第340話

「じゃあこれからはご近所さんってことになるのかな?」とナナ。

「近所かどうかはわからないけれど、きっと顔は合わせやすくなるだろな。女ボス達もだけど。イヒヒヒ」

「駄目よ」「ダメですぅ!!」

「???」


ドモンが何を考えたのかがすぐにわかったナナとサン。

突然叫んだふたりを見てキョトンとしたエイは、まだ何の話なのかがわかっていない。


「とにかく私もその街について行って、おやじ殿と一緒にたくさんの絵を描くよ。どんな絵を描けばいいのかはまだわからないけれど、きっといつか・・・」

「スケベな女の絵に決まってるだろ」ドモン即答。

「へ?!」「こらドモン!!」素っ頓狂な声を出したエイと怒るナナ。サンはヤレヤレ。


「地獄ではない、お前だけが描ける絵は、色街で見てきた女達のスケベな姿だ。その仕事を誇りに思っていた美女を描くも良し、お前らしか知らない裏の姿だってある。客がつかず、身体を持て余した女同士で慰め合ったりとかイテェ!!」

「いい加減にしなさいよあんた!思い出したくもないことだってあるでしょうに!」


酷い地獄を見てきたエイが可哀想だとナナは怒った。が・・・


「・・・なるほど。それなら私も描けるかもしれない。おやじ殿もきっと描けない・・・女にしか描けない女の姿を!」

「だろ?それにこれから向こうでもスケベな街が出来上がる予定だし、きっとネタは尽きないよ」

「こうしちゃいられない!早く!早く準備をしないと!」


ドモンとそんな会話を交わすなり、エイは居ても立っても居られないと部屋を飛び出していってしまった。


「もう!妙なことを吹き込んで!知らないんだから」ドモンのせいでスケベな女の絵を描くことになってしまい、ナナはカンカン。

「まあ今回ばかりは冗談じゃないというか知ってたというか・・・」

「大体何を言ってるのよ!女同士で慰め合うだのなんだの、よくもまあそんな事思いつくわね。スケベおじさん!」

「それはお前らのことを思い出してつい・・・」

「え?!」「ち、ちがっ!!」


見る見るうちに顔が真っ赤になっていくナナとサン。

身に覚えがないとは言えない。


「ドモンが悪いのよ!!スケベな気分にさせておいて先に寝ちゃったりするから!!」

「そうですっ!!」


「そ、それにあんなキノコがそばにあるから、つい食べちゃうことだってあるじゃない」

「・・・・そ、そうです」


「サンが切なそうな顔するから・・・」

「奥様が奥様が!寝ている御主人様にキノコを食べさせて私達も食べればきっと上手くいくって!!」

「しー!サン!!シィィィ!!」


ジトっとした目でふたりを睨むドモン。

ドモンがふたりを問い詰めると、異世界の出入り口でドモンを元気にするためにキノコを食べさせた時以来、何度かそんな事を繰り返していたことが判明。


その際にこのふたりもキノコを食べるも、結局寝ているドモンのナニかが元気になることはあれ以来一度もなく、仕方なくふたりで抱き合って寝たり、クンクンしながらドモンに抱きついていた事がわかった。


たまにやけに朝から心臓が痛かったりしたのはそのせいだった。

当然ドモンも流石に怒る。命にも関わることだからだ。


ドモンに促され、しょんぼりしながらベッドの上で四つん這いになり、お尻を高々と突き上げたナナとサン。

パーンパーンと景気のいい音が午前三時に響き渡った。


お仕置きの途中で三人揃って妙な気分になり始めたが、流石に疲れていたのでドモンは就寝。

ナナとサンはしばらく寝付けず。


結局この日は、気持ちが高揚しすぎたホクサイやエイ、それにトッポと勇者達も、おみやげを貰って興奮気味に作業を続ける仕立て屋達も、豪華な部屋過ぎてまるで落ち着かなかった女ボス達も、みんな寝付けずに朝を迎えることとなった。



ドモンが眠りについた数時間後、あーでもないこーでもないと威勢の良いホクサイとエイの声が聞こえ、ドモンは目を覚ました。

ナナとサンは少し前にようやく眠りについたところらしく、ドモンはそのまま寝かしておきながら着替えを済ませる。


「女の身体ってものがまるでわかっちゃいないね、おやじ殿。そんな背骨してないっての!特に艶のある女はね!」

「じゃあお前さんが脱いでみろ」

「ゴメンだね!大体あたしひとり見て描いたところで、それはあたしであって、女の全てじゃあないんだよ!おやじ殿に描けるもんか!あたしがどれだけの女達を見てきたと思っていやがるの」

「ぐぬぬぬ・・・生意気な娘だ。今に見ていろ、お前さんの度肝を抜いてやる。楽しみにするんだな」


少し離れた部屋だというのに、ふたりの声は丸聞こえ。

ドア越しにそれを聞きながらドモンは笑っていた。


このふたりについて先に結果を言うならば、エイはその後、たくさんの美人画を残すこととなる。

そしてあのホクサイに「美人画においては自分の娘にはかなわない」と言わしめるまでの力を身に着けた。

ドモンが知る、その歴史と同じように。


全てはドモンが思うままに。



「おお、出発するのかボス達も」エントランス付近を歩いていると、女ボスとドモンが鉢合わせ。女ボス達はすでに出発の準備を進めていた。

「ああ、なんだかこう・・・落ち着かなくてね。やっぱり性に合わないよ。こういう場所は」と女ボスはヤレヤレのポーズ。


「そういえば、あいつらと一緒に行くことになるのか?」と、まだ何かをやりやってるホクサイとエイの部屋の方を見るドモン。

「一緒は一緒だけれども、何台かの馬車で行くみたい。引っ越しの荷物も運ばなければならないし、あと私らの仲間を更に数人連れていけたら。もし見つかったらの話だけどね・・・」

「どうせならみんな一緒に行けるといいな。その方が安全なのは間違いないし」

「えぇ」


ドモンと女ボス達がしばらく会話を交わしていると、「待ってくださーい!」と中央宮殿からトッポが走ってやってきた。

なんとも国王陛下とは思えない姿。国民の殆どが、国王の普段の姿がこんな感じだとは思ってはいないだろう。


「ハァハァハァ・・・もう行かれてしまわれるのですか?!もう少しゆっくりしていけば・・・」

「あはは、ありがとね王様。でもあたしらはやっぱり生きる場所が違うというか、ここじゃ息も吸えない気持ちなのよ」

「そうですか・・・あぁ残念です・・・」

「あっちの街で待ってるからさ。いつか遊びに来なさいよ・・・って、あんた泣くんじゃないわよハハハ!」


卒業式のお別れかというくらい、への字口で涙を流すトッポ。

みんなにとってはただの別れのひとつだが、トッポにとっては人生の大事な1ページで出会った大切な者達との別れである。

実際、後に書かれた伝記にも当然登場するほど。もちろん女ボスにとっては、不名誉な事柄がたくさん書かれることになったが。


「じゃ、じゃあ、お金を持っていってください!新しい門出を祝っての餞別として」とトッポ。

「ごめんね、それも遠慮しておくわ。今少し前にこの人と話をして、みんなで決めたのよ。あぶく銭は身を滅ぼすから貰わない方がいいって」ドモンの方を見た女ボス。

「それに私達のためなんかよりも、街のみんなのために使ってください。そのお金はきっとみんなのものだから」従業員の女の子がトッポに頭を下げた。


ウンウンと頷きながらまたトッポは涙を流す。ドモンと会ってからは、勉強になることばかり。


「あ、そうそう。俺らも一旦、オーガ達のいたあの色街の宿舎に帰るから。今日出発する」とドモン。

「え?ええ?!どうしてですか!!なぜですか!!なぜドモンさんまで!!うぅぅぅ!!」


トッポが驚き、叫び、むせび泣いた。女ボス達も少しびっくり。


「まあ俺らもやっぱり落ち着かないってのもあるんだけど、仕事しないわけにも行かないしな。色街のそのまま使えそうな建物で、今からでも始められる店は早く開きたいし、エルフの婆さん達も、占いの館が出来るの待ってると思うしさ」

「ここから指示を出せばいいじゃないですか!」


「上から指示出すのはガラじゃないってば。やっぱり俺は現場がいい。それにここじゃ気軽に呑み歩けないし、女遊びも出来ない」

「ず、ずるいじゃないですかドモンさんだけ!僕も行きます。すぐ行きます。待っててください準備しますから」

「昨日ナナに怒られただろ?俺は庶民だけどトッポは王様なんだぜ?」

「うぅ・・・はい・・・」


すすきの祭りの時に稼いだお金は、まだたくさんあるにはある。

だが滞在が春まで伸びた上に、そこから魔王のところへ行くとなれば、ここから更にある程度の蓄えは必要だ。


何より遊ぶ金も欲しいし、みんなにもそう言った手前、国民から集めた税金で遊ぶことは出来ない。

そうなればやはり働くしかない。


「まあそう嘆くなって。俺からオーガの女達にトッポの護衛を頼んでおくから、トッポはトッポで受け入れの準備をしておいてくれ」

「は、はい!!わぁ!!」


「騎士か近衛兵かはよくわからんけれど、それなりの役職を与えて、住民?国民にもきちんと知らせるんだぞ?」

「わかってますよそれくらい。きちんとした場を設けて、その場で国民の皆様に発表します。もう僕、それも楽しみで楽しみで一睡もしてないんですよ。あ!こうしちゃいられない!大臣達にも知らせないと。では皆さん出発前にまた見送りに来ますので、一度失礼します」


ドモンと会話を終えるなり、またドタバタと走ってトッポは去っていってしまった。


「泣いたり笑ったりあっちこっち走り回って、忙しいやつだな王様のくせに」と苦笑したドモン。

「あたし直接聞いたけど、王になってからこんなに感情を出したのは初めてだって言ってたわ」トッポの去って行った方を見つめる女ボス。

「まあはっきり言ってしまえば、つまらなかったんだろうな。何もかもが。王を演じるだけの毎日みたいな感じで」

「だろうね」


仕事をした帰りに居酒屋に寄って、酒を飲んで酔っ払って帰る。

こんな普通のことすら出来ないのだ。


あの義父ですら、カールの屋敷を抜け出した時は大騒動となったほど。

国王ともなればそれ以上に自由はない。まだ22歳だというのに。


「なあボス」ドモンもトッポが去っていった方向を見つめたまま。

「なんだい?」

「今度あいつに会った時、一回くらいスケベな事してやってよ」

「な?!」「なんですってぇ!!」「うー!!」


いつの間にかドモンの真後ろに立っていたナナとサン。


「イテテ誤解だ誤解!!」

「訳はこってり絞ってから聞かせてもらうわ!」「はい!」

「わぁぁ!!」


ナナとサンに連れ去られていくドモンを見ながら、「まったく、本当に勝手な人だねフフフ」と女ボス達は苦笑し、馬車に残りの荷物を積み込んだ。




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