EXIT OF ANOTHER WORLD~買い物終えて自動ドアを出たら異世界だった~
暮田土門
第1話
「どうなってんだこりゃ・・・」
買い物袋を手にぶら下げ、金髪男は呆然としていた。
独身貴族を謳歌しているギリギリまだ40代のその男は、超大型ショッピングモールのウオンでいつものように安い酒と主食であるインスタントラーメンを大量に買い、無くなりかけてた醤油と焼肉のたれやカレーのルーなども買いつつ、最後に風邪薬と白髪隠しのブリーチも買って袋に詰め込んだ。
肉は近所の業務用のスーパーで2kg800円の冷凍鶏もも肉を買う。一人暮らしならこれで二週間は暮らせるだろう。
まあ金が入ればちょいちょいと買い足せばいいと考えながら、男は出口の自動ドアに向かって歩いていた。
自動ドアの向こう側はどんよりとした雨模様。最近はずっと天気が悪い。
「ちっ・・・嫌な天気だなぁ」と小さく独り言を吐きつつ、うつむき加減で自動ドアを出た。
店を出た瞬間目に入ってきた陽の光に出た言葉が冒頭のそれであった。
しばらく空を見上げて晴天を確認したあとようやく周りを確認をし、そこがいつもの駐車場ではないことがわかった。
草むらの中に大きめの木がまばらに生え、ちょっとしたキャンプ場のよう。
その木の隙間の数十メートル先に横向きの土の道路のようなものが見え、そのまた先には草原が見える。
「いやいやいや・・・待て待て待て・・・」
荷物を地面に置いて腕を組み、目をつぶって考える。
出口を間違えたのか?いやそんなことはない。そもそも晴れてはいなかったのだ。
まずは元の場所に戻ろう。
そう考えて振り向くと、そこは絶壁であった。
その岩肌に六芒星のマークのようなものがあり、その角が5つぼんやりとした光を放っている。一箇所だけ点灯していない状態。
おもむろに男がその六芒星に手を当ててみると絶壁が白く光だし、四角く空間が切り取られたような状態でウオンの店内が見え始める。
男はそれを見るなり大慌てで地面に置いていた荷物を拾い上げ、その店内に飛び込んだ。
心臓がバクバクと音を鳴らす。
「も、戻れた!」
ハァハァと荒い呼吸を徐々に整え、いつもの冷静な姿を取り戻していく。
「疲れてたのかな?」と定職にも就いてもいない、その日暮らしの遊び人が馬鹿なことを宣う。
振り向くと自動ドアの向こう側はやはり雨模様。
他の買い物客は普通に自動ドアをくぐり、雨の中を車まで小走りで走り去っていた。
もう大丈夫。今度こそ大丈夫。
そう思いつつも念の為に他の出口から出ることにした。
少し遠回りになるもののまた変なことになるよりはマシだ。
その上でどこかの誰かが自動ドアを開けた時に一緒に出ることにする。
後ろから来た3人家族が仲良く手をつなぎながら自動ドアを開ける。
タイミングを合わせるように一緒に外に飛び出す・・・と、そこは先程見た絶壁の前の草むらだった。
3人家族は消え、自分だけがこの場所にやってきてしまったことを確認して絶望する。
振り向くとそこにはやはり六芒星が描かれた絶壁しかない。
そして角に輝く光は更に一箇所減り、残り4つになっていた。
ここに来る度に光が減っていくのか・・・と、なんとなく仕組みを理解する。
だが一番の問題は「ここがどこなのか?」ということだ。
バスか電車にでも乗って帰ることが出来るならもうそれでもいい。
とりあえず数十メートル先にある道を目指して歩く。
道に出て右を見るも、そこにあるのはずっと続く土の道。
左を見ても同じように続く土の道。
真正面にはオーストラリアにでもあるような草原がどこまでも続いている。人が住んでいる気配がない。
「こりゃウオンに戻ってキャンプ道具一式でも揃えないと駄目かな?」と自虐的な冗談を言い、苦笑いしながらその場にへたり込んだ。
その瞬間、ポケットにスマホがあることに気がつく。
大慌てでスマホを取り出し電源を入れるも、見事なまでに圏外、そしてGPSもまるで反応がなくマップも反応せず。ネットも当然駄目。
「お手上げだな。えらい道草を食っちまったもんだ」と買い物袋から安ビールを一缶取り出しプシュッと開け、胸ポケットからタバコを取り出し火をつける。
いざとなったらウオンに戻ろう。店の中ではスマホも使えたはずだ。そこで誰かに相談するなりすればいい。
ビールを飲みきり、仰向けに寝転んで空を見上げる。
ええいもう成るように成れ。今はこの久々の晴天を楽しもう。
ポカポカ陽気の中、睡魔に襲われ男は眠りこけた。
パカ、パカ、パカ・・・
なにかの足音が聞こえ、男は大あくびをしながら目を覚ました。
「・・・ものだ!!」
「はぁ?」と眠い目をこすりながら声のする方へ振り向く。
「お前は何者だ!!」
馬に跨り、右手を背中に背負った長剣のグリップを握りながら女が叫ぶ。
「何者ってお前と同じ人間だろ。てか人いたんだな。良かった」
「そうじゃない。どこから来た!」と目を吊り上げ睨む女。
「そう怒んなよ。俺だってわけがわかんねーんだ。武器は持ってないし敵でもねぇからまずは話を聞いてくれ」
草むらに座ったまま両手を上げて害のないことをアピールする。
こういった事は度重なる職務質問で慣れていたのだ。
その様子を見て少しホッとした表情になり馬から降りる女。
そばにあった木に馬をつないでから男の前に立つ。
「見慣れない格好だけどここで何をしているの?」
男に害がないことがわかると、少し優しい口調になり改めて聞いてきた。
「時間があるならまあちょっと座って聞いてくれ」
「わかったわ」
そう言って男はビールを一缶渡した。
「なにこれ?」
「ビールだよ。酒飲めるだろ?」
「え?これお酒が入っているの?!」と大げさに驚く。
「見りゃわかるだろ??」
不思議そうに缶をあちこちから覗き込み、首をかしげる女。
開け方がわからない様子を見て、男が代わりに開けてやった。
プシュ!という音にまたビクッと驚き、皮の鎧からハミ出にハミ出してる大きすぎる胸が揺れる。
恐る恐る一口だけ飲んで大きな声で女が叫ぶ。
「これエールなの?!何これ!!!」
「エール??いやまあそういう言い方もあるけど」
「それにこのシュワシュワが凄いね!こんなの初めて!!」
安ビールにここまで食いつくとは思っていなかった男は、少しだけ動揺した。
(缶ビールを知らない??それにエールって・・・そもそもその剣は何なんだよ)
夢中になって缶ビールを飲んでいる女を見ながら考える。
いやまさか・・・そんなはずは・・・。
「ありがとう。きっと高価なものなんでしょう?ゲープッあ!やだ!!」
「いやいやそりゃ別にいいんだ」と答えながら、顔を真っ赤にしつつ恥ずかしがる女を見て「爆乳さんは天然が多め」という独自の大偏見理論に納得する男。
お互いの距離が少しだけ近くなったところでいよいよ本題に入る。
「まず最初に俺に嘘がないということを先に言っておく。とてもじゃないけど信じられないことだからだ」
「わかったわ」と真剣な顔で返事をして女は向き直る。
「俺はそこの絶壁から出てきたんだ」
「はぁ??」
「信じられねーよな。俺も信じられねーくらいだし」
少しだけ照れて、少しだけ寂しそうにそう言った男の言葉に、ふるふると首を横に振りながら「大丈夫だよ。信じてる」と男の腕にそっと左手を添えた。
そしてこれまでの経緯をすべて正直に話した。
それが終わると今度は男からの質問。
「ここはどこなんだ?国の名前は?」
日本ではないのはなんとなくわかる。この金髪巨乳美女が、長剣を背負って馬に乗ってやってきたのだから。
せめて地球であれ・・・だがこの金髪巨乳美女が同じ言葉を話している時点で、何かがおかしいということも男はわかっていた。
もし奇跡的に地球上であっても、時間軸は確実にずれている。缶ビールを知らない時点でそれも察している。
「ここはアンゴルモア王国よ」
「おぉ・・・恐怖の大王かよ」
「ちょ、ちょっとなんてこと言うのよ!シーッ!不敬罪で首飛ぶわよっ!」
別の世界線であることは確定した。
あとはここが地球なのかどうなのか。
それは夜、星座を見ればわかる。赤く染まった夕焼け空を見ながら男はそう考えた。
「今夜はここで野営ね。ちょっと待ってて。馬に餌と水あげてくるから」
「ああそうだな」
女は下ろしてあった荷から木をいくつか取り出し、それを器用に組み立てて即席の水飲み場を作る。
そしておもむろにこう叫んだ。
「ウォーターボール!」
ザブンという音と共に、先程組み立てた馬の水飲み用の容器に水が溜まった。
それを見て男は天を見上げる。
「魔法・・・そうか異世界か・・・」
「え?なんか言った?」
「いや別に」
すっかり日も落ちた空には、月はあったが金星はなかった。当然見覚えのある星座も見つからなかった。
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