第147話
ドモンとナナはまず本屋に向かい、役に立ちそうな本をありったけカゴに入れていった。
鍛冶屋と約束していた鍛冶に関しての本の他、車に関しての本や農業に関する本、もちろんいちばん大切な味噌や醤油に関しての本なども突っ込む。
服飾関係や料理本も大量に放り込み、役に立ちそうな雑誌も次々入れていく。
「ね、ねえドモン・・・見てこの本」
「バカお前!なんて本持ってんだよこのスケベ」
「こんな姿をみんなに見せるなんて、私以上ね・・・」
「ま、まあ一応買っておくか」
ニヤニヤしながらスケベな本もごっそりと購入するふたり。
場所を移動し、包丁や圧力鍋などのキッチン用品、珍しい大工道具や新たなテントなども購入していく。薬もたっぷりと買った。
服も含めるとすでに使った金額は百万円近く。
荷物を屋上へと運ぶ途中、サンやヨハンの服も買った。
サンの服は屋敷の子供達と同じ子供服。
これにナナがあげたミニランドセルを背負わせれば、それはもう犯罪のニオイどころか完全に犯罪だと確信するドモン。
「さて、あとケーコが帰ってくるのを待ってる間に、食料品と調味料買いに行かないとな。それとまだ少し調べ物もあるし」
「そうね、たっぷり買わないと駄目よ」
「それに関しては少しナナ頼みのところもある。あっちの世界で珍しい物とか喜ばれそうな物を教えてくれ」
「任せといてよ!あぁ~楽しみだなぁ!ウフフ!!」
ピッチピチのTシャツ姿で、何かを跳ね散らかしながらスキップしてエレベーターに向かうナナ。
もうすっかりエレベーターには慣れた。
「あ!そういえば仕立て屋達にチャック買ってきてやるって約束してたんだった。二階だったかな。ちょっと衣料品売り場寄って行くよ」
「はーい。『2』を押せばいいのよね?もう出来るわ」
得意げに操作をするナナ。
「楽しくて一日中乗っていられるわ」とニコニコしながら、ドアが開いた瞬間「ばぁ!」と意味不明な掛け声を出しドアから飛び出すと、二組の親子連れを驚かせてしまった。
子供らに「驚かせてごめんねー」と手を振るナナ。
全てが新鮮で、全てが目新しく、全てがナナには輝いて見える。
キレイな服にキレイなカバン。キレイなアクセサリー。
何もかもがカラフルに彩られていて、まるでいつも想像していた天国のよう。
「ねえドモン、私達の街も何百年かしたらこんな風になるのかな??」
「さあどうだろな?」
「なんかドモン次第な気がするよ?」
「いやいや、じゃあナナはこれを作ろうと思って作れるって言えるか?」
ドモンが指を差した方向には恐怖のエスカレーターが。
アワワワと慌ててドモンの後ろに隠れるナナ。
「さあ約束してたチャックもたっぷり買ったし、エスカレーターに乗るぞナナ」
「イヤ!ずっとイヤって言ってるじゃない!!」
「これに乗るとその先にいいお店があるんだけどなぁ。とっても美味しい・・・」
「うぅ・・・乗るわよ!乗ればいいんでしょ!!そのかわり手をつないで!!」
エスカレーターを目の前にし、愕然とするナナ。
下に向かって階段が次々と吸い込まれていく様子は、もはや地獄への入り口にしか見えない。
ドモンの左腕を引っ張り、ナナは後退り。もう今にも腰が抜けそうになっている。
その横を小さな子供を連れたお母さんが、不思議そうな顔を見せながら通り抜け、子供と手をつなぎエスカレーターへと乗った。
「危ないわ!!!」
「????」
「ナナ!しーっ!危なくないから!いやまあ、きちんと乗らないと危ないには危ないんだけども」
「やっぱり危険なんじゃないのよ!!」
しかし子供は母親とおしゃべりをしながら、ぴょんとエスカレーターから床に降り立って去っていった。
「無事で・・・無事で良かったわ」と両手で顔を塞いで涙を堪え、ナナがヘナヘナとその場にしゃがみ込んだ。
「もうほら、面倒臭い奴だなお前は」とドモンがナナの腕を掴んで立たせ、そのままエスカレーターへと引っ張り込む。
「い、いやぁ!!!!」
「大丈夫だって。頼むから静かにしてくれ」
「無理よ!ああお父さんお母さんごめんなさい!先立つ不幸をお許しください・・・」
「あんまり暴れると、本当に亡くなってしまった子供とかもいたからな?きちんと手をつないで静かに乗ること」
ドモンの言葉に血の気が引くナナ。顔は真っ青。
迫る一階。にじみ出る汗。透けるシャツ。飛び出す先っぽ。
「はい降りるよ。せーの」
「ひぃぃぃ!!!」
大股を開いて一階の床へと飛び移ったナナを、周囲の人達が皆、物珍しそうな顔をして見る。
ハァハァ・・・とナナは肩で息をしながら、ドモンの首に腕を回し、猛烈な口づけをした。
「ブハッ!いきなり何すんだよ!」
「私達生き残ったのよ」
「大げさだっつうの!この調子でどこかのデパートなんて行ったら、屋上からデパ地下までの間に子供が出来ちまうよ」
「いいわよ私は。今すぐしても。少しだけ汚したかもしれないけれど」
そう言ってナナがジーンズのボタンに手をかけたが、ドモンが必死に止めた。
ナナにとっては吊り橋効果が起こってしまうほどの恐怖体験だった。
怪訝そうな表情で周囲の人に見つめられるふたり。
が、見た目が外国人のナナを見て「まあそういうものなんだろう」といった顔で、周囲の人達はなんとなく納得してくれた。
「それよりもほら、楽しみにしてた食料品売場だぞ?」
「わ!すごい!ねえ、端の方から順番に見ていきましょう?」
また胸を跳ね散らかしながらひとり走っていったナナだったが、とある場所でピタリと止まり「ドモン早く!!」と叫びだした。
「ドモン早く来て!見てこれ!!ねぇ早くぅ!!」
「いやもうわかってるよ」
「ハンバーガーよ!!ドモンが結婚式の時に作ってくれたのもあるの!!」
「わかったからまずはその先っぽをしまえ・・・お前知らないかもしれないけれど、胸は透けてるしお尻もピッチピチでえらいことになってんだからな。目立って仕方ない」
元々異世界では布だけで出来たコルセットのようなものを皆付けていて、透けることはなくても先っぽの形はまあまあバレバレであるというのが普通だった。
胸の形が服の上からわかっても平気なように、その先っぽの形がバレても特にそこまで気にするという感覚がない。
それが女性の特徴というだけで、透けてさえいなければ平気なのだ。
ただし、今のナナはエスカレーターの一件で汗をかきスケスケである。
本人はそれにまだ気がついていなかった。
ドモンの指摘でようやくそれに気が付き、赤い顔をしながらシャツの中に手を突っ込んで下着を直した。
そしてふたりはハンバーガーショップのワクドナルドへ。
「いらっしゃいませ~」
「ナナは何が食べたい?」
「私ドモンのやつ!あとは・・・わからないからドモンが決めてよ・・・」
「じゃあテリヤキふたつとフィッシュひとつ、あとポテトのLとシェークのバニラ。それでいい」
「はい、ではご注文を繰り返します・・・・」
直ぐに出来た商品を持ち、外が見える窓際のテーブル席へ。
雨の中を車まで走る人を見ながら、ハンバーガーを食べるふたり。
「んがっ!!これも美味しいわドモン!!中身は魚で出来てるのよね??」
「そうだ。似たような魚が手に入ればみんなにも食わせてやりたかったんだけどな」
「きっとそのうち手に入るようになるわよ。新しい馬車でお魚も運べるし」
「フフそうだな。あと海の方にも今度行こうよ。ナナの水着姿も見てみたいしな」
「水着って何?」
「泳げる服というか下着というか、透けない素材で出来たものがあって・・・あとでそれも買いに行くか」
「面白そうね。みんなの分も買いましょうよ」
モグモグと食べながらおしゃべりは尽きない。
絶世の美女とのデートに心躍るドモン。
「ここから吸い上げればいいのね?」
「ちょっと凍ってるから、少し力を入れて吸うんだぞ?」
「ん!ん~・・なかなか出ないわ。んん~~!!んっ・・・はんっ・・・」
「ナナ・・・スケベな声出てる」
ストローを必死に吸うナナにまた視線が集まる。
「あ!先から白くてドロっとしたのが出てきたわ!!」
「やめろ!!」
「お、美味しいわ!この白いドロドロ!舌や喉に少し絡みつくけど。ねぇ・・・全部吸っていいの?」
「美味しいだろ『バニラシェーク』冷たくて美味しいよな!『バニラシェーク』!!」
大きな声を出すドモン。
「お前わざとだろ絶対」
「イヒヒ」
テリヤキバーガーやポテトも食べてはしゃぐナナの顔を見ながら、ドモンは何気なくスマホをチェックし、少しだけ苦々しい顔をしながら、日も落ちて暗くなった雨が落ちる駐車場を眺めていた。
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