第670話
ブンッと剣を振るうドモン。
鎧を着たままでは流石に無理で、生身でようやくといったところ。
それでも連続でブンブンと振るのは出来ず、おりゃ!せーの、フンッ!とまるで薪割り。
「ひぃひぃ・・・三日やったくらいじゃこれはどうにもならんな。久々に喘息の発作が起きそう・・・」汗だくでしゃがみこんだドモン。
「なにやってるのよ。どれ貸してごらんなさい。私が見本を見せたげる」じれったくなったナナが、冒険者としての威厳を示す・・・はずだった。
「ヤメときなよ。これは男の鍛錬用の剣だし、私でもキツイくらいよ?」とウェダー。
「そうか?もっと重たい剣もあるだろ?」
ナナよりも先に剣をドモンから受け取ったミレイが、片手でまるでバトントワリングのように軽々と振り回す。
あまりの速さにブンブンというよりも、ヒュンヒュンヒュン・・・という甲高い音で空気を切り裂いた。
「あんたみたいには出来ないけど、ドモンよりは私の方がずっとマシよ。いい?みんな見てて」ナナは道場中央へ。皆注目。
「無理すんなよ?飯も食ったばっかだし」
昼はドモンが作った唐揚げを、ナナは誰よりも食べていた。
「エイッ!ヤァッ!!ハッ・・・ブッ!ト、トゥ・・・やだ、ちょっと力んでおしっこ出ちゃった。や、やーね」靴で床の水滴を擦るナナ。
「・・・・」「・・・・」「・・・・」「お前、オナラ出ただろ」気を使った女性陣の気持ちを台無しにしたドモン。
「し、知らない!おしっこもホントは冗談だし!バカじゃないの?!だからドモンはおじさんなのよ!!マジでキモい!!」
「マジでキモいってお前・・・この前俺が教えた言葉を早速使いやがって」
水浴びに部屋を飛び出すナナとサン。
サンはナナの濡れた脚をハンカチで拭いたり、洗濯や着替えの用意。一番の仕事は、ナナの慰め役が主になるのだけれども。
ナナも正直サンがいなければ、もうこれから生きていく自信がない。それはドモンもシンシアも同じ。
「で?ウェダーの調子はどうなんだ?あの後」
「試行錯誤しながら、今は上手くいき始めたみたいだよ。最初はナナさんみたいに・・・じゃなかった、アタイみたいに漏らしちまってたみたいだけどさ。昨日は筋肉痛で大変だったって」
密かに計画を進めるドモンとミレイとウェダー。
効果があるかないかの実験中のため、とりあえず今のところは皆に秘密にしていた。
「何のことですの?」とシンシアがドモンに質問。
「いやまあ・・・上手くいき始めたならそろそろ言ってもいいか。失敗した例のマッサージ機の試作品あるだろ?あれを使って筋力を付ける事が出来ないかって実験してたんだよ」
「どうして今まで秘密に?」
「そ、それはまあその・・・ミレイの言う通り、最初は悲惨だったみたいなんだよ。俺にも秘密にされるくらい、とんでもないことになったみたいでさ。ちょっぴり非人道的だったと言うべきか」
この世界にはあまりに辛いトレーニングしか無かったため、どうにか楽に鍛えられないものかと考えた結果、深夜のテレビショッピングを思い出したドモンが、あのマッサージ機を腹筋に使用することを思いついた。
そこで少しでも役立ちたいと名乗りを上げたウェダーだったが、実験開始直後にとんでもない放屁をしながら歯を食いしばり、ドモンに部屋を出ていくように指示。
そこからはミレイとウェダーの二人三脚で実験が繰り返されていたのだ。
「ウッウッウゥゥ・・・ここまで強烈な刺激だなんて・・・く・・・あの人の前で私・・・」
「アタイは何も知らないから、とりあえず着替えてきなよ。今度からアタイが実験台になるからさ」
「それじゃダメよ!だってあなたは元々鍛えられているじゃない。それにあなたに耐えられたとしても、普通の人が耐えられる強さがわからなければ意味はないわ」
「わ、わかったよ。じゃあ今度は当て布の枚数を増やしてみよう。その前に水浴びして、大きい方を漏らした下着取り替えてきなよ。臭うよ?」
「ちょっとぉぉ!言わないでよ!!!何がアタイは何も知らないだ!クソッ!」
それからは布でマッサージ機を包んでみたり、革鎧を重ね着してみたりと実験の繰り返し。
最終的にワイパーに使用した樹脂と布を混ぜ合わせた物を皮に貼り付け、マッサージ機を包むことにした。
そうすることで痺れは抑えられ、筋肉のみを鍛えることに成功した。
これが後に爆発的にヒットし、数百年もの間この村に莫大な富を生むことになるだなんて、このふたりには想像もついてはいなかった。
ドモンはこの村、そしてこの世界の格闘技界に様々な革命を起こした。
たったの数週間で、プロレスや相撲、他にも様々な競技と競技者を生み出し、去っていった。
その中でも一番に残ったものは、「おぉ~っと!!」でお馴染みの実況者の存在である。
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