第24話

「それにしてもなんでドモンはそんなにお金を拒むの?」とナナがドモンに聞いてきた。

いくらその方が幸せだと言われても、くれるというものをそこまで拒む理由がわからない。

拒むどころか怒ってすらいたのだ。


「欲がないっちゃそれまでなんだけど、それにしちゃ異常だわな」というヨハンの言葉に「フム」と相槌を打つカール。

そもそも結婚資金が必要だという話も聞いていたので、カールは金貨を10枚出したのだ。



「身の丈に合わないあぶく銭は身を滅ぼすんだよ」



タバコに火をつけながらドモンが学生時代の思い出を語りだした。


「宝くじって知ってるか?」

「王都のような大きな都市にはある」

「運が良ければ大金が入るクジな。主に街の財政が厳しい時に行われるものだ」

「必ず胴元が儲かる上に、一攫千金も嘘ではないからな」


ドモンの話にカールが補足していく。


「で、俺が学生の時に働いていたところの客で、当たっちゃった夫婦がいるんだよ。こっちの金貨にして200枚ってところか」


「すごいじゃない!!さぞかし喜んだでしょうね」とナナが驚き「羨ましい話だねぇ」とエリーがあれ買ってこれ買って・・と買い物する物を考えている。ヨハンだけが「学生の頃があったのか」とニヤニヤしていた。


「まあ羨ましいよな。いつも仲のいい夫婦で子供もいい子で、やっぱり神様は見てるんだなぁと思ったよ」

「夫婦で旅行に行ったり家を建てたりしたのかしら?」とナナがドモンの顔を覗く。ナナも自分が当たったことの時を考えているようだ。


「どうなったと思う?」

「幸せになる以外何かあるのか?」ヨハンも不思議そうな顔。



「半年後に離婚して家族はバラバラになった」



ドモンの言葉に全員がしばし絶句。

「何があったのか知っておるのか?」と問うカール。


「ああ、まず訳のわからない親戚連中が山程押しかけてきて、金をせびっていった。それで3分の1から4分の1くらい金がなくなったそうだ」

「思いがけず大儲けした冒険者にもよくある話だわ・・・」とナナの表情が曇る。


「そして旦那さんの方が仕事を辞めた」

「当たったとはいえ、金貨2百枚は当選金としてそこまで多い方ではなかろう?」


もっと大きな金額の当選金を知っているカールが疑問に思う。しかも平民でも頑張れば働いて稼げなくもない金額だからだ。


「そうなんだけど、真面目に働いて一ヶ月で金貨2〜3枚位なのに、親戚名乗ってせびりに来た奴らが一瞬で金貨5枚位持っていくんだぜ?」

「そんな奴らのために一ヶ月半の稼ぎを持っていかれたらたまったもんじゃないな!」ヨハンが自分のことのように怒り出した。


「仕事を辞めて飲み歩くようになった旦那、子供の教育にお金をかけたい奥さん。バラバラになるのはあっという間だった」


自分の身に置き換えたのか「ひっ・・」と声を上げたナナ。

「そんな事があったんだよと半年後に旦那さんが寂しそうにひとりで店に来て話し、そして去っていって二度と来ることはなかった。いつも夫婦で来てたのにな」

それを聞き、誰も声を発せずにいる。


「頑張って働いて得た大金なら良い。でも働きに見合わない大金を得たり、訳のわからないあぶく銭は身を滅ぼす可能性がある。俺はそう思っている」

「だから怒っていたのね」とナナも納得。


「だがあの金は貴様の働きに見合う金だ。受け取ってくれ」とカールが頭を下げた。

「頭は上げなよ。あの金はヨハンのものだろ?俺はこの銅貨一枚で十分だ」とドモンが笑った。



「でもそれでよくギャンブラーなんてやってたわね?」

「うんまあ渋々というか・・・いや甘えだろうな。結局遊んで暮らしたいという俺の甘えだ」

そんなドモンの答えを聞いて、ハッとナナが脚のことに気がつき「あ、ごめんなさいそんなつもりじゃ・・・」と落ち込み暗い顔。

カールもドモンの脚のことを聞き、昨日のドモンの様子について納得していた。


「ギャンブルも勝った負けたのうちはいいけれど、生活するために勝ちだけ追い始めたら、もうギャンブルじゃなくそれは仕事になるんだよ。それも最低のな。そうなるともうつまらないったらありゃしない」


そう言うとおもむろにドモンが二階に上がって、ナナの部屋からトランプを持って降りてきた。

異世界にもトランプのようなものがあったのだ。絵札はなかったが。

ポーカーのようなゲームもあった。


「んじゃ・・」と馴れた手付きでカードをシャッフルし、全員にカードを配ってゆく。

よくわからないまま全員が突然ポーカーに参加することになり、端からカードを交換していった。

「3枚ね」

「俺は2枚だ」

「フム・・・3枚だ」

エリーとヨハンとカールが交換を終える。


「んじゃ私はねぇ」

「ナナは4枚だ」

「え?やだよ2つ揃ってるのに。あ!言っちゃったじゃないバカ!」

「ナナは4枚な」

「なんでよ~!もう勝手なんだから・・・」と渋々4枚のカードを捨て、ドモンがカードを4枚渡す。

貰ったカードを開くなり「え・・」とナナが小さく叫んだ。


「さあ賭けた賭けた!本当に賭けるわけではないから、気分だけそんなつもりでな」とドモンがパンパンと手を叩く。


「私は降りるよ。勝てそうにないわぁ」とエリー。

「俺は銀貨3枚だ」とヨハン。

「お?強気だね」とドモンが笑うと「さあどうかな?」ととぼける。


「金貨5枚だ」ともっと強気な態度のカールは「本当に賭けてもよいのだがな」と不敵な笑みを見せた。


それに対してナナが小さく「本当に賭けるのは止めた方がいいですよ子爵様・・・」と囁いた。

「ナナはいくら賭ける?」とドモンが聞くと「じゃあ金貨100枚で」と笑うナナ。


「降りるかい?カール」

「じゃあ私もそこまで出そう」と熱くなるカール。

ナナはおでこに手を当てあちゃ~という顔。


結果はエリーがワンペア、ヨハンが3カード。

「私はフルハウスだ」と自慢げにカードを開くカール。

「おぉ!さすがカルロス様だ」とヨハンの声に満更でもない顔を見せた。

最後にナナが申し訳無さそうに「あの・・・Aの4カードです・・・」とカードを開いてみせると、「イカサマではないか!」とカールがカードをテーブルに投げ捨てた。


「じゃあもう一回」


目の前で確実にシャッフルをしてカードを配るドモン。

配り終わるなり「ドーモーンー・・・」とジトッとした目でナナがドモンを睨みつけた。

ナナの手札にはすでに4枚のAが配られていたからだ。


ナナがカードの開いて、ポイッとみんなの前に投げて余興は終了した。

「・・・とまあ、俺が配る限りナナにはAが4枚配られ続ける。なんなら最初のカールのフルハウスも俺が配ったものだ」

「フン!やられたわ」と腕を組むカール。


「こうなるとギャンブルじゃないだろ?『ギャンブルで確実に勝つ』って大なり小なりこういうことなんだよ」とドモン。

「賭けというより詐欺みたいなもんだもんねぇ・・・」とエリーが困った顔。


「誰かが失った金を力ずくで奪うことが虚しくなって、ギャンブルは辞めた。遊び人が遊び方を忘れたんじゃ話にならない」


「で、仕事もギャンブルも辞めて、いろんな女の家をフラフラ渡り歩いてるうちに異世界にまで渡っちまったってわけか」とヨハンが笑う。

「まあそういうことだ」とドモンが頭を掻いていると「もう渡らせないからね!」とナナが怒った。


「貴様ほどならばいくらでも相・・・」というカールの発言の途中で「子爵様!駄目ですよホホホ」とエリーが遮った。

婚姻によってドモンを手の内に入れようという魂胆は、あっという間にエリーに見抜かれ邪魔された。

「フッ」とカールとドモンが笑うが、ナナとヨハンは目を合わせ首を傾げていた。



そこへ「よぉヨハン!ドモンはおるかね」とようやくファルがやってきた。

当然腰を抜かす事となり、入口付近にお尻の跡がひとつ増えることとなった。


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