第331話
「他言無用だと約束したじゃないですかあああああ!!うわぁぁぁん!!」
「あれ?そうだったっけ。他言無用だといったのは、店で下半身をお盆で隠して芸をして、失敗した時の話じゃなかったか」
「それはドモンさんが最初にやったから!!」
「俺はしていない。まったく記憶にない。俺は自分の記憶を消せるんだ」
「なにそれひどい!」
先程までの重苦しい空気は消し飛んだが、今度は一転して空気が軽すぎる。
酒を飲みながら、ドモンとトッポが二時間も言い争いを続け、気がつけばベロベロに。
他の三人もほろ酔い以上ギリギリ酔っ払い未満。
店を出て、フラフラとした足取りで先導する勇者についていく一同。
「どーこ行くんだ勇者ぁ~」とドモン。トッポと肩を組んで歩き、ふたり上機嫌。
「声が大きい!せっかく忍んで来た意味がなくなるじゃないか!それにホークのいる店に決まってるだろ」
「あれ?そういや店の場所聞いてなかったな俺」
「俺が知ってるよ!さっきエイと一緒に一度行ったんだ。陛下・・・じゃなかったトッポを探しに」
素性がバレないように、勇者や国王といった呼び方はやめようと先程決めたばかり。
店の名前は聞いていたが、場所は聞いていなかったドモン。ちなみに店名ももうとっくに忘れている。
「じゃあ褒美にほら。ミレイが強くなったキノコをやる。これでお前も真の勇者になれる」先程酒を飲みながら、ミレイに負けた話を勇者から聞き、ドモンが冗談半分に例のキノコを出した。
「なんだそれは!寄越せ!!」
「あ!!」「ぬ!!」
ガブリと半分ほどかじったほろ酔い勇者。
初めてミレイに負けたのが余程悔しかったのだろう。
当然量としては食べ過ぎで、ドモンや義父が普段口にする量の約2~30倍ほどを口にした。
それにより、違う意味での真の勇者に目覚めることが確定した。
「じゃあ僕も貰おうっと」「ワシも貰おうかの」
「やめておけ!あぁ!」
トッポと大魔法使いを止める義父。だが間に合わず。
ドモンが下半身元気キノコだとネタバラシをし、怒る三人。時すでに遅し。
それから程なくしてホークが住むぼったくりバーに到着。
「いらっしゃいいらっしゃい!よっ!そこの貴族様!いい娘いるよ~!今なら銀貨三枚ポッキリで60分飲み放題だよ」
「ぼ~くは貴族じゃなく王様でーすアハハ」と客引きに答えた酔っ払いトッポ。
「ご機嫌だね王様!飲んでいってよ~好みの娘を着けるから」と客引きがドアを少し開けて何やら中を確認。
「どれどれ、どんな娘がいるの?どうせそんな事言っておいて、中に入ったら恰幅のいいおばさんが出てくるんじゃないの?あ、トッポはそれで良いのか」ドアの隙間から中を覗こうとするドモン。
「僕は違いますよぉ~ヒック!女ボスさんひとすじですからぁ~・・・まあでもどうしてもと言うなら、そんな方でも・・・ウフフ・・・ん?」トッポのストライクゾーンはドモン譲り。
「いますよいますよ!ピチピチの若い娘からスケベな奥さんまで・・・う~ん仕方ないな。お兄さんだけ覗いてごらん?」
「・・・ほほぅ・・・」唸るドモン。ここはハイクラス系ぼったくり高級クラブと判断。
「ジジイ、例のキノコいる?」
「何がだ。目的は酒を飲むことではないのだぞ?」
「エリーほどではないけどそれに近いのがいた。格好は祭りの時のスケベなスナックと、例の隠れ家の店の間くらいの服を着ているぞ?」
「・・・寄越せ」
ドモンと義父がひとしきり相談をし、結局このふたりもキノコを食べた。
「へい!五名様ご来店~!奥の席へどうぞ~!」と、逃げられない奥の席へと座らせられたドモン達。
奥の方から「おかしいじゃないですか!」という若者達の声が聞こえたことにより、ここがどんな店かほぼ確定。
助けてやりたいところだけれども、これも勉強。勉強代は高くついただろうが。
好みの女性のタイプと好みの服装をホール係と思われる男に告げると、すぐに五名の女性達がやってきた。
「いらっしゃーい」超ミニスカのスーツを来たナナのような女性がドモンの横に座る。
「おぉ~!」と早速その手を握った酔っ払いスケベドモン。
「私みたいなのでいいのぅ?」エリーによく似た女性が、タオル一枚身体に巻いたような服で義父の隣りに座った。
「おおこれはなんとついに・・・ワッハッハ!これは愉快だ!!」すすきの祭りの時のエリーを再現したような女性がやってきて、義父が高笑い。
「・・・たっぷり可愛がってあげるわウフフフ」思わずドモンが吹き出すほど、ほぼ女王様な格好をした女性がトッポの元へ。
「あーもうダメかも・・・おねえさんごめんなさいあぁ・・・」何かを必死に隠すトッポ。今なら元気な子トッポに、重い革ジャンでもかけられそう。
「何だよ爺さん!アハハ!随分元気じゃないかここも!」ミレイを三回りほど小さくしたミスター女子プロレスが大魔法使いの元へ。
「おい爺さん!少しは隠せ・・・それにお前、ミレイが好きだったのか」とドモン。
「ほっといてくれ。それにしても20年ぶりじゃ。自分でも驚いたわい」という大魔法使いと、その分身をギュッと握って笑う量産型ミレイ。
「いらっしゃい!」と勇者の元へは清楚な女性がやってきた。
「・・・お疲れ様アーサーと一度言ってもらえるかな?」その顔を見るなりご機嫌な勇者。
「お疲れ様アーサー。・・・ウフフ!突然私に何を言わせるのよ」
「ふ、ふぅ・・・」
格好をつけて足を組んだ勇者だったが、ナニかがどうにかなっていることを隣のドモンが見破り、ニヤニヤしている。
しかしあの量の例のキノコを食べて、この程度で済んでいるのは流石に勇者の力とも言えよう。そこはドモンも少し感心。生半可な精神力ではない。
「おい、ゆ・・アーサー、お前賢者のことが好きなんだろ」とドモン。
「ななな何がだよ!!」
「やっぱり図星か。カマかけたんだ」
「汚いぞ貴様!」バレバレのチョロすぎ勇者。
「貴様じゃなくてドモンさんですよ?」と女王様に甘えながら勇者に忠告するトッポ。正直今はどうでもいいとは思いつつ。「ああ女王様最高」とトッポは何度言っただろうか?
「なんですか?賢者って」と清楚な女性。
「こいつほら、勇者パーティーの中にいる綺麗な賢者に憧れてるんだよ」とドモンが答えた。
「ああ!私その衣装ありますよ?別料金になってもいいなら着替えてきますけど」
「・・・それがいい。すぐに頼む」とドモンとは逆の方を向く勇者。ニヤケ顔は見られたくはない。
義父と大魔法使いはもう自分の世界。
飲みたい食べたいという女性達に、ドンドン持ってこいと奢りまくる。
ドモンが入店前に一応店の説明や、そして店のやり口も説明はしていたが、キノコのせいもあってもう止まらない。
「おまたせ~!どう?アーサー」服だけではなく、髪型も真似てほぼ本人と言ってもいい。
「お、おぅ・・・」あまりの衝撃に勇者はカッチカチ。いろいろと。
「私も実は憧れてたの!だから似た服を作って・・・これ自前なのよ?」
「そ、そうなのか」
「実際に賢者様に会ってお話してみたいなぁ。あ、本物の勇者様にもね!アーサーって・・あ!あなたも勇者様に憧れてるんでしょう?どうりで似てると思ったわ!だからアーサーって呼ばせたのねウフフ」
「アハハ、実はそうなんだハハハ」
こういった店は勇者も初めてであった。当然トッポも。
大魔法使いは何度か経験がある。
「ねぇアーサー、私のことソフィアって呼んでみて?」
「!!!!」
もちろんその本物の賢者の名前である。
しかし勇者は賢者を名前で呼んだことはない。ミレイは名前で呼ぶが、ソフィアはそのまま『賢者』と呼んでいた。
出会った頃、ソフィアに敬意を称してそう呼び、そのまま今の今まで来てしまったのだ。
「ソフィア・・・」
「アーサー好きよ?飲み物頼んでいい?」
「ああもちろんだよソフィア」
現在の支払額は、五人合計で金貨60枚を越えた。日本円にして約600万円である。
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