第631話
「こ、これは?!しまった!!ミレイ!ソフィア!」
「ああ!」「すぐに行くわ!」
「拐われたか!油断しておったわい!!」
突如慌ただしく動き始めた勇者パーティーを見て、キョトンとした顔のナナ達。
ナナ達には何が起きたのかまったくわからない。
「結界を張られたわ。アーサーのものとは違う別の結界!恐らく魔物のものね」説明しながら、急いで下着を着けるソフィア。
「あの様子だと多分ドモン様が拐われたんだ!ソフィア!先に行ってるぞ」ミレイは下着もつけずに、服だけを着て走り去った。
「なんですって?!」「御主人様!!」
「すぐに救出してくださいませ!さあ早くワタクシ達も行きますわよ!」
ドモンが拐われたことを知り、ガタガタと震えだしたナナとサンを見かねて、シンシアが檄を飛ばしながらふたりの着替えを手伝った。
シンシアはふたりと違い、大事な人を失った絶望感をまだ知らないので平気でいられるのだ。
ナナとサンは、自力で服のボタンも留められず、まともに歩くこともままならない。
そんな勇者達が異変に気がつく、数分前のこと。
ドモンは姉妹に連れられ、森の奥の綺麗に芝刈りがしてある場所にいた。
芝はちょうど六畳部屋くらいの大きさに刈られてあり、そこにダブルベッドにちょうどいいくらいのフカフカの布が敷かれている。
その布の真ん中に、エリーとナナの中間くらいの体型の女が、大人のお店の方の女王様のような格好をして、横向きに転がっていた。
「うぅ助けて・・・」
「おいそこの姉ちゃん、大丈夫・・・そうだな」どう見ても怪我はない。
「はぁ?助けてって言ってるでしょ?とにかくあなた達よくやったわ。次の手筈を整えてちょうだい。失敗は許されないよ!」
「任せておいてお姉ちゃん!」「必ず成功させるから!」
ドモンをここへ連れてきた姉妹は、足早に更に森の奥へと消える。
それを見届けると、色気の塊のような女がクフフと笑った。
「お前はもう逃げられないわ。そして私達にすべてを奪われるのよ。財産も地位も名誉も、それに生気や人間の尊厳さえも・・・」
「そんなもん最初からあまりないけどなぁ・・・特に人間の尊厳なんて、ちょいちょい失ってるぞ」
「おだまりっ!私達が本当の絶望ってものを教えてあげるわ。人間達に、そして異世界人のお前にもね!」
セクシー女が「ハッ!」と声を上げながら両手を天に掲げると、ドモン達ふたりを囲むように、半径数メートルの半円状のドームが出来上がり、そのドーム内がピンク色の何かで一杯になった。
「何だこの匂いは・・・」
「ハハハ堪んないだろう?人間のオスなんてこれでイチコロさ。死ぬまで精を抜かれても発情し続けるだろうね」
「え?賢者タイムも強制キャンセルされるの??そりゃ便利だな」
「どこまでその余裕が持つかね。ほら私の目を見てごらん。あんな小娘共のことなんて忘れるくらい私に夢中に・・・ちょっとどこ見てんのよ!ま、待って!」
獲物を捕らえるかの如く、大きな胸の先の突起を凝視するドモンに、思わず後退りするセクシー女。
そんな時、ちょうど勇者パーティーが駆けつけた。
「やはりサキュバスか!結界まで張られるなんて油断した!」とアーサー。
「なんとかなりそうか?ソフィア!」身構えるミレイ。
「わからないわ。全魔力を使って浄化魔法で対処してみるけど・・・」
「捕まった人間の欲望の深さが、そのまま結界の強さになると聞く。あやつがどれほどまでの欲望を持っているか・・・皆想像出来るじゃろ」
ドモンを救い出すべく浄化魔法を唱え始めるソフィア。
だが大魔法使いの言葉で、全員が更に険しい表情となった。
「なにあれ?変な家みたいなのは結界なの?!それになにあの女!」ようやく駆けつけたナナ。
「あれはサキュバスだ。淫魔とも呼ばれてる。あいつの催淫効果によって、ドモンさんは今あいつ以外見えないんだと思う。このままだとドモンさんはあいつに死ぬまで精を抜かれることに・・・」
「なんですって?!」「た、大変ですぅ!」「まさかそんな!?」
「だから今ソフィアがあの結界を破る浄化魔法を放つ準備をしている。だけど捕まった人間の欲望が深ければ深いほど、結界は強くなるんだ」
アーサーの説明に愕然としたナナ達。
「アーサー!みんな!お願い、力を貸して!私の魔力だけじゃ無理だわ!!私の背中に手を当てて、全ての魔力を私に流して!!」
「わかった!」「全部持ってけ!」「ワシもだ」
「ありがとう、行くわよ!全知全能の神よ、汚れた心を浄化し、その魂を救い給え!ディスエンチャント!」
ソフィアから放たれた結界を除去するための全力の解呪魔法により、サキュバスが作った結界は派手に弾け飛んだ。
魔力を全て使い切った勇者パーティーは全員その場にへたり込み、ナナが慌ててドモンを救出しに・・・と、動きかけた瞬間、左右から何かの叫び声が聞こえ、今度は勇者パーティーとナナ達が結界内に閉じ込められてしまった。
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