下剤なんかじゃなく整腸剤というお腹の薬だったんだよ。中身をぶちまけなくて良かったな!まあぶちまけたところで、普通に洗濯すりゃ本当は大丈夫だったんだけれどもククク・・・良い音だったなイーッヒッヒッヒ!!」


号泣するサキュバスの姉の横に、ソフィアから平手打ち、ナナからは本気の尻叩きをされ、うっかりまた三途の川の橋を渡りかけたドモンが転がることとなった。



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