第459話
サンが試着室から出てくるなり、この日一番の大歓声が上がった。
水色の生地で作られた男物のワイシャツのようなワンピースの腰にはやや太めのベルトがあり、クビレを強調する作りとなっている。
それにより下着が見えるギリギリまで服がたくし上げられてしまい、少しでも前かがみになれば、後ろから全てが見えてしまうような服。身長の高い人は、ズボンと一緒に着用するのがおすすめ。
正面のボタンの横に縦に一本白い線が入っているように見えるが、よく見れば実は文字になっていて、この店のロゴとなっていた。
「おお、可愛いよサン。これにしよう」
「は、はひ・・・体も心も準備は出来てます・・・」
「???」
カチコチに緊張しているサンをとりあえず待たせて、服の値段をこっそり店員に聞いたところ、当然金貨1枚くらいじゃ買えない値段で、流石のドモンも貰うのに気が引けた。
「やっぱり悪いよ・・・」
「いいえ!この服はサン様が着られる為にきっと作られたのでしょう!それほどお似合いなのですから、是非そのままお持ち帰りください」「サンでいいです・・・」
「いやぁゴメンね。そしてありがとう」
「本当に本当~に、いつでもいらしてくださって結構ですから!」
王族はともかく、貴族や有力者が幅を利かせるのが当たり前の世の中。
そうすることで店に箔もついて利益も上がり、結果、お互いに得をすることになるのだ。
だから店側も影響力を持つ者達に必死に接待を繰り返す。それが生き残るための道のひとつ。
店の経営に多大なる影響を与えているドモンなのだから、本来ならばそうするのが当然と店の者達は考えていたし、そうしてもらえた方が安心も出来た。
ドモンに何処か別の店と繋がりを持たれることは、正直極力避けたいのだ。
政治家と企業の癒着のような、なんとも汚い大人の世界の話だけれども、この世界にとってドモンがそれだけ影響力があるというのは、カルロス領や今ドモンが住んでいる近隣の街の発展具合からもすぐに読み取れる。
仕立て屋の老紳士は、サンが試着した服全てをドモンに持たせようとしたが、それはドモンが丁重にお断り。
元のメイド服や手荷物などは宿舎の方まで届けるようにお願いをし、皆に見送られながら、ようやく店の外へ出た。
「あれ?あのおじさん、雪の妖精連れてるよ!?ママ見えてる?」と通りかかった男の子がサンを指差す。
「見えてるわ!まあ!お話だけのものだとばかり思っていたけれど、本当にいるのね!」子供のようにはしゃぐママ。
「なんて可愛いんだ」「生きて・・・るのよね??絵本から飛び出してきたみたい」「絶対にお姫様よ」
歩く度に聞こえる声。
なんだかメイド服の時よりも目立っている気がしたが、もうどうしようもない。
「・・・皆様が見ています」
「サンは可愛いからな」
「本当に・・・本当にこんなところでフゥフゥフゥ・・・」
「さっきからどうしたんだサン???」
上からゆっくりと服のボタンを外し始めるサン。
慌てて止めるドモンの声も、もうサンの耳には入っていない様子。
結局ボタンを三つほど外して、サンの立派な先っぽが見えた瞬間、無理やりその腕をドモンが引っ張り、人の少ない裏路地の方へと逃げ込んだ。
「何やってんだよサン!それに下着はどうした?!」
「下着は全部取ってましゅ・・・あとはボタンを全部外して、御主人様が皆さんの前でガバっとするだけでし・・・」
「なんだって?!そんなことしないから!」
「ううん、サンは待ってたの。夢の中のあの時のフゥフゥ。御主人様の夢を叶えるのがサンの夢だから」
「何の話だ!」
もうサン自身もよくわからない。
シンシアに『サンには無理』と言われた悔しさもあったのかもしれない。
あの時の夢か、夢の中で見た夢なのか、それももうよくわからなくなっていたけれど、サンにはその願望だけが深く心に刻まれてしまっていたのだ。
「サンはドモンさんのせいにして、本当は自分がずっとこうしたかったのかも。頭がおかしくなるくらい恥ずかしい目にあって、もう何もかも終わらせて、ドモンさんだけのものになりたいの・・・」
「サン・・・」
「奥様が羨ましい!シンシア様が羨ましい!サンも刻まれたい!心にドモンさんの爪痕を!」
「・・・・」
ドモンは皆と同じ様にサンも好きだ。
出会った時からずっと可愛いと言い続けて、そして本当に可愛がってきた。まるで娘のように。
だけれども、サンにはそれが不満だった。
サンはドモンがナナやシンシアに対する様に、もっと好き勝手に扱ってほしかった。
その違いはサン本人にしかわからないものだが、例えるならばナナとシンシアはドモンの私物で、サンは店頭に並ぶ商品のように感じていたのだ。私物とはやはり扱い方が違う。
悪戯や意地悪をされるにしても、せいぜいお尻を優しく叩かれたり、コチョコチョとくすぐられる程度。
いつもいつも待っていたのに。
その願望があって、あの時妙な夢まで見たのかもしれないけれど、サンは夢の中での自分が本当に羨ましかった。
「ああバカ!ボタン全部外しちゃって!見られるし寒いだろ!」
「いいの!御主人様、命令してください!ここからひとりで裸で帰りなさいと」
「駄目だ!こら服を脱ぐなってば!!」
「うぅぅ~御主人様のものだという証が欲しいの~うぅーっ!!」
もう何人かには見られてしまったかもしれないけれど、ドモンは泣いている裸のサンに服を着せた。
こんなにも動揺と混乱をし、焦っているサンにドモンは驚いた。
泣いているサンにドモンのジャケットを肩から掛け、ドモンは近くにあった道具屋へ。
約十分後、サンの元へと戻ってきた。
「お待たせサン。じゃあ行こうか」
「はい・・・先程は取り乱したりしてごめんなさい御主人様・・・あと服をお返しいたします」
「でも寒いだろう?」
「大丈夫です!だってこれ以上御主人様のニオイを嗅いでいたら、サンの体は沸騰してしまいますから」
ニコッと微笑んだサンは、やはり可愛い。
それ以外の言葉がどうしてもドモンには見つけられない。
「じゃあサン、これから大勢の人がいる広場へ行って、そこの真ん中でみんなに見られながら、サンとふたりで細長い肉の棒を小さな穴にズッポシしちゃうけど、覚悟はいいか?」
「え??えぇ?!嘘???」
「そこでサンが俺のもんだってみんなに知らしめてやるつもりだ」
「・・・わ、わかりました。とっくに覚悟は出来ています!!」
粉雪舞う寒さの中、サンは頭から湯気をモクモクと出し、真っ赤な顔をしながらドモンの腕に絡まった。
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