第612話
「お、お風呂の天国ですぅ!」
想像していた何倍どころの話ではない。
湯けむりもあるが、まず奥の壁が見えない。
薄っすらと見える人の姿の大きさから察するに、200メートル以上は奥行きがある。
横幅も同じくらいあるので、例えるならドーム球場ほどの大きさ。
その中をたくさんの裸の女性と子供達が歩いていた。
サンには、それがまるで天国に見えた。
いくつもあるいろんな形の滑り台に、お湯の出る遊具、噴水、もちろんお風呂も十数種は用意されている。
軽食や飲み物を買えるフードコートのような場所まであり、皆裸のまま談笑していた。
「みんな裸の街に来てしまったみたいです・・・」
興味を持ったサンは一度お金を取りに脱衣所に戻り、ミルクを買って着席。もちろん裸で。
すると隣りにいた年配の女性に「お嬢ちゃんこれ食べるかい?フライドポテトっていうものなのよ。私達には多いから一緒に食べましょう?」と誘われた。
「はぅ~ありがとうございましゅ~・・あぁ~なんだかおかしな気持ち・・・」
「アハハ、お嬢ちゃんここは初めてかい?私も初めての時は戸惑ってタオルなんかで隠していたけど、慣れてしまえばどうってことないよ」
「なんなら裸になりに来てるようなもんだからね。開放的で気持ちいいわ」
「ちょっとあんた!脚は閉じなさいな!お嬢ちゃんも困ってるじゃないの」
「は、はひぃ~・・・」
おばさん軍団に圧倒されるサン。
ピッタリと脚を閉じ、カチコチに固まりながらミルクを一気飲み。
「え?!驚いた!お嬢ちゃん結婚しているの?!」
「そうなのです。あとお嬢ちゃんというか、私もうすぐ28に・・・」
「あらやだ!それはごめんなさいね」「じゃあもうその旦那さんと・・・しちゃってたりするわけ?」「旦那さん幸せ者だねぇ。こんな美人さんと毎晩楽しんじゃってアハハ」
下世話な話だけれども、なんだか楽しい。
こんな会話に入れるのも、結婚してこの人達と同じような立場になれたから。
「あのあの・・・まあ・・・私の体で楽しんでいただけているなら、嬉しいんですけど・・・ウフフ」
「旦那がスッキリして満足そうな顔してるのを見るってのは、女冥利に尽きるってものだねぇ」「そうそう」「うちは久しく見てないわねぇ。少しは私が面倒見てやんないとダメね」
身体が開放的になると、サンの心もつい開放的に。
はじめは体の前にタオルを当てて隠していたが、会話を終える頃には隠すこともやめた。
おばさん達に別れを告げたあと、頭にタオルを巻いて一つ目のすべり台へ。
「おねえちゃん早く滑ってよぅ」「そうだそうだ」
「下にいる子がいなくなってからじゃないと危ないのです」
「ちょっと男子ー!文句があるなら男湯に行きなさいよ!あたし知ってんだから。あんた達がスケベな目でこの人のこと見てんのを。8歳にもなったら絶対スケベ目的でしょ男子なんて!」
「お前みたいな女は興味ねぇよバーカ」「そうだそうだ」
「キィィィ!!なんですって!?」
「喧嘩はダメですぅ!皆さん仲良く遊びましょう!」
小学校低学年の子供達の面倒を見る中学生のようなサン。
サンはそれも楽しくて仕方がない。
一方その頃ドモンは浴場の広さだけではなく、施設の充実ぶりと男湯に入っていた女の子の様子に驚いていた。
向こうの世界で言えば高校生くらいの年齢の女の子が、普通に父親と一緒に風呂を楽しんでいたからだ。
ドモンも昔スーパー銭湯で、小中高の三姉妹が普通に男湯にいて驚いたことがある。
周りの人らはいつも見ていて馴れているのか、普通に挨拶を交わして会話をしていたのだが、高校生の方の女の子はどう見てももう大人の体つきだし、その下のふたりは絶対に見てはいけないものであった。サンとアイの方がまだずっとマシな方。
恐らく明確なルールはこれから決まっていくのだろうけれど、現時点では成人と認められる15歳未満の女子は、男湯に入っても良いということになっていた。男の子の場合は9歳以下まで女湯も可能。
広い浴場な上、入浴文化もまだ新しく、事故防止のためにそうなっているとか。
恥ずかしいとか、やらしいやましいとかは二の次で、安全面を最優先にしていた。
以前は男同士でも裸になるのを恥ずかしがっていたくらいなのに、一度吹っ切れてしまえばこの世界の方が凄かった。
・・・などと考えながら湯船のひとつに浸かり、ドモンは昨晩食べた例のキノコの効果が薄れるのを待っている。
これならばサンを連れて男湯に入っても平気だったのかもしれない。スケベなことを始めて追い出される可能性はあるけれど。
「お、遅くなりましたぁ!」
「いや大丈夫。俺も今さっき来たところだよ」
「御主人様もたくさんお遊びになられたのですか?サンは全部のお風呂には入れなかったんですけど、すべり台は全て滑ることが出来ました。あ、御主人様はサウナですね?女湯の方にも大きなのが3つもありましたし」
サンは太陽のような満面の笑みで、額の汗を拭き拭き。
「い、いや俺はひとつしか入ってないんだ。ツボのお風呂だけ・・・子供に『壺おじ』なんてあだ名を付けられるくらい入ってた」
「やはり連日私達にお付き合いをされて、お疲れになられていたのでしょうか・・・?」
「疲れてたというか・・・むしろ元気がなくなるのを待っていたというか・・・どうせならサンと一緒に入りたかったよ。サンに入りたかった・・・駄目だ駄目だ!変なこと考えてたらまた壺おじになっちまう」
「???」
浴衣姿のサンは可愛く美しく、大人も子供も皆振り向くほどだった。
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