第51話

馬に乗り、ドモン達は屋敷を出てギルドへと向かっていた。

もちろんドモンのステータスを確認するためだ。


「ハァハァ・・な、何かスキル付いているかもしれないね・・・ハァハァ・・・」

「う・・そ、そうだな・・・あ!!・・・・・・」

「ちょ、ちょっと!『あ!!』って何よ・・・ハァハァハァ」

「べ、別になんでもないよ・・・あぁ・・・」


日も暮れかけた街中を、恍惚とした表情で進む馬上の二人。

それでもなんとかギルドまで辿り着く。



「あんたもうちょっと我慢できないの?!」

「だからしてただろ!」


言い争いをしながらギルド内へ。

何事かと周囲の視線がふたりに集まる。

その視線に気がついたふたりは、適当に誤魔化しながら受付へと移動した。


「すみません、ドモンのステータスを確認したいの」

「それではギルドカードのご提示をお願い致します」

「はいこれで」


まるで子供の母親のように、ちゃっちゃとナナが受付を済ませる。


「はい。ではこちらに手をかざして下さい」

「はいドモンいいわよ。この前みたいにくっつけちゃ駄目よ?」

「わかってるよ、子供じゃないんだからまったく」


ナナに促されてドモンが手をかざすと、ステータスが表示された。



レベル 49

職業 遊び人

HP 50/83

MP 0/0

属性 なし

スキル なし



「・・・・ちっ!変わらねぇな。さあ行こう」

「ちょっと私にも見せなさいよ!何これ?!やっぱりスキルも何もないじゃない!遊び人のままだし」


ナナの言葉で前回と同じように受付嬢が笑いを堪え、プルプルと震えている。


「いいよもう行こう」

「それにちょっと待って!あんたなんで馬に乗っただけでHPがこんなに減ってるのよ!!」

「し、知らないってば・・・」

「まさか?!あんた!もしかして?!」


さっさと立ち去ろうとするドモンを引き止め、ナナが急にしゃがみ込んでドモンのズボンとパンツの紐をほどき、ガバッと開いて中を確認した。


「ちょ!何すんだよ!」と、ドモンが慌てて隠そうとした手をナナが払い除ける。

「きゃっ!」上から中を覗き込んでしまった受付嬢が目をそらした。


「あれ?違ったみたいね。てっきり私、途中でドモンが・・・スッキリしちゃったのかと・・・」

「あああ!」ドモンが両手で顔を隠す。

「だって途中で『あ!!』とか叫んだ後ちょっと静かになったから・・・クンクンクン・・・大丈夫みたいね元気だし」

「ひぃぃぃ!」


羞恥のどん底まで落とされるドモン。

冒険者達の嘲笑の中、ホホホと笑いながらナナがドモンのパンツとズボンの紐を縛った。


「ナナがあんなに押し付けてくるからHP減るんだよ」

「なんでよ!むしろ増えてもいいくらいでしょ!」

「お前が歩くだけで周りの男はみんなHP減ってんの!」

「そんな事あるわけないじゃない!!」


ドモンの言葉に反論するナナだったが、冒険者の中から「違いねぇ」と苦笑する声が聞こえた。


「え?何ちょっと・・・え??本当に?」と焦るナナ。

「冗談だよ。ただ本当だとしても、男達はみんな本望だと思うぞ?HP無くなったって見ていたい女なんだよお前は。なぁみんな?」とドモンが冒険者の方へと振り向く。


「確かにな」

「死ぬまで見てられるよ」

「そっちのドモンとやらが羨ましくて仕方ないぜ」


「ほらな」とドモンが冒険者達に目配せをして、こっそりと感謝した。


「そ、そう?なら良かったけど・・・でもどうしてそんなにHP減っちゃったのかしら?」

「普通に色々と疲れちゃったんだろ。まあ・・・必死に我慢してたせいってのもあるかもしれないけどな」

「そうなんだ。じゃあ今日は私が上モガガー!!」


暴走しそうなナナを早めにドモンが制し、その場を去った。


「それにしてもなんか・・あれ?何か・・・」とナナが首を傾げている。

「さあ帰ろう」

「ねえなんかさっきステータスが・・・」

「早くしないと先に帰っちゃうぞ」

「あ、待ってよ!馬に乗って一緒に帰ろうよ~!」


スタスタと歩くドモンの腕を捕まえて、ナナが馬まで引っ張っていった。

長い一日だったがようやく帰宅の途につく。すっかり日も落ちて暗くなってしまった。



「今度はHP減らさないように・・・あの、我慢できなくなったらちゃんと言ってね?」

「俺、馬に乗ってるだけで死ぬんかな?馬というかナナというか・・・」

「わ、わからないわよ。そんなの聞いたことないもん。持病があるとかなら分かるけどハァハァ・・・」

「う・・まあそうだよなぁ・・・なんかHPまた減りそう」


そんな会話をしつつ、道中休み休みしながら帰る。

本当に死んだりしたら洒落にもならない。

途中の店でエールを飲んだり食べ物を買って食べたりしながら、今日会った貴族の子供達の話をしたりして時間を潰し、のんびりと帰った。

そのおかげもあって、ドモンのHPが尽きる前になんとか店の入口まで到着することが出来た。



ドモンが馬を降りてナナが馬小屋に行ってる最中、店内から派手な物音が聞こえた後、エリーの怒鳴り声が外まで響いた。

その直後、旅人風の見知らぬ細身の男が「くそ!」と悪態をつきながら出ていった。


ドモンが大慌てで店の中に飛び込むと、常連らしき6人の冒険者が「大変だったな」とエリーに向かって話しかけている。

エリーはテーブルの横で割れたグラスを「まったくもう仕方ないねぇ」と片付けていた。


「ただいま。一体どうしたんだ?」とドモン。

「あらドモンさんおかえり。どうしたもこうしたも見ての通りよ」とエリーがフゥとため息を吐く。


「さっき出てった奴が酔ったのか、急に俺達にいちゃもんを付け出してさ」

「落ち着けって言ったんだけど」

「飲んでたエールのグラスを座ってた俺らに投げつけてきたんだよ。なぁ?」

「あ、あぁ」


冒険者達から事情を聞く。

「私が来た時にはもうこの有様で、話を聞いて叩き出したのよ。他のお客さんの迷惑になるしねぇ」とエリーがヤレヤレのポーズ。

そこにナナもやってきて「どうしたのこれ?」とドモンと同じことを聞き、エリーと一緒になってその客のことを怒っていた。


ドモンが「そんな風には見えなかったんだけどなぁ」と頭を傾げていると「人は見かけによらないってことさハハハ」と冒険者が笑う。


「そんなに酔ってたのか?そいつは」とドモン。

「あれは泥酔だったな」と冒険者。


「エリー、その客は何杯くらい飲んだんだ?」

「一杯目よ。食事終わってからエールを注文してきたから」

ドモンの質問にエリーが答える。


「それで泥酔ねぇ・・・」とドモンはまた首を傾げる。

「あれは酒に弱そうな顔してたからな」と冒険者。


「そりゃ大変なことだな。可哀想に」と言って、ドモンは不機嫌そうにカウンターに座ってエールを飲み始めた。



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