第26話
二日酔いの朝を迎えるドモン。
昨日の騒ぎでウイスキーを一気に減らしてしまい、本格的に買い出しの事を考えなければならなくなってしまった。
それにはまずファルの馬車の改造を早く済ませなければならない。
なぜこんな事になってしまったのかとドモンは猛省。
その反省も踏まえ、この日は大工の家で集合する事に。
大体の場所はカールが分かると言っていたので、カールがドモン達を迎えに来る事になっていた。
ナナに支えられながら水浴びに向かうドモン。
「熱い風呂入りたいなぁ。これもどうにかしないとならないな」とナナに体を流してもらいながら考える。
異世界物の小説で風呂がないのはよくある話だったので、最初に水浴びの風習の事を聞いた時にそこまで驚きはしなかったが、いざ本当に水浴びしてみると、日本人のドモンにはかなり辛いものがあった。
ナナが体を流してくれていなければ、とっくにドモンの心は折れている。
根性なしだが、スケベ根性だけは人一倍あると自覚していた。
「今はお風呂よりも馬車よ?買い出しも大切だけど、調味料の作り方調べないとドモンだけじゃなく、ジャックやカールさんも困るのよ?」
「分かってる。特にカールは共犯者みたいなものだからな」
ナナとドモンにそんな事を言われているなんて想像もしていない、その『共犯者』が早速やって来た。
約束の時間よりもかなり早めである。
ドアを開け「ドモン!」と一言だけ叫んだ。
まだ濡れた髪のまま階段を下りてきたドモンが「年寄りは朝が早すぎるよ」と、カールに冗談混じりの文句。
「貴様がだらしないだけだ」
真面目に返答するのがカールらしいところである。
「カール、おにぎりと味噌汁でいいか?」
「・・・フム、何かわからぬがそれで良い」
そこへドタドタと階段を駆け下りてくる音。
階段を斜めになりながら降りてきて「ドモン私も食べる!あ、カールさんおはよう」と、昨日まででは考えられないようなフランクな挨拶をしたナナ。
「ナナもカールと呼び捨てで良いぞ」
「だって年上じゃない」
「ドモンと同じであろうが!」
「あら?」
天然のナナの相手をするカール。
先程まで行っていた屋敷での堅苦しいやり取りが嘘のようで、なんとも居心地が良い気持ちについ笑みが漏れる。
そこへエリーも階段を斜めになりながら降りてきた。
エリーの場合はほぼカニ歩きと言っても過言ではない。
当然これも足元が見えない『巨乳さんあるある』である。
「あらカールさんおはよう。随分早いのねぇ」
「ドモンの朝食を食べようと思ってな」
「フフ、だいぶ本音で語ってくれるようになったじゃない」
「ドモンの周りの連中に本音を隠したところで、すぐにバレてしまうからな。ヤツが平気でバラしてしまうから」
カールがそう言うと「本当よね。あの人配慮はしても遠慮はしないから」と笑うエリー。
「言うほど配慮してるかね?」と言いながら、ヨハンも階段を下りてきた。
「してるわよぉ」とエリーが笑顔でぴょんぴょん跳ねた。
「みんな揃ったな?ほらおにぎりと味噌汁だ。豚汁よりもあっさりしてるぞ。ネギしか入ってないせいもあるけれど」
そう言ってカウンターに横に並んで座っていた4人に、順番に食事を出していく。
「ドモンのは?」
「俺は厨房で先に食っちまった」
ドモンと一緒に食べようと思っていたナナが「ずるい」と文句を言いながら、おにぎりにかぶりついた。
「んー・・んぐ・・・やっぱりこれ美味しい!」とドモンの注意を思い出し、キチンと飲み込んでから話すナナ。
「貴様の料理の腕前は一体どうなっておるのだ・・・」
屋敷にいるコック達が可哀相に思えるほどドモンはレベルが違う。スープもいくらでも飲めてしまいそうな味わいだった。
そして昨日も食したこの米。これが既に桁外れだとカールは頭を悩ませる。
領主として、この米を街の皆が食べられる世にしたい。
やはりどうしてもそれを考えてしまうのは仕方のない事であった。
「料理の腕は関係ないぞ。ふりかけ混ぜただけだしな」
「ふりかけとはなんだ?」
「お米に混ぜるだけでこんな感じになっちゃう魔法の粉みたいなもんなのよ」
ドモンとカールの会話にナナが割って入ると、ドモンがふりかけを持って厨房から戻ってきた。
「これだよ」とふりかけの袋を見せながらシャカシャカと振ってみせる。
「これをかけて混ぜるとこうなるというのか・・・」
受け取ったふりかけと食べかけのおにぎりを持って、交互に見比べるカール。
このふりかけの種類がいくつもあるとドモンから聞き、ドモンの住んでいた米の国の底力に改めて驚いた。
「まさに米の国、いうなれば『米国』といったところか」
「そうなるとまた別の国になっちゃうんだよなぜか」
ドモンが苦笑。
「俺がいたのは日出ずる国、『日本』という小さな島国だ」自慢げに格好良く紹介。「ライジングサンなんて格好つけた名前も勝手に付けちゃうお茶目な国だ」と補足した。
「私、一緒に行こうとして行けなかったんだ」とナナ。
「一度見てみたいものだな」というカールにスマホの中の画像を見せようとしたが、何故か画像が真っ白になっていて見せることが出来なかった。
「これはその国の道具か」とヨハン。
「俺の国だけじゃなく、世界中で使われてる通信機器だ。遠くの人と話せたり、写真・・・つまり風景とかを切り取って保存することも出来る」
そう説明して実際にドモンがナナの写真を撮ってみせる。
この世界で撮った写真は問題なく見ることが出来た。
元の世界に戻ったら、今度はこの写真だけが見えなくなってしまうのでは?と予測しつつ、今撮った写真をドモンはみんなに見せた。
「ほら」
「・・・・」
驚きを通り越して言葉が出ない一同。
一瞬で『あまりに精巧なナナの肖像画』が完成してしまったからだ。
「驚きついでにこれもやってみようか。ナナとエリー、ちょっとそこでぴょんぴょんしながら何か喋ってみてよ」とドモン。
椅子から立ち上がり、少し後ろに二人が並んで立ってぴょんぴょんしながら「ドモン好き~」「私はヨハンが大好きだよぉ」と喋って「これでいい?」と赤い顔をしながら戻ってきた。
「なんだよ二人共」と動画の撮影を終了しながら、ドモンがまた苦笑。
「だって急に喋ってって言われても、あれ以外思いつかなかったんだもん」
「私はナナにつられちゃったわぁ」
ナナとエリーが椅子に座りつつ「他の人には見せられないわね」と笑うが、「見せられちゃうんだなこれが」とドモンが動画を再生した。
『ドモン好き~』『私はヨハンが大好きだよぉ』
バインバインと4つの丸い脂肪の塊を跳ね散らかしながら、ニコニコと飛び跳ねているナナとエリーが映る。
そこにうっかりその跳ねる双丘に目が行ってしまっているカールと、少し呆れながらおにぎりを食べるヨハンも映り動画は終わった。
「うわっ!私の声!!」とナナ。
「な、なんなのだこれは!!」と勢いよく立ち上がり、ガターンと椅子をひっくり返してしまうカール。
「お、俺が中にいる・・・」とヨハンが恐ろしげに呟き、「あらやだ!すごいおっぱいねぇ」とエリーが呑気に笑った。
「ねえもう一回見ること出来る?」とナナが催促してきてドモンが何度も見せた。
「これが異世界の技術力であるか・・・途方も無いな」とカールが椅子に座り直す。
「前にドモンがこっちの世界は人が空飛んでないの?みたいなこと聞いてきて、私思わず笑っちゃったけど、なんか納得できたわ」とナナ。
それを聞き絶句する三人。
「人が空を飛ぶというか、空を飛ぶ乗り物に乗るんだよ」とドモンは説明したが、やはりそう言っても皆想像すらできないらしい。
あまりに世界が違いすぎた。
「ドモンよ・・・いつかこの世界もそちらのようになれるのか?」
「技術者でもない俺にはわからないしそんな力もないけれど、少しくらい手助けはしたいと思ってるよ。それより・・・」
反対にドモンもカールに質問したが、やはり発展を妨げる神罰的なものがあるわけではなく、話を聞く限りただただ時代背景がずれているだけのようだった。
「それにしても・・・ねぇ?」とジトッとした目でカールを睨むナナ。
「カールさんもおっぱいが好きなのねぇ」とエリー。
「なかなかのスケベさんだなこの街の領主は」とドモン。エリーの「も」というのが気になったが、ここは知らない顔をして流す。
「そんなことはない!」
「ここに動かぬ証拠、いや『動く証拠』が残ってるからなぁ」と笑ったヨハン。
「き、貴様ら・・・要求はなんだ・・・」とカールが観念してうなだれた。
「ドレス!お屋敷にあるドレスをいくつかください!」とナナとエリーがカールに懇願。
「貴様らの胸が収まるドレスなど屋敷にないわ!」と開き直ったカールが大セクハラ発言。「ひどーい」と女性陣から不満の声が漏れる。
作ってやれないことはないがとカールが言おうとしていたところに、ドモンが割って入る。
「ドレスは俺が用意するからいい。それよりも新しい馬車の試作が出来たら俺達にくれないか?」
「フン、脅されなくても初めからそのつもりであったわ」とカールが鼻息を荒くした。
「これで他の街にも行けるし、ファルに頼まなくても買い出しにも行けるな。ついでに醤油と味噌の作り方も調べてこれるよ」とドモンがうっかり口を滑らすと、それを聞いたカールが「貴様やはりか。そこらの貴族連中よりも食えない狸だな」と呆れていた。
「やはりってことはなんとなくそんな気がしてたんだろ?それに付き合った時点でカールも共犯だからな」
「何が共犯だ」と文句を垂れるカールに、「これもあるしな」とドモンが動画をまた再生。
「ええいそれを止めろ!あやつらにその件を誤魔化し通せばいいのであろう!」
「ありがとうございまーす領主様ー」とドモンがお辞儀。
食事を終えて大工の元へ、カールとドモンとナナが向かった。
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