第560話

午前1時。この日の早朝出発のため、早めに休みたいところ。

しかしドモン達が部屋に戻ると、サンとシンシアがキャッキャとベッドで絡み合っていた。


「ではシンシア様いきますよ~それコチョコチョコチョ・・・」

「オホホホアハハハ!苦しいもう駄目!ヤメてサン!もう許してちょうだい!」

「御主人様のはこんなものではないですよ?宜しいのですか?」

「ハァハァ・・・では今度はその時のように縛ってちょうだい。次こそは耐えてみせますわ」


「何やってんだ?お前らは。ほれコチョチョチョチョチョ・・・」

「おひょ?!ひぃばぁいひぃぃぃ!!アバ死ぬごひょぽぅぴひぃ~!!」


くすぐりごっこをしていたシンシアの真後ろに突然現れ、鋭い爪を脇腹に突き刺してくすぐるドモン。

ただでさえ縛られている状態だというのに、突き刺さった爪により逃げることも許されず、シンシアは大悶絶の末に失神した。

それを目の前で見た、くすぐられてもいないサンが何故かおもらし。


サンがシーツの交換をしている内に、ようやくシンシアも目覚めた。


「なにやってたのよアンタ達。そうそう!そんなことより聞いてよふたりとも!ドモンったら酷いのよ。裸の女の子の体に食べ物を乗せてみんなで食べる『女体盛り』なんてものの話をしていたのよ?!信じられないでしょ!」

「え?あ・・はい・・・」「・・・えぇそうですわね」

「なによふたりとも。驚かないの?」


そろ~りそろ~り逃げ出そうとしたドモンの首根っこを捕まえ、「どこに行く気?ここにいなさい」とナナが釘を刺す。

ジトッとした目でドモンを睨んだあと、その視線はサンとシンシアにも向けられた。こうなればもう逃げられないし誤魔化せない。


「奥様そのその・・・ええと」「ナナは知らなかったのですわね」

「なにがよ」

「御主人様がどうしてもとおっしゃいまして、そのぅ~」「前にサンの体にクリームと果物を乗せて、皆さんで頂いたことがありましてよ?エステティックサロンのお店で」

「な、なんですって?!」


なんとか言い訳を考えていたサンであったが、シンシアが潔くペラペラと白状。

ナナの顔は見る見るうちに般若の顔に。


ドモンがエステの裏メニューにどうかと、サンを実験台にして女体盛りを行っていたのだ。

ドモン以外は皆女性だったのが、サンにとってギリギリの救い。


「詳しい話を聞こうじゃないのよ」

「サンの体が一番盛り付けやすいからと連れてこられて、十人がかりで盛り付けたのですわ。でもサンったら、冷たい果物でお腹を冷やしてしまってクスクス」「あぁおやめくださいシンシア様・・・」

「ま、まさかみんなの前でオナラやうんちを?!」

「おしっこですぅ!!あ・・・うぅぅ」


ナナのせいで自ら余計なことを言ってしまい、火がつくほど顔を赤くしたサン。


「ナナ、いくらなんでもお下品ですわよ?で、皆さんで食べて終わりですわ。確かにクリームの油分と果物の成分で、肌に艶が出たけのだれども、サンはその時にもクスクス」

「今度こそまさか本当に?!」

「おしっこですからっ!だってみんなでいっぺんにペロペロしたから・・・うぅぅ」サンは両手で顔を隠してイヤイヤしながら涙。

「それで女体盛りはあまりに刺激が強すぎると一旦お蔵入りですわ。効果は間違いなくあるのですけど」

「ふぅん」


生クリームが肌に良いというのは、実は本当のことである。

ケーキ作りなどで余った生クリームをそのままパックに使うと、肌のザラつきや黒ずみも消え、ツルツルでぷるんぷるんの滑らかな肌になる。カットした果物を肌に貼り付けるパックも同様であり、こちらは有名だろう。


ただ無駄に美味しく食べようと、クリームも果物も冷やしすぎたために、このような悲劇が生まれてしまった。

ドモンが「手を使わずに口だけで食べるのがマナーだ」なんて言い出したのも悪い。


「で、シンシアはやってないの?」

「ワタクシも行いましたわよ。部屋でサンとドモン様の三人で」

「ぐぬぬ・・・どうして私だけ除け者にしたのよ!!」

「だーから!ナナは体にメリハリありすぎて、果物が乗っからないだろうが・・・てか、どうして自分もやりたがってんだよ。文句言ってたくせに」最近はドモンも様になってきた、外国人風のヤレヤレのポーズ。

「うるさいっ!」


先程は冗談で言っていたけれど、結局本当にナナも挑戦。

しかし丸みと弾力まみれの究極ボディーでは、やはり果物は安定せず、あちこちにポロポロと落ちるだけ。

最終的に何の腹いせか、ドモンが『男体盛り』の土台にされ、ツヤツヤぷるぷるボディーを手に入れた。



翌日早朝、再会を約束し別れの挨拶。ドモン達はカルロス領へと向けて出発した。

途中ギド達の街があるが、ギドはまだ入れ歯の開発などを行っていて不在なため、そのまま一気にカルロス領へと向かう予定。

実に半年ぶりの帰郷である。


「半日でギド達のとこへ着くなら、運転を交代して丸一日進めば到着するか」車の中で軽食を作るドモン。

「行きは大人数で、しかも馬車移動だったから遅かったけど、この自動車ならきっとそのぐらいで着くわよ。んぐ」ナナは横からつまみ食い。


「それにしても・・・あちらこちらに家や畑が随分あるような気がします。こんなだったでしょうか??」運転するシンシアの横で、キョロキョロと辺りを見回すサン。

「地図によれば、殆どが森や草原だったようですけれど、どうも様子がおかしいですわ。まるで街と街の間もずっと街のよう」お姫様が大型車を運転する様子は、いつ見ても違和感しかない。


「おかしいわね」「どうなってんだよこりゃ」


冒険者として何度もこの道を通ったナナも、この異変に目を丸くする。

窓から見えた風景に、ドモンも当然首を傾げるばかり。


行きは左手側がほとんど森林で、右手側は湿地帯のような広々とした草原。

一見草原でいつでも休めそうな雰囲気に見えるが、湧き水により常にぬかるんでいる状態で、休憩や寝泊まりするには不向きだった。


北海道の人っ子ひとりいない自然の中のような道だったのが、人の手の入ったちょっとした田舎くらいになっていたのだ。


「あれはまさか・・・田んぼか??もしかして米のための・・・」

「恐らくそうですわ。ワタクシ、以前米が穫れる国へ外遊を行った際、同じようなものを見た記憶がありますもの」

「あの山の麓の森だった場所も街になってるみたいです!」


たった半年のうちに様変わりした風景。

人が続々とカルロス領に集まっているとは聞いていたが、ドモン達が想像していたものより、ずっと大きな変化が起こっていたのだった。


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