第561話

「あんなところに店まであるぞ」


ギド達の街を通過する頃になると、隣の家まで徒歩で行けるくらいの間隔で家が立ち並んでいた。

これだけ人が住んでいれば、商売を始める人も現れる。当然ちょっとした宿もあるし、野営も出来る道の駅もある。


確かにこれでは先程までいた宿は流行らないであろう。

街の郊外辺りにある民宿のようなもの。せめてもっと都会か、もっと田舎であれば状況も違ってくるだろうけれども、現在の状況では全てが半端過ぎる。


「ねえ・・・まさかこのまま私達の街まで、ず~っと家が繋がってるっていうの?というよりここはどこなの??道、間違ってない?!ングッ」ドモンが作ったおにぎりをまた食べているナナ。先程のつまみ食いは、すっかりなかったことになっている。

「間違ってはないはずだけど・・・もしかして俺らの街まで、どんどん家が増えていくんじゃないだろうな?」今はドモンが運転中。

「まさかそんな事は・・・」サンも信じられない様子。

「地図を見ました限り、決して間違ってはいませんわ。この山がここですし、そうするとこの辺りは左右に森林だと、この地図には描かれておりますけれども・・・」もしや王都に戻っているのではないかと不安になり、必死に地図を確認するシンシア。事情が全くわからないアイだけは呑気にシャワー中。


人口一万人の小さな街を出て、田舎道をひた走って隣街へ、そして王都へと向かった行きの道中。

それが頭にあったため、ドモン達が別の街へ向かっているのではないかと勘違いするのも無理はない。

それほど様子が様変わりしていた。


実は現在カルロス領の人口は20万人を突破し、まだ爆発的に増えている最中であった。


いくつもの温泉宿、様々な娯楽がある歓楽街、新たな食べ物、革新的な技術、専門学校や給料が貰える職業訓練学校。

それらの建設に携わる人らが集まり、それら相手に商売をする者も集まった。


健康保険の導入や発達した医療システム、救急車の導入。

ドモンが集団暴行に遭ったことにより生まれた交番システム。

領主に意見を伝えることが出来るアンケートの実施も画期的であり、そして何より、各国首脳によるサミットが行われた事が決め手であった。


当然それは全て、ドモンが引き金となり引き起こしたことだ。



「あ、あれか?あれが俺らの街なのか?」

「そうよ。それ以外ないもの」


日付が変わったあとの深夜、ドモン達は自分達の街へと到着。

そこには王都にあったような大きな門がいつの間にか出来ていた。


そしてここでも王都と同じように、下手をすればそれ以上の、門から数百メートルの大渋滞。

深夜は治安維持のため門を閉じているからだ。先日の野盗のこともあって、より厳重になっていた。


「サン、ちょっと運転代わってくれ。抜け駆けするわけじゃないけど、なんとか今日は夜も門を開けてくれないか頼んでくるわ」

「はい!」

「私も行く!」


アイとシンシアは車内のベッドで就寝中。

ドモンとナナは車を降りて、列の横をすり抜けるように進み、列の先頭の門番達の元へ。


「下がれ下がれ!何者だお前達は!通行審査は明日の朝9時からだ。今は門に近づくこともならんぞ」

「あら、またこういう感じか」


人口が増えたために急遽雇われた新人の憲兵である門番達は、ドモンやナナの顔を知らなかった。

とにかく今は野盗をどうにかしなければと必死な様子。

騎士達からもきっとそう強く言われていたのだろう。


「ここは私に任せてよドモン。なにせ私の生まれ育った故郷だしね」とナナは自信有りげ。

「おい!これ以上近づくなと言ってるだろう!」と叫ぶひとりの門番。


「ねえ聞いてちょうだい。私はヨハンって人がやってるお店の娘なのよ。それに領主のカールさん、じゃなかった、カルロスさんとも知り合いなの。まあそれよりもほら、わかるでしょ私の体を見て。ホレホレ、こーんな体をした人が来たら通せって聞いてない?」

「間違いない」「盗賊だな」

「キィィィ!なによあのバカ領主!私達のことぐらい伝えときなさいよ!!」


なぜか『顔パス』ならぬ『乳パス』を狙ったナナであったが、当然ながらまるで通用せず。

ただでさえあの盗賊騒ぎでピリピリとした状況だったのが、ナナのせいもあって更に悪化。


ナナが門番の肩を軽く突き飛ばしたせいもあり、武器を持ち集まる他の憲兵達。

顔見知りの騎士でも呼んでもらえれば、とりあえずはなんとかなるだろうと高をくくっていたドモンも、これには困惑した表情。

いくらこの街では不敬罪が無くなったとはいえ、これだけ挑発的な態度を取れば、元の世界でも公務執行妨害で危ういことになりかねない。


しかし数百人単位の盗賊が集まっているという情報が入っているのだから、門番達の態度も実は正しいこと。

デモ隊との衝突なんてレベルの話ではない、数百人の武装した集団が相手かもしれないのだから、細心の注意は払わなければならない。

そこへ色仕掛けで突破しようとした女が現れれば、怪しくも思えるだろう。


「剣を抜け!引っ捕らえるぞ!抵抗の意思が見えたなら、即座に斬り捨てろ!」「おう!」「うむ!」

「ちょちょちょちょっと待ってよ!何考えてんのよあんた達!」「待ってくれ待ってくれ!ナナも待て!」憲兵達の態度に焦るふたり。


「謝るなら今のうちだ。そこに土下座をして、悪かった許してくださいと願うなら見逃してやってもいいがな」「貴様らには出来まい」

「どうして私達がそんなことしなきゃなんないのよ!家に帰りたいだけなのに!」「だからナナ待てって!」


憲兵に剣を抜かれ、思わず条件反射で剣を抜き返したナナ。

危険を感じればすぐに剣を抜くという、冒険者としての癖が出た。


ドモンはKO寸前のボクシングの試合のレフェリーのように、両者の間にバンザイするようなポーズで割り込み、喧嘩を止めながら辺りを見回して、知り合いや騎士、あとはそれこそカールを含む貴族達の姿を探した。

もう自分達の力だけでは止められないし、こういった時は大抵誰かが都合よく現れるもんだと願って。


だがドモンが誰かを見つける前に、憲兵のひとりの突き出した剣がドモンの脇腹を裂き、怒りに我を忘れたナナが剣を振り回して、完全に戦闘モードへ突入。

周囲で見ていた人も、これはもう駄目かと思った瞬間、「待ってくれ!俺達が悪かった!許してくれ!」とドモンが額を擦り切れるほどの土下座をし、なんとか見逃してもらうことに成功した。盗賊はそんなことなどまずしないからだ。それを見極めるための土下座の強要でもある。


ナナは泣きながらドモンの肩を支え、そしてドモンは切られた脇腹を片手で押さえながら、その場を去った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る