第557話
自分を殺しに来た盗賊とはいえ、大勢の人々を殺してしまったドモン。
そしてそれを何らかの力で隠蔽したことも把握した。
なぜ自分があんな言葉を口走ったのか?それが全くわからない。
恐らく例の悪魔の仕業なのだろうと想像はついていたが、徐々にそれを抑えつけられなくなっていることにドモンは焦った。
確かにサン、そしてドモン自身も救われたが、いよいよ自分の意思を遥かに超えた現象を起こしてしまったからだ。
ゴブリンの長老とサンを目覚めない眠りにつかせたと知った時も危機を感じたが、今回のことはそれ以上。
いよいよ『良い悪魔』とは言えなくなってしまったように思える。
「おぉ、なんとか風呂の方は無事みたいだな。それなら飯の前にさっぱりしておこうか?サンは派手に汚しちゃったし。俺がごーしごしキレイに洗ってやるよ。かえって汚しちゃうかもしれないけどな!イヒヒヒ」
「ごめんなさい御主人様・・・」
まだ落ち込んでいる様子のサン。
ドモンのスケベな冗談への反応も薄い。
「それなら私も入るわ。見てよこれ。下着どころか、スカートのお尻のとこまで漏らしちゃったのよ」恥ずかしげもなく、濡れたお尻をサンに向けたナナ。
「オーホホホ!ワタクシは前!お父様に言われておりましたから。何事も前向きにと」シンシアは何故かドレスの前の方が濡れていた。
「何なのよあなた達、全員汚してるんじゃない!だらしないわね!」とアイ。
「あれ?僕知ってるよ?お姉ちゃんも漏らしていたの」ベッドの上から降り注いだしずくを見ていた姉弟の弟。
「だ、誰も漏らしてないとは言ってないじゃない。でも私は汚してないから・・・」
「そういえば私がアイさん呼びに行った時、お尻丸出しだったわね。それなら確かに服も下着も汚しようがないわプクク」
サンは泣けてきた。
やろうと思えば、皆こっそり着替えることも出来たはず。
みんながサンを庇い、励まそうとしてくれていることが分かり、サンは笑顔で涙を拭った。
その後入ったお風呂で、サンはドモンに例のキノコを食べさせられた挙げ句、これまでなかったくらい執拗に・・・丁寧に身体を洗われ、涙を流しながら17回ほど気絶することに。
アイの件もあって、しばらくは愛し合うことが出来ないと思っていた矢先にこんな事になり、サンの心のリミッターは解除された。ドモンさえ側にいてくれるなら、もう他はどうでもいい。
「では私はお洗濯をしてまいりますから、御主人様はお料理の方をお願いしますね?」太陽くらいツヤツヤなサンがニッコリ。
「えー、サンに手伝ってもらいたかったなぁ」
「も、もうドモンさんったら・・・ワガママはメッ!ですよ?急にそんなこと言うから、お洗濯物がひとつ増えてしまったじゃないですかぁフゥフゥ」
「な、なにを汚しちゃったんだ?言ってごらん?ハァハァ」
「秘密ですっ!キャッ!」
満面の笑みでパタパタと去っていったサンの後ろ姿を見て、うっかりナニかが元気になりかけたドモンであったが、鬼の形相のナナを見たおかげでどうにか治まった。
「あんな事があったってのに随分元気そうね。たった今私の顔見て元気がなくなったみたいだけど」
「へ、変なとこ見るなよ。よく分かるな、そんなの」
「わかるわよ~。あんたが他の女見て元気にしてるのもぜ~んぶ」
「怖い怖い怖い!」
玉ねぎを切りながら、そそくさとナナに背を向けたドモン。
「慰めるためだとはいえ、サンがあそこまで乱れるのも初めて見ましたわ。失神することはよくありますが、あんなとんでもない言葉を口走ってしまったり、ドモン様にあんなものを飲ませてしまうだなんて」
「おい!やめろやめろシンシア!サンのはきれいなんだよ・・・・多分」
以前から塩漬けしてあった豚肉、つまりベーコンもどきをカットしながら、ドモンはシンシアに反論。
それを聞き、ギョッとした顔をするオーナー一家と店長。オーナーの奥さんが、慌てて子供達を何処かへやった。
「ワタクシも今夜サンのように、ご寵愛いただけますのを楽しみにしておりますわ!」「私もー」
「ナナは昨日散々してたじゃない!私だってさっきからなんかもう生殺しみたいになって、ずっとムズムズしてるんだから!独り身で寂しいし、それにもう子供達もいないから気兼ねする必要ないし・・・」少しだけ吹っ切れた顔をしたアイ。
「アイちゃん・・・子供達に関してはまだちょっとわからないというか・・・いや駄目だ駄目だ!馬鹿なこと言うな!」
「???」
アイの言葉と態度で、子供達の呪縛が解けたことを知るドモン。
もう子供達のことも言ってしまって、その上で抱いてしまってもいいかと考えたが、寸前でなんとか我慢。
まだギリギリ残っていた理性を振り絞った。
「何かあったのですか?」
「い、いやなんでもないよサン。とりあえずサンは、牛乳とチーズと貰った乾燥パスタ用意してくれる?」
「はい!・・・その代わり今夜もご褒美いただけますか?ウフフ」
「ハハハ、さっきの倍くれてやるよ」
サンが洗濯から戻るなり、またイチャイチャし始めた二人。
吊り橋効果か、極限の状態から全てを曝け出すように愛し合ったことで、ふたりの距離が一気に縮まった。
「洗濯でこんなに汗をかいちゃって。折角体を洗ったのにもう汗臭くなってるんじゃないか?クンクンクン・・・」
「アハ!そんなところを嗅いじゃ駄目です御主人様。今お手洗いしてきたばかりなんですから。もう仕返しにサンも首のニオイ嗅いじゃいます!スンスンスン・・・」
「ほんっとうに元気そうじゃないドモン。ギルドであんたの今のステータス見てみたいもんだわね!」
ドモンとサンの様子を見て、バーンとキッチンの台を叩いたナナ。
ビクンと驚き、そそくさと離れるふたり。
離れ際にドモンの鼻くそを当たり前のような顔をしながらほじり、「はい、いいですよ」とニッコリ笑うサンに、ナナはまた額に青筋を立てた。
「ステータスならうちでも見られるよ。ほら俺達、ギルドなんかには行けない身だったから、持っているんだよ」
「昔に盗んだやつだから、少し古いけどね。使えると思うわよ」
「シッ!バカ・・・」「あ」
厨房が微妙な雰囲気になりはじめ、気を使ったはずのオーナーだったが、奥さんの自白によりまたなんとも言えない空気が流れた。
ドモンらだけならいざ知らず、ここにも向こうにも、壊れた宿の片付けをしている騎士が大勢いるのだ。
「まあ今はもう時効だろう。とにかくそれ持ってきてもらえる?」
「あ、ああそうだね。ちょいと待っててよ」
これ以上問題を増やすのも嫌なので、ドモンも今回ばかりは知らん顔。
サンが持ってきた乾燥パスタを茹でていると、オーナーの奥さんが小さな木箱を持って戻り、ドモンの前のテーブルに大事そうに置いた。
置かれた水晶は確かに古臭く、そしてギルドでドモンが見たものよりもふた周りほど小さめ。
わかるステータスもやや簡略化されているとのことだった。
「ほら早く手をかざしてみて」とナナ。
「うん。こりゃきちんと手を離してかざしても、何もかも小さくて文字が見づらいな」
「どれ私が読んだげる。ええとレベルは50でHPは・・・46だって!やっぱり増えてるわね!」
「自分で見るからいいよ!どうせMPがないだのなんだのナナ笑うだろ!」
慌てて水晶を手で隠したドモン。
寿命の秘密のことをすっかり忘れていた。
しかし体の調子は確かに良く、ドモンは上機嫌で水晶を自ら覗き込んだ。
両手で水晶を覆うようにしながら、ドモンは深い溜息。
「なになに?なんて書いてあったのよ?」
「聞きたい?どうしても?」
「なんですの?ワタクシも気になりますわ」「私もです・・・」シンシアとサンも気になる。
「お前らとスケベした回数が書いてあった。ナナとは480回で、おもらしした回数は・・・」
「わーわーわー!!もういい!もうわかった!なんなのよ、この水晶!!」
ナナが慌てて止めてくれ、自分達の秘密が暴露されなかったことに、ホッと胸を撫で下ろしたシンシアとサン。
ナナは急いで水晶を片付けさせたが、よく考えてみれば、ドモンの浮気の確認をすれば良かったとやや後悔。
ドモンは笑いながら料理の続きをしに戻った。
・・・が、実際に表示されていたステータス内容は全く別のことで、先程のものは全てドモンのデタラメ。
実際に表示されていたのはこれだった。
『討伐数 48名(捕食によりHP最大値アップ・延命完了)』
これによって自分が48名もの人を殺し、そしてその遺体を喰らったのだと知り、ドモンは吐き気を堪えるのに必死。
体調が戻ったことや寿命が伸びたことを、素直に喜ぶことは出来なかった。
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