第628話
「まずはエルフの森を目指せば良いのですわね?ドモン様」結局運転はシンシア。
「うん。なんとなくだけど、エルフの婆さん達に書いてもらった地図があるから、まずはそこを目指そう」ドモンは助手席で地図を確認。
自分のせいでまともに挨拶も出来ず旅立つことになってしまい、わんわんと泣いてしまったサンは、後部座席に座るナナの膝の上で今はぐっすり。
サンを抱っこしているナナも寝不足だったため、今は一緒に寝息を立てていた。
「おっかしいなぁ。その森を進んだって、あの山の周りをぐるっと廻るだけで、何にもありはしないはずなんだけどな」とアーサー。
「気がついた時には元の場所まで戻っている、言わば『迷いの森』じゃからな。本当にこのまま向かって良いものなのか・・・」大魔法使いも訝しげな顔。
王都までの道からオーガが住んでいた山を迂回し、更にその向こうの山の麓。
手前には大きな湖があり、先には草原があって、その草原の向こうにあるのが迷いの森と呼ばれる森。
ドモン達の車はその湖の方に向かって、道と呼ぶにはあまりにも険しい道をゆっくりと走っていた。
「こう暗くなると、いくら照明があるとはいえ危険ね」とソフィア。
「夜が明けるまで休んだ方がいいね。今日はここまでにしよう。今結界を張るよ」
アーサーの結界魔法は、世界でも五本指に入るほど高度なもの。
獣どころか虫すら寄せ付けず、風もせき止め、気温すらコントロールが可能。
「お腹も空いたしお風呂にも入りたいわ。もう疲れちゃった」ぐったりした顔のナナ。
「お前はずっとパン食ってたし、車の中のシャワーも浴びてただろ。それにどんだけ食い物買ってきたんだよ。どうしたその金は」
「そりゃおじさんと口づ・・・なんか抱き合ってたら、おじさんから金貨貰ったのよ!あ、しまった!シンシアから言うなって言われてたの忘れてた!」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」
「違うの!下着を着けないで胸を押し付けてたせいで発情してしまって、自分から口づけして舌を入れたわけじゃないのよ!みんなが勝手に口づけしてきたのよ信じて!あ!!みんなって三人だけよ、舌を絡ませたのは!それで金貨をたくさん貰って・・・」
相談相手のシンシアには、絶対にドモンには言うなと言われていたが、結局言わなくても良い事を全て白状してしまい、全員に白い目で見られたナナ。
シンシアは額に手を当て、とてつもなく大きなため息を一度吐いた。
「だってドモンが悪いんじゃない。先にドモンがよその人に手を出したから、私もついカッとなって」
「そりゃ俺も悪かったけど、お前は自分を安売りすんな。もちろん高けりゃいいってわけでもないぞ?」
「ごめんなさい・・・ホントはドモンよりもおっきなアレに興味があって、もし抱かれたらと思ったら・・・え?ヤダちょっと・・・あぁん!いたぁい!!ハァン!」
森の中の草原にこだまするナナの叫び声。
心なしか随分と嬉しそうで、叩かれているお尻も自分から突き出しているように見える。
「ぉおん!来てっ!壊してぇ!」叩かれる度に叫ぶナナ。
「この!躾けられてるってのにだらしない顔しやがって!」
「もっとよ!こうしてもっと激しくしてちょうだい!罵倒しながら!」
ナナは自分のお尻を自ら強く叩き、恍惚とした表情を見せた。
話す言葉は一緒でも、やはり中身は気性の激しい外国人である。
それはサンやシンシア、ミレイも同じで、ヨロヨロとした足取りでドモンに近づいて、ナナと同じポーズをした。
「ソフィア!見てはいけないよ。向こうへ行くんだ」とアーサーがソフィアに目隠し。
「アーサー・・・もう遅いわ。今夜期待してるわね・・・」
ドモン達が正気に戻るまでの間、アーサーとソフィアは食事の支度。
大魔法使いは、ドモン借りた修理済みのビニールプールに魔法でお湯を入れて風呂の準備。
「まったく旅の初日から先が思いやられるよ。やっぱりドモンさんは悪魔なんだね」
「チッ!スケベ勇者のくせに・・・でもまあひどい言われようだけど、反論は出来ないな・・・」
「しかしまあ呆れるわい・・・ほんの少しだけ、憧れるところもなくはないがのぅ。ワシもミレイの尻を引っ叩いて、ヒィヒィと泣かせてみたいもんじゃ」
ラム肉の串焼きを焼く焚き火を囲み、男三人が語り合う。
他に誰もいないので、遠慮と隠し事はなしの本音トーク。
もちろん女性陣の誰かがここにいたならば多少は控えるけれど、ソフィアは向こうで失神している他の女性陣の面倒を見ていた。
「もうすぐみんな戻ってくると思うわ。まさか全員の下着を替えることになるなんて。食事を終えたら女性達から先にお風呂へ入れてあげてね。拭き取ってはいるけど、随分汚してしまったから」ジロッとドモンを睨んだソフィアの目は冷たい。
「はい、それはもうご自由に・・・あの風呂なら大きいから、全員で一緒に入ること出来ると思うよ」とドモン。
「遠慮させていただくわ。そんな事をすれば誰かさんが確実に覗くでしょうから、私はあなたを見張っていなければならないの」
「途中までは誰かさんって言ってたのに」
アーサーと大魔法使いの笑い声が森の中に響く。
エルフの森の後は魔王の城に向かうというのに、気分は宿泊学習の夜。
そうなれば当然待っているのは『怪談話』である。
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