第32話

「結局魔石ってのはなんなんだ?魔導コンロとか冷蔵庫の仕組みがそもそもわからないんだ」とドモンが疑問をぶつける。


「うむ、まず魔石に同系統の魔力を与えるとその魔石の力が増幅するという事は知っているか?」

「知らないし、そもそも魔力が分からん。MPゼロだぞこちとら」


カールの説明が全く理解出来ないドモン。

解る人には申し訳ないが、気功術で「まず人の気の流れってあるだろ?」と言われた気分であった。



「で、そのコンロの仕組みはどうなってるんだよ。俺には魔力ないけど普通に使えるぞ?」

ドモンがこの世界で一番疑問に思っていたことだ。


「魔石に強い摩擦を与えるとその属性の効果が現れるのだ。コンロの場合火属性の魔石だ」

「それだとどうやって消すんだ?」

「消すも何も効果は一瞬でしかない。維持するには同系統の魔力を与えるか、同系統の魔石を近づけるしかない」


ドモンのもやもやしていたものが少しだけ晴れてゆく。


「ははぁなるほど見えてきた。中で魔石に何かをぶつけて一瞬火を起こし、もう一つの同系統の魔石を近づけたり離したりしながら火力の調整してるんだな?」

「そういう事だ。尖らせた鉱石をぶつけて着火させておる」

「あと火の魔石同士で近づけても燃え移ることはないんだな?ってことは火打ち石の上位互換ってとこか」


カールの説明でようやく納得がいった。

逆に皆が火打ち石の事がよくわからず、目の前でドモンのライターの火花を飛び散らせて見せて全員が納得した。

石自体が発火しないだけで、あとはそっくりだったのだ。


「となると冷蔵庫も?」

「氷の魔石を使用しておる。冷凍庫はより魔石同士を近づけているだけだな」


ドモンがヨハンに冷蔵庫の裏を見せてもらうとそこには小さなレバーのようなものが有り、下までレバーをカチンと下げると冷蔵が始まり、レバーの位置によって温度調節が出来るようになっていた。


「でも魔石の効果は永遠ってわけではないんだろ?」

「10年から20年くらいで魔石を交換ってところだなぁ。勿論その用途や使い方や魔石の大きさにも寄るが」

ドモンの質問にヨハンが答えた。


「便利なもんだなぁ・・・魔石自体が動力になるなんて」

「だがその魔石が高価なのだ」


カールの言葉に、以前ナナからこの世界で高価な物の話が出た時に『魔石』だと言ってたなとドモンは思い出す。それ故に冒険者という職業が成り立つのだろうと。



「なるほどわかってきた。それであと魔石の特徴とか何かあるか?」

「特に他にはこれといった特徴は思いつかぬが・・・」と全員が首を傾げる。

そんな中ナナだけがハーイハーイ!と手を上げる。


「火の魔石は水と氷の魔石を弾くよ。でも土の魔石には水と氷の魔石はくっつくのよ」と得意げに語った。

「ナナ、今言ってるのはそんな当たり前のことの話じゃないんだよ。少し静かに・・・」とヨハンが諌めていると、ドモンがガタンと立ち上がる。


「ちょ!なんだって?!磁石みたいにか??」

「そ、そうね。属性によって離れたりくっついたりするのよ・・・」

「ほ、他には?」

「雷属性は土に弾かれるが火には寄って行く。刺激を与えるとより効果は上がる」


ナナとカールが答えていく。

まさかそんな事にドモンが食いつくとは想像していなかった。

こちらの世界ではあまりにも当然の事なのだから。


磁石はこの世界にもあった。だが電磁石はない。

モーターには電気コイルが入っていて、タイミング良くS極N極を切り替えることによって回転力を生んでいるということは、ドモンもなんとなくだが知っている。

頭は悪くとも一応理系専攻だったのだ。


「なんか・・・」

「な、何か良い方法を思いついたのか?!」

「・・・出来そうでわからねぇな。理論上では出来そうなんだけどなぁ」


グッタリとうなだれてしまう質問したグラと答えたドモン。

「なんにせよ物がないと俺の頭じゃ無理だ。実際にやってみないと」

「魔石なら多少融通してやってもよい。あとどんな物を必要なのか私達にはわからぬからどうしようもない」

叔父貴族が気前のいい所を見せる。初めて会った時にはドモンの首をハネるとまで言っていたのに。


「何か作りたいならまず道具屋さんに行ってみたらどう?色々あるわよ?」とエリー。

「この街の道具屋ではどうにもなるまい。隣街の工房から仕入れた物を売っているだけだからな」とカールが否定する。


「そうなのかい?この店の自動で閉まるドアとか、便利な道具売っているのよ。助かるわぁ」

「それも隣街の工房で開発した物だな」


エリーとカールの会話を聞いていて、ドモンはふと気がつく。

「スイングドア・・・」

つかつかとドアまで歩いて蝶番の部分を見ると、そこには小さなバネが使われていた。

この世界ですでにバネを作っていた者がいたのだ。


「やっぱり居るんだろうな。異世界物の小説に出てくる都合のいい天才が」


薄っすらと希望の光が見えた。

いつかその隣街の工房に行ってみよう。

説明すれば「そりゃ簡単だ」とあっさり出来てしまうかもしれない。


「その隣街までどのくらいの距離なんだ?」とドモン。

「馬なら3日もあれば到着するぞ。馬車なら5日程度かね」とヨハン。

「冬でも行けなくはない距離であるな」とグラも口を挟む。


全然隣じゃねーなとドモンは思ったが、口には出さなかった。

自分の常識とはまるで違うのだ。距離感覚も移動速度も。


「ふ、二人で馬に乗ればきっとすぐよ」

「ナナと二人で乗ったら片道2週間はかかると思うぞ?」

「・・・・」


ナナとドモンの会話を皆疑問に思っていたが、事情を知っているカールだけはただただ呆れていた。二人乗り用の鞍だってあるのだから。


「ま、結局は馬車を完成させるのが先ってことだな」とドモン。

「そのあたりは貴様らに任せる。馬車のことに関してなら金の心配もしなくていい。とは言っても限度はあるからな?」とカールが釘を刺す。


「そのへんの常識くらいは持ち合わせてはいるよ。でもそうなると馬車に冷暖房なんかも付けても良さそうだな」


ガヤガヤとした店内で、この一角だけが静まり返った。

「え?なになに?」とドモンだけがキョロキョロしている。


「ヨハンよ、どこか静かな場所を貸してもらえぬか?」とカール。

「それでしたら二階のリビングにでも・・・ですがこの人数ではちょっと・・・」とヨハンが説明すると「護衛達は残って食事でも楽しんでいて良い。私達とドモンだけで良いのだ」とグラが答える。


結局ヨハンとエリーと護衛達は下に残り、貴族達数名とドモンと「私も行く行く!」と言ってきかなかったナナだけが二階に上がることとなった。


この世界の馬車には冷暖房がまだなく、それによって世界中の人々を救うことになるかもしれない革新的な技術となり得る話だったのだ。



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