第50話

こんな事になるとは全く想像もしていなかったドモン。

ドモンはただ単に、貴族の生意気な子供達に軽くお灸を据えようと思っていただけだ。


多少苦労をしてもらって、世間知らずな子供達に勉強をさせようと思っただけだったのだ。

それを凄いだの何だのと言われ、悪い気もしないので、黙ってそういう事にすることにしたドモンであった。


騎士達が「休憩をお済みでしたらまた食堂の方へ」と促して去っていった。

生返事でそれを見送るドモン。それをナナがじーっと睨む。


「ドモン~?」

「はい」

「なんか違うでしょ」

「な、何が?」

「私わかっちゃったんだから」


そう言ってナナがケタケタと笑い出した。


「ぜんぜんそんなつもり無かったんでしょ?!危うく私まで騙されるところだったわ」

「さ、最初からそのつもりだったんだよ!もう俺が生まれた時から」

「まあでも・・・そうしたかったんでしょ?ドモンは」

「いやまあ・・・まあそうだね、うん」


ドモンは食堂へと戻りたくないのか、もう一本タバコに火をつけた。


「何をどうしたら・・・子供達に給食当番させたら不敬罪が無くなるんだよ。知るかよそんなもん」

「本当に何があったんだろうね?」

「生意気な子供達に仕事させて、少しはみんなの大変さを教えようとしてただけだ。あの歳で豆売って母親助けようとしてたジャックなんて偉いだろ?それ思い出してさ」

「だよねぇ。でもまあドモンと色々あって、みんな何か思うところがあったんでしょうね」

「わかんねぇ」



ドモン達が食堂へと戻ると、貴族達の議論はますますヒートアップしていた。

何もこんな場所でやらなくてもいいのにと思いつつ傍観するドモン。

そんなドモンの姿を見つけ、カールがすぐに声をかけた。


「ドモンよ、何をしておる!貴様がいなければ話が進まぬではないか!」

「いや、だいぶ白熱してたように思えるけど・・・」とドモンがぼそっと囁いた。


「我らは領民の素直な意見を受け取るために、不敬罪を廃止することにしたのだ」

「その上で税率の見直しや健康保険への負担額を決めることとなった」

「今考えるべきは我らがどうなるかではなく、領民達がどうすれば安心して暮らせるかということである」

「我らは領民達に生かされている。それをこの度ドモン殿に教えられたのだ」


貴族達がそう言ってウンウンと頷いていた。

随分都合の良いように受け取ったもんだなぁとドモンは思ったが、余計な口には出さず見守ることにした。

その考え自体は間違ってはいないからだ。


「三週間、いや二週間後には健康保険の制度を導入させたいと思っているのだ。何かいい考えはあるか?」とカール。

「う~ん、それならアンケートでも取ってみたらどうだ?」とドモン。


「アンケートとは?」

「ご意見箱を街の真ん中に置いてさ、みんなに手紙を書いてもらうんだよ。自分の収入、毎月の負担額、理想の医療費の負担の割合とか家族構成とか。もちろんこっちの意見もきちんと伝えるんだぞ?負担額の金額によって医者の人数が増えるとか、医療費の負担額が増えるとか減るとか」

「なるほど」


秘書か何かがものすごい早さでメモを取っている。


「でもただ手紙を書けと言われてもみんな困るだろ?いくら不敬罪がなくなったといったって、変に緊張もするだろうし。だから最初から質問内容を決めた用紙を各家庭に配るんだよ。それがアンケート」

「ふむ」

「そしたら毎月の収入がこのくらいの人はこのくらい払えるっていう平均値が見えてくるはずだ。そこにちょっと金額を上乗せして、未成年と60歳以上の負担額をゼロとする。母子家庭や生活困窮者なんかも申請書を出してもらえたら割引にしてさ」

「決まりだな。流石だ貴様は」


カールが指示を出すとドタバタと皆が動き出した。

「いやいやもうちょっと煮詰めろよ・・・どうか?ってだけの話だよ」と言ったドモンの言葉はもう誰にも届いていない。


「意見箱とはまた斬新な」

「その意見箱はそのまま置き、定期的に領民の意見を求めてみるのも良いかもしれぬ」

「しかしよく次から次へとこのような考えが浮かぶものだな」


ドモンの話である程度の方向性が固まり、また貴族達だけで意見がかわされる。

それでもナナはドモンのおかげだと胸を張った。



「目処がついたみたいだしそろそろ帰ろうか。ギルド寄ってから」

「そうね。今度こそスキルが発現してるかもしれないよ?」

「期待しないで楽しみにしてるよ」


そんな会話をして皆に帰る旨を伝えると、一番に反応したのは子供達であった。


「やだよドモン!遊ぼうって言ったのに!」

「わたしの部屋に来る約束したでしょう?!」

「と、泊まっていけばいいじゃない!」

「い、異世界の話は・・・?」


子供達が怒ったり涙ぐんだりしながらドモンの服を引っ張る。

最初にドモンのことを怖がっていたのが嘘のよう。


「今度必ず約束守るからごめんな。またその内会えると思うからその時頼むよ」

「絶対よ!」

「なんなら今度店まで遊びに来い。美味しい物食わせてやるし、みんなでお泊りしてもいいぞ」

「ほ、ほ、本当に?!嘘はなしだよ??」

「ああもちろん。いいよな?カール」


ドモンに突然話しかけられ驚くカール。何の話かを聞いて少し悩みはしたものの、何名か護衛を付けるならと許可を出す。


「や、やった!!」

「街を散策しても??」

「護衛達と一緒なら良かろう」


カールの返答に子供達が歓喜の声を上げる。

貴族の子供達はほどんど街の中を散策したことがなかった。

どこかの店に寄ったことなどももちろんなく、せいぜい王都に向かう途中に通過する程度であった。


「ドモン、ナナよ、その時は貴様らも頼むぞ」とカール。

「任せておいてよ。こう見えて私なかなか強いのよ?」

「じゃあもし来る時は子供達に銀貨を1枚ずつ与えてくれ。色々経験させてやりたいからさ」

「・・・ふむ、なるほどな。それも良い経験か。よかろう」


ナナの言葉に頷き、ドモンの言葉で色々と察して納得するカール。

子供らは不思議な顔をしていたが、とにかく楽しみが出来たと大喜びしている。


「健康保険の事が済んだらみんな来い。それまでお前らはアンケート集計の手伝いをしろ。それが次の仕事だぞ?わかったな?」

「はい!」

「屋敷のみんなも子供らに仕事を任せるのはまだ不安かもしれないけれど、信じて任せてやってくれ。この子供らも領民のために頑張るはずだ。貴族の子だもんな?やってやろうぜ!」とドモンが子供達に発破をかけた。


「頑張るよ俺!!」

「わ、私も力になりたい!」

「必ずやってやるわ!私は出来る!」

「僕も領民のために頑張る!」


子供達のその言葉に胸が詰まる一同。

いつの間にかこんなにも子供達は成長していたという驚きと感動。

たった半日ですっかり貴族の顔になったと目を細める。


「頑張ったら、そうだなぁ・・・お泊りする時カールが銀貨3枚を給料としてくれるよ。駄目だったら1枚な」

「絶対頑張る。すっごい頑張る」

「自分で稼いだお金で何か食べたりお土産買ったりするのは楽しいぞ?」


やんややんやと子供達が興奮しながら騒いでいるのを見届け、「じゃあそういうことでよろしくな」とドモンが玄関へと向かった。



それを見るなりダダダダと侍女達が一斉に動き出す。

そしてエントランスと玄関の外にまで左右に分かれて列をなした。

騎士やコック達、そして貴族達もやってくる。もちろん子供達も。


半日前にドモンがやってきた時とは打って変わり、侍女達が頭を下げている。軽蔑の眼差しは尊敬の眼差しへと変わっていた。

そのまま黙って帰れば良いものを、玄関を出るなりまたタバコに火をつけ、振り向きもせず左手を上げて「じゃーねー」とドモンは去っていく。その後ろをナナが誇らしげについていき、玄関を出て自分の馬を受け取りに行った。



「カルロスよ・・・奴は何者なのだろうな」とドモン達を見送りながら叔父貴族が囁く。

「わからぬ。異世界人ではあるが、それを超越した異質な存在であろう。敵を作るような行動をしておるのに、気がつけば皆魅了されておるのだ」とカールが答えた。


「あの調子なら王どころか魔王にまで喧嘩を売って、半日後には肩を組んで酒でも飲んでるような気がするな」とグラが笑う。

もちろん冗談ではあるが、それを否定する者はいなかった。



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