第627話

「ほらドモン起きて。今日勇者パーティーと一緒に旅立つのよ?お昼までにお家に帰らないと」

「もう少し寝かせてよ・・・今さっき寝付いたとこなのに」

「私だって寝てないじゃない。ほーら起きて起きて。起きないとこうして・・・ふふ~ん♪」

「わかったから!起きるから!もうくっついてくるな!」


最後に大浴場で朝風呂に入って帰宅準備。

例のキノコの効果の残りで中途半端に元気な状態だったけれど、もう隠す気力も完全に無くなりすべて丸出し。

サウナの中に入ってきた数名の男性は、ドモンの元気なソレを見て、大慌てでサウナを飛び出した。


反対に大慌てで飛び込んできたガタイのいい男と、華奢な色白の男がドモンの隣にくっつくように座ったが、追い払う元気もない。


「遅かったわねドモン。さっぱりした?なんかアーサーさんが私達専用の送迎車を手配してくれてるみたいだから、いつでも出発できるわよ」

「ああ・・・いやちょっと変な奴らのせいで、危うく新たな扉を開きそうになったんだけど、なんとか無事だったよ」

「???」

「なんでもない。さあ行こうか」


天才ギドが三日に一度見ている夢のようなことが起こりそうになったが、ドモンはなんとか回避。

従業員と芸人達に別れを告げ、ドモン達は帰宅の途についた。



「たーだいまー」

「おかえりナナ。楽しかったかい?あらドモンさん、また一段とやつれちゃってウフフ」察しの良いエリー。

「温泉旅行なんて女はツヤツヤになるけど、男はみんなこんなもんだよ・・・」

「三人も娶るからよぅ。まあヨハンは私ひとりで干し肉みたいになっちゃうでしょうけどね!ウフフフ!」「おいエリーってば・・・」

「もうやだお母さんったら」


ヤレヤレのポーズをしたナナだったけれど、「ほらやっぱり親子でしょ」とドモンに向かってニヤリ。

それを見てドモンもヤレヤレのポーズをしたが、少しだけ安心。


「サンとシンシアはどこ行ったんだ?」

「勇者パーティーのみんなと自動車の運転の練習するって、店の裏の方に行ったわよ。何かあった時のために今のうちに練習しとくって」

「あらそう、じゃあちょっと様子見に行ってくるよ。一時間後には出発するから、ナナは旅の準備しておいて」

「ええ」「はーい」


ドモンが店の裏まで見に行くと、少し開けた場所で急発進と急ブレーキを繰り返している車が見えた。

周囲には勇者見たさでたくさんの見物客がいたが、危険を感じたのか、人の輪はかなり大きめになっている。


「きゃあああああああ!!」響き渡る賢者ソフィアの叫び声。

「あなたはなぜ加減が出来ないのです?!進むのも止まるのももっと丁寧に!」シンシアが珍しく大声を上げていた。

「横からゴチャゴチャうるさいな!もう少し黙っていて!!うおおおお!!!」更に大きな声を出しているアーサー。

「え?」「あ」


そしてドモンは車に轢かれた。人生で15、6回目だろうか?

幸いそれほどスピードが出ていなかったのと、車に轢かれ慣れているため、かすり傷程度で済んだ。


ぶつかりそうなところに力を込めて、思いっきり吹っ飛びつつ、頭を守るのが車に轢かれる時のコツ。

絶対に一生役立てたくないテクニックである。


サンは泣きながら慌てて車から飛び出し、シンシアとソフィアとミレイはアーサーに対して大激怒。


「うわぁぁん御主人様!今すぐ薬草を塗りますから!」

「サン、大丈夫だから。あのちょっとズボン脱がさないで。みんな見てる・・・そこに薬草はいらないよ。あ・・・」

「うぅ・・・ここは元気ですぅ」

「終わりだもう。早く旅に出よう」


心配そうな目で見ていた周囲の人々の視線が、一気に軽蔑の眼差しへと変化。

ズボンとパンツを上げつつも、まだ何かを丸出しのまま慌てて車の中に飛び込み、ソフィアに死ぬほど叫ばれた。

シンシアとミレイが笑ってくれたのだけが救い。


こうしてこの世界にも、自動車教習所と運転免許証というものが生まれることになった。

アーサーはもちろん不合格になるだろう。


ドモンが車に轢かれて色んな意味で元気だった事件の噂は、目撃者が多かったこともありあっという間に広まり、ヨハンとエリーに出発の挨拶もきちんと出来ないまま、すぐに旅へと出発することになってしまった。


「ウフフ、ドモンさんらしいわねぇ」車の窓越しに手を振るドモンに手を振り返したエリー。

「仕方のない年上の息子だよハハハ」ヨハンはナナに向かって手を振った。


誰一人、これが長い旅になるとも知らずに・・・。



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