第661話
「ファイト!」
「いくわよサーン!!コノヤロー!!」
「か、かかってきてくださーい!!イヤァァン!!」
プロレスのリングで戦うナナとサンに対し、大歓声が湧き上がる。レフェリーはシンシア。
集まった観客はなんと六万人。
観客席だけではなく、普段は一般人が入ることの出来ない闘技場内にも席を置き、コロッセオ内は人で埋め尽くされた。
銀貨一枚の立見席から、銀貨七枚のリングサイド席まで入場料は様々だが、全てを合わせると約金貨1800枚、日本円にして1億8千万円もの収入となった。
審判長の顔もがホクホク顔になるのも、当然の話だと言えよう。
「あーっとまたもやオッパイダー選手の攻撃!プリティーサン選手、まーったく歯が立ちません!」
拡声器を使用したドモンの実況が場内に響き渡る。
横の席には解説者として審判長を座らせた。
「プリティーサン選手が隙を見て後ろに回り込むも、大きなお尻に阻まれ、掴みかかることも出来ない!逆にお尻で弾き飛ばされてしまったぁ!」
「まるで大人と子供だ。体格差がありすぎるな」
「なるほどそうですか審判長!ではプリティーサン選手は、ここからどういった攻撃を見せれば良いのでしょうか?」
「足を取るしかあるまい。あの胸ならば、下に回り込めば必ず死角となるはず。そこをつくしかない。ふむ、やはりそれ狙っているようだ」
「はいはい!足を狙えばいいと!プリティーサン選手は出来るでしょうか?!」
ドモンが思っていたよりも、しっかりと解説業をこなす審判長。
「プリティーサン選手!オッパイダー選手の足を取り倒すことに成功!ここからどうするのか?!あーっと!!関節技をかけようとしたプリティーサン選手が、逆に倒されてしまったぁぁぁ!強いオッパイダー選手!プリティーサン選手の上に馬乗りになり、見下ろす姿はまるで・・・まるで・・・」
「???」「???」「???」「???」「???」
「まるで『人間発情期』のようだぁぁ!!腰を振っています!腰を振っています!スケベすぎる!」なにか上手いことを言おうとした結果、ドモンの頭に浮かんだのは『人間発電所』という有名な二つ名と、昨日の夜だった。
「あ、あとで覚えてらっしゃいドモン!!」サンの上に跨り、腰を振るナナ。
ところどころ、ドモンの言った通りに動くふたり。
観客達はドモンの実況が付いた試合に大興奮。そして少しの失笑。
時はドモン達がここへやってきた日の翌日、六日前まで遡る。
道場に集められた勇者パーティーとナナ達。そして審判長の子供である姉弟。
まずは相撲とプロレスのルールを徹底的に叩き込むところから始まった。
相撲の方はルールが単純明快で、練習の手伝いに来ていた他の格闘家達もあっという間に理解。
一番苦戦したのが廻しの作り方や付け方で、ドモンのうろ覚えの知識の中から、なんとか答えを導き出すのに皆必死。
ようやくそれっぽくなったのが、三日後の土俵が完成した時とほぼ同時であった。
その頃には相撲をやってみたいという力自慢の参加希望者に溢れ、いくつかの練習場に分かれて練習をするようになっていた。
同じ釜の飯を食い、技をお互い切磋琢磨で鍛え上げ、同じ屋根の下で眠る。
寝食を共にするそれらの道場は、愛着の意味も込めて『部屋』と呼ばれるようになった。
問題はプロレスの方である。
「な、なんだって?!」「アタイらに八百長をやれっていうのかい??ドモン様は」驚くウェダーとミレイ。
「だから八百長じゃなく予定調和だって。それに全部が全部そうじゃない。そういうのもあったり、技の受け合いにかけ合い、そして真剣勝負もあったり、力比べや我慢比べがあったり、その全部をひっくるめたのがプロレスなんだ」
「それらを全部ひっくるめてしまったのが、いわゆる八百長と呼ばれるものなのではないのですか?」シンシアの素朴な疑問。
「違うんだってば。ほら、俺と審判長の勝負だって、技をかけられる側とかけてやる側との勝負だっただろ?あれだって立派な真剣勝負だ。わざと技はかけたせたけど、勝負自体は八百長ではないからな」
「た、確かにそうだけど・・・」一般的な総合格闘技であるパンクラチオンしか知らないウェダーは、まだ納得できず。
「とにかく基礎から徹底的に叩き込む。技をかけるだけじゃなく、受ける技術もなければならないんだ。ナナとサンも頑張れよ?まあお前らは真剣勝負じゃなく、盛り上げ係として俺の言う通り演じてもらうだけだけどな」
「わ、私達にも出ろっての?!」「むむむ、無理ですぅ!」突然のことにナナとサンは大慌て。
「大丈夫大丈夫!どうせ途中で試合はメチャクチャになるから」
「???」「???」「???」「???」
ドモン以外全員が理解出来ないまま、プロレス修行は続いた。
ようやくドモンの意図を汲み取れたのは、試合前日の夜であった。
「何ちんたらやってんだよ!この雑魚どもがぁ!!」
突然リングに現れた謎の覆面プロレスラー。
試合中に他の選手が乱入することなど想像もしていない観客達は、騒然となった。
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