第626話
「どうしたの?変な顔しちゃって」
「ん?いやぁ・・・また夢が叶ったなぁって」
「なら良かったじゃないの」
「うん・・・」
部屋でぼんやりとするドモン。
以前から感じていた『思い通りになる事とならない事』の差は何なのか?
理想は平穏無事にただ何もなく暮らすこと。だがそれは叶わなかった。
「それよりもう一度岩盤浴に行きましょうよ。今度こそきちんと入らないと」
「ハハハ。ナナはヤケドして裸見せただけだもんな」
「そうなのよ。折角の新婚旅行だし、楽しい思い出残したいもん」
「新婚旅行はサンとシンシアだけのような気がするけど・・・」
普通のガウンを着たナナだったが、今度のガウンはドモンが借りた物と違って一般の女性サイズ。
ナナには当然小さく、エプロンと同じように色々とギリギリ。
「まあ別にこれでいいわよ。さっきのエプロンに比べれば十分隠れてるし」
「そりゃそうだろうけど・・・しかしまあホントすごい体だ」
「へっへー。この若さと美貌でドモンもイチコロだったもんね」
「まあね・・・」
岩盤浴に向かう前にそんな会話をしていたが、ふとケーコとの会話をドモンは思い出した。
「フン!勝手にどこでも行きなさいな!私と違って若くて胸の大きなキレイな娘がいいんでしょ?!」
「おぉそうだ!テメーみたいなバカで生意気な貧乳なんてもう知るかよ!同じ貧乳なら、可愛くて従順なメイドさんがいいわ!」
「そんなもの、この世界のどこにいるっての!あとはあんたが入院中読んでた小説の悪役令嬢?それともお姫様?!現実見なさいよバーカ!」
「別にそんなこと言ってないだろ!俺はケーコにそうなって欲しくて・・・おいやめろ!ドアを開けてくれ!せめて靴とスマホと財布!!」
大きな胸の女の子がいるパブやメイドカフェ、そしてスケベな大人の店などに行っていたことがバレて大喧嘩。そして家を追い出されたのだ。
ケーコから借りたお金で遊び回ったのだから、当然といえば当然の報い。
かなり昔のことな上、ドモンとしては消し去りたい記憶だったためすっかり忘れていたが、ナナとの会話で記憶が蘇った。
「あ、あれ??」
「どうしたのよさっきから」
「ナナって本物だよな?」
「偽者だと思う?胸触らせてあげようか?ウフフ」
ドモンの願望。そして欲望。
若い巨乳の女の子と付き合いたかった。
可愛くて従順なメイドを手に入れ、悪役令嬢である生意気なお姫様を自分好みに調教したかった。
ゲームの中に登場し、飛空艇の製造までしてしまう天才技術者や、自信家で少しヘタレな吟遊詩人にも会ってみたかった。
天才絵師である北斎とその娘とも話をしてみたかったし、歌姫と呼ばれる女性のコンサートにも行きたかった。
一番興味のある中世ヨーロッパを感じてみたかったし、西部劇に出てくるような家で暮らしたかった。
みんなにチヤホヤされ、我慢すること無く、スケベ三昧な日々を過ごしながら・・・。
「願望の塊じゃねぇか。ガキみたいな歪んだ無双願望・・・しっかりと俺も・・・」
「???」
この日ドモンは、この世界がドモンの願望を元に作られていることを知った。
恐らくその秘密を知るであろう魔王の元へ、早急に向かわなければならない。
「そういや閻魔さんにも会ってみたいと思ってたんだった」
「もうどうしたのよ本当に・・・元気出してよ」
「なんでもないよ。さあ今度は一番熱い部屋に入ってみようか」
「・・・なんだか結局脱いじゃいそうだわ、この服」
気持ち的には、全てが盛大なドッキリだと知った気分。
どこかの山奥に作られたセットの中に、ドモンが理想とするキャストを用意され、都合よく願望が叶えられていく。
その中でドモンが活躍し、その世界が変わっていく様子をテレビで見るように、俯瞰で見て楽しんでいるのだろう・・・と。
最後は落とし穴に落とされ、「そんなことあるわけ無いと思ったよー!やっぱりなぁ!」と嘆くことになるんじゃないかとドモンは思った。ドッキリの看板とテッテレー待ったなし。
「あっちー!あっつぅ~!もうすごい汗~」岩盤に寝るなり、熱さに喚くナナ。
「うるさいなぁ、他にも人がいるんだから静かにしとけ」
「ねぇドモン知ってる?お父さんとお母さん、私と違ってサウナの熱いの全然平気なんだって。実は本当の親子じゃないのかもしれないよ?全然似てないもん」
「え?!や、やっぱりお前・・・仕掛け人か?」
「ちょっときちんとツッコんでよ!せっかくボケってやつをやってみたのに。どう見たってそっくりでしょ、この一部分。ふたつあるけど。というか仕掛け人って何よ?」
「そう・・だよなハハハ。下着もしちゃいないってのに、寝転がっても垂れやしないこんなデカいオッパイなんて、ナナとエリーくらいなもんだもんな。どれどれ」
「ちょ、ちょっと!勝手に脱がさないでよ!私これ着るの大変なんだから!」
ドモンは正直半分『もうどうにでもなれ』の気分。
残りの半分は、もし仕掛け人などの類であれば、こんな無茶なことをすれば逃げ帰るであろうと考えて。
ナナは寝転がったまま必死にガウンを直そうとするも、胸の片方を隠せばもう片方が、もしくは両方が、なんとか両方を隠したと思ったら下の方がと悪戦苦闘。
一度起き上がればまだ簡単なのだが、慌てているためそこまで頭が回らなかった。
「姉さんどうしたんですか?!」「すごいっすね姉さんはやっぱり・・・」「もう俺まともに立って歩けない。いや立ってると言えば立ってんですが」「バカヤローかお前は!」
「あんた達なに見てんのよ!早く直すの手伝って!せめて食べすぎちゃったお腹を・・・アチチチ!お尻あっつぅ!!」
「え?いいんですかい?!」「ああ姉さんの尻が猿みたいになってしまう」「ブフッお腹?!こんな目立つもんほっといて」
「師匠すみません!姉さんの着衣を直させていただきます!って、師匠もはだけちまってますよ」と師匠格の男。
「ぐー」
「フフ、大事なとこだけ丸出しで寝ちまってる。寝てても笑わせてくるんだからさすがは師匠ってとこだ」
ドモンに質問があって、探しにやってきた数名の芸人達。
ふたりのあられもない姿を芸人達が面白おかしく囃し立てるものだから、岩盤浴の部屋の中はすっかり爆笑の嵐。
「兄さん、裸ってのはやりようによっちゃ、こんなにも面白くなるんですねぇ」「確かに」
「本来は破廉恥なことも、体型や見せ方、言い訳でのボケ方、そして師匠の言っていたイジりってやつで笑いに変わる。こいつはかなり奥が深そうだ」
こうしてこの世界に『裸芸』も生まれることになった。
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