第563話

数分後、十人ほどの憲兵達が自動車の真横にずらり。

シンシアとアイはその様子をじっと見守りながら、いつでも自動車を動かせるように身構えていた。


「どうやら戦う意志はないみたいね。剣を抜く様子もないし」

「そのようですわね。さてどうしたものか。ワタクシの裁量で処分しても宜しいかしら?」

「処分って、絶対にあなた全員殺す気でしょ。やめてよそんな物騒なこと。もうやだやだ!同じお姫様でも白雪さんと正反対ねあなたの性格。ちょっとむっつりスケベなところは似てるけど」

「う、うるさい!黙りなさい!そういうあなただって、寝たふりをしてドモン様に裸を見せたり、隙あらばおこぼれを貰おうとしているのを、ワタクシが気が付かないとでも思いまして?!」

「ちが、違うわよ!そんなこと言ったらあんただってさっき寝る時、とんでもないこと言ってたわよね?!ングググ・・・」


あまりに卑猥なふたりの会話に、への字口で耳を塞いだサン。

当然先程のふたりのその会話も聞いていたが、ドモン本人が聞けばきっと激怒するような内容であったため、サンは知らないふりをした。


赤い顔で助手席のアイの口を必死に塞ごうとしているシンシアのもとに、騎士二名がやってきて、運転席のドアの前で片膝をつき頭を下げた。


「失礼いたします!我らカルロス領にて・・・」

「挨拶はよいですから、早く要件を言いなさい」

「ハ、ハッ!」「ハイ!」


騎士の言葉を遮るように、冷たい目をしたシンシアがふたりをひと睨み。

庶民では到底出せない王族としての風格に、騎士達は一発で飲まれてしまった。


まるで冷たいナイフを喉元に突きつけられたかのよう。

そんな事を言ってはいないはずなのに「場合によっては、その首はないと思え」と言われた気分。


カールの義父とも違うある種独特のオーラがあり、その覇気に気圧された騎士達は拳をグッと握りしめてそれに耐えた。その側に並んでいた憲兵達は、思わす数歩後退り。


「シンシア!お話くらい聞いて上げなさいってば!」さっきまでとは別人のような様子のシンシアに焦るアイ。

「聞く耳くらいは持っておりましてよ。ですから早く要件を言いなさいと言っているのです」


「ハッ!カルロス様からのご伝言がございまして、どうかドモン様にお目通りをと・・・」

「ドモン様はたった今就寝されたところですわ。斬られた箇所がまだとても痛むのでしょう。なかなか寝付けない様子でしたが、今ようやく寝付けたのです。ワタクシが何を言いたいかは、皆様もうおわかりですわね?」

「は、はい」


実際はベッドに入って、たったの三秒で寝た。


「全員そこの草むらにでも座ってお待ちなさい。ドモン様がなされたように・・・ですわ」

「はい」「はい」「はい」「はい」


道沿いにある草むらに、横並びに地面に両手と頭をつけ正座をしていく騎士と憲兵達。つまりは土下座である。

その異様な光景に、周囲の者は息を呑み、ただ見守っていた。


「頭は上げなさい。ドモン様は頭を下げられるのを嫌がりますの」

「はい・・・」「はい」


結局土下座は元の正座へ。

ただ正座に慣れない者にとっては、体重が分散される土下座の方が余程楽。


そのまま三時間が経ち、朝を迎えた。



「ふぁ~もう朝か。あれ?今日のナナは汗臭くないな。それに随分と硬い・・・ああ、背中か」

「背中じゃないです御主人様・・・はうっ!そ、そこを噛んじゃ・・・」

「あと少しだけあと少しだけ」

「ちょっと待って・・・あぁ引っ張っちゃダメ!オホォォ?!そこは違いますぅ・・・」


寝ぼけたドモンに抱きつかれたサン。何をされたのかは分からないが、とにかく幸せの絶頂である。

ドモンの後ろには、大の字で寝ているナナ。


「ちょっとあなた達、何をやってるのよ!みんな外であなたを待ってて、大変なことになってるんだから!」

「う~ん・・・」「アイさんお願い、もう少しこのままで」

「いい加減にしなさい!!」


アイが布団をガバっと捲ると、全裸のナナが大の字に、そして半裸のドモンとサンが抱き合っていた。

ドモンが半裸なのは、何度か薬を塗っていたため。

サンが半裸なのは、寝ぼけたドモンに上着を捲られ、下着を下ろされたためだ。

首に巻き付いた服と足首に巻き付いた下着で、サンは身動きが取れない状況。


「ハァ~あなた達ね・・・ナナが裸なのはわかるけど、あんた達まで何しようとしてんの!」カンカンに怒るアイお母さん。

「うー寒い!」「あ・・・」


ドモンはサンをポイッと投げ捨て寝返りをうち、裸の体から湯気が出ているナナに抱きついた。

ナナが色々な肉の隙間に汗をかくということはアイももう知っていて、裸で寝ることがあるのも理解していたし、逆にアイが寝ているナナの服を脱がせて、汗を拭いたこともあった。


尚、ナナ曰く、冷え性に悩んでいるとのこと。

「手先が冷える度に、胸の下や股の間に手を突っ込まなくちゃならないの」と、愚痴を言っていたのをアイも聞いた。


「う~アイさん・・・」恨めしそうな顔をしながら服を直したサン。

「もうほら早く服着なさい!外が大変なのよ!」

「ふぁあああ・・・もう何だってんだよアイちゃん。中途半端で起きちゃったから、妙にアレが元気になっちゃってスッキリしてから・・・」「はいっ!」

「ダメよバカ!!いいから早く外に来て!!」


ドモン達が外に出ると、額に脂汗を滲ませた苦悶の表情で男達が正座をしており、シンシアが腕を組みながら騎士ふたりを睨みつけていた。


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